元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「バタアシ金魚」

2006-08-08 06:53:38 | 映画の感想(は行)
 90年作品。人気マンガの映画化で監督の松岡錠司はこれがデビュー作だった。

 高校の水泳部に所属する苑子(高岡早紀)に一目惚れしたカオル(筒井道隆)は泳げもしないのに水泳部に入り、猛然とアタックを開始。相手の気持ちがどうなのかなんてことはまったくおかまいなし。挙げ句の果ては「オリンピックに出てやる!」と豪語する始末だ。それでいて彼は苑子以外にはまったく調子がいい。苑子の母親に歯の浮くようなおべっかを言い、味方に引き入れるなんてのは序の口。ガールフレンドには都合のいいときだけバイクを借りて毎朝苑子を迎えにいく。

 まったくとんでもない主人公である。好きになったら命がけ、ということはわかるが、ちったあ照れとか恥じらいとかを感じたらどうだっ、と言いたくなる。しかし、これがちっともイヤ味にならないのは、当時新人だった筒井道隆の魅力につきるといってもいい。

 いっぽう、苑子にとっては好きでもない男につきまとわれ、迷惑な話である。ついには過食症になってブクブク太ってしまう(このシーンはスゴイ)。一言でいえば男の側の片思いである。そんなに激しく迫ると逆効果だ、と思うが、苑子にしたってあんなに嫌わなくてもいいのにと思ってしまうのは私だけだろうか。「あんたは女のくさった奴のケツふく紙よ!」なんて言われたらショックだよなー、やっぱり。

 でもこの映画は恋愛がどうのこうのということをテーマには据えていないと思う。この二人を恋人同士と呼ぶのにはちょっと幼い。それよりか一方的に好意を寄せるカオルと徹底的に嫌ってみせる苑子の姿を通じて若さの持つひたむきさ、あこがれ、ゆらめきなどを描いている。

 それを示すのは美しい映像である。ロケ地は千葉県某所らしいが、街中にはモノレールが走っていて、このモノレールってのがいわゆる「ぶらさがり式」で実に不思議なハイテックな雰囲気を形成している。それでいて登場人物たちの家は典型的な田園地帯にあり、自然の風景が実に効果的だ。そして映画の季節は夏だ。きらめく太陽の光、風の匂い、夕暮れ時の雲の色、長い夏休み、そしていつかは終わる夏休み。圧巻は水中撮影の見事さで、カメラワークがじつに優秀(撮影:笠松則通)。観る価値十分の佳作である。
コメント
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