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元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「タイムカット」

2024-11-17 06:20:21 | 映画の感想(た行)

 (原題:TIME CUT)2024年10月よりNetflixから配信されたSF編。タイムリープをネタにしているが、プロットには随分と穴がある。そもそも、設定からして納得出来ない点が散見される。ならば面白くないのかというと、そうでもないのだ。展開はテンポが良くて退屈しないし、キャストも十分機能している。カネ払って映画館で観たら腹も立つだろうが(笑)、テレビ画面だと気軽に付き合える。

 主人公の女子高生ルーシーが住む田舎町(ロケ地はカナダのマニトバ州のウィニペグ市郊外)では、2003年に未解決の連続殺人事件が起こっている。彼女の姉サマーも犠牲者の一人だった。ある日、納屋に設置された怪しげな機械に接触したルーシーは、2003年にタイムスリップしてしまう。そこは件の惨劇が起きる数日前で、サマーも健在だ。何とかして姉の命を救うべく、ルーシーは奮闘する。

 そもそも、簡単にタイムトラベルが出来てしまうメカが無造作にあんな場所に置かれていること自体が噴飯ものだ。両親の外観や振る舞いには、2つの時間軸で大して時の流れを感じさせないのもおかしい。父親は核エネルギーを扱っているらしい怪しげな大手企業に勤めているのだが、そんなアブナい会社のプラントが住宅地のすぐ近くにあるというのは失当だろう。

 肝心のタイムパラドックスの処理にしても、かなりいい加減で御都合主義に近い。それでも、シリアルキラーに主人公たちが追いまくられる段になると、けっこう盛り上がる。事件が発生する日時は分かっているのだが、何とかしようとするたびに障害が立ちはだかるという段取りは型通りだが悪くない。そして犯人は意外な人物で、その動機も強引ながら納得出来るものになっている。

 脚本にも参加しているハンナ・マクファーソンの演出は手堅く、91分という短い尺も相まって冗長な面を見せない。ルーシーに扮するマディソン・ベイリーをはじめ、アントニア・ジェントリーにグリフィン・グラック、マイケル・シャンクス、レイチェル・クロフォード、ミーガン・ベストといった顔ぶれは馴染みは無いが、皆良くやっていたと思う。それにしても、こんなシチュエーションの映画に接するたびに、あの「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズは実に良く出来ていたものだと改めて思う。
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「トラブル・バスター」

2024-11-11 06:26:10 | 映画の感想(た行)
 (原題:STRUL )2024年10月よりNetflixから配信されたスウェーデン製のサスペンス編。面白い。何より筋書きがよく練られている。ヒッチコック映画でもお馴染みの“追われながら、真犯人を突き止める話”という普遍性の高い基本線をキッチリとキープしつつ、散りばめられたネタを上手い具合に回収。キャラクター設定も申し分ない。観る価値はある。

 主人公のコニーは,ストックホルム郊外の大型家電量販店に勤務している冴えない中年男。離婚した元の妻には未練たっぷりだが、彼女はすでにエリートパイロットと再婚していた。小学生の娘とたまに会うことだけが彼の唯一の楽しみだ。ある日、配達先でテレビを設置している間に殺人事件が発生。犯人と間違われて逮捕され、有罪判決を受け、服役するハメになる。ところが刑務所内で密かに進行中だった脱獄計画に偶然関わってしまったコニーは、思わぬ形でシャバに出ることになり、自らの無罪を立証しようとする。



 悪の首魁は麻薬組織なのだが、それに加担するのが警察内の腐敗分子で、捜査に紛れてコニーを抹殺しようとする。対してコニーは顔見知りだった警官のディアナの助けを得て危機突破を図る。主人公が電器店のスタッフであるという設定が出色で、重要証拠であるスマートフォンや大型テレビの扱いをはじめ、その方面のスキルに通じていることが事件の展開に大きく影響してくる。

 刑務所内にはすでに外部と繋がるトンネルが掘られていたというモチーフこそ無理筋だが、それ以外はプロットは強固に構築されている。ジョン・ホルムバーグの演出は闊達かつ手堅い。展開はスムーズで淀みが無く、サスペンスの盛り上げ方も上手い。特にクライマックスのホテル内でのチェイスには瞠目させられた。また、随所に効果的なギャグが挿入されており、これが作劇にメリハリを付けている。

 主演のフィリップ・バーグは当初はショボいのだが、映画が進むごとに応援したくなるほどイイ男に見えてくる(笑)。ディアナに分するエイミー・ダイアモンドは、失礼ながら普通の娯楽映画ではとてもヒロイン役に選ばれないほどの太めの外観だが、愛嬌たっぷりで魅力的だ(キャスティングの妙である)。エヴァ・メランデルにモンス・ナタナエルソン、デヤン・クキック、ヨアキム・サルキストといっ顔ぶれは馴染みは無いものの、皆的確な仕事ぶりを見せる。エリック・パーションのカメラによるストックホルムの風景も美しい。
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「天守物語」

2024-09-13 06:29:33 | 映画の感想(た行)
 95年松竹作品。公開当時に“歌舞伎も知らず泉鏡花も読まない連中の場違いな批評なんて気にする必要はない”ということを、某雑誌で某評論家が書いていたようだが、こんなことを平気で言う者は映画を軽んじた能天気な御仁だったのだろう。歌舞伎も鏡花も知っていなければこの映画を観る資格はないとでも言いたいのだろうか。歌舞伎の“カ”の字も知らない観客をも圧倒させるような娯楽性を獲得しようとするところに、映画の存在価値があるのではないのかな。

 さて、5代目坂東玉三郎の3作目の監督作(ちなみに第1作は91年製作の「外科室」で、2作目は93年の「夢の女」)は初めて自身が出演し、泉鏡花の戯曲を映像化している。魔性のものが棲む姫路城の天守閣の主・富姫(坂東)と若侍(宍戸開)の関係を描く。



 94年の上演版を忠実になぞったとのことだが、大部分は舞台版とやらにおんぶに抱っこのものでしかないと想像する。これは舞台の再現に過ぎず、映画としての発想も工夫も何もない。舞台版を観ればこの映画の存在理由はないと思われる。いわば舞台版の宣伝用フィルムではないか。

 それにしても、セリフまわしから演技まで、これほど映画と合っていない内容も珍しい。映画を見慣れている人なら、一見して“こりゃおかしい”と思うはずだ。舞台らしい展開や仕掛が、映画の面白さとして何も機能していない。言い換えれば、これを見ておかしいと思わない作者の神経が映画向けでないのだ。

 とにかく、作者には“小津安二郎監督の歌舞伎のドキュメンタリー映画でも見て勉強したら?”とでも言いたくなった。脇を固めるはずの宮沢りえや隆大介も、何やら手持ち無沙汰な感じだ。なお、本作の評判が芳しくなかったことからか、玉三郎はこれ以降は映画演出から手を引いている。賢明な判断だったと言うべきかもしれない。
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「ディヴォーション マイ・ベスト・ウィングマン」

2024-09-07 06:25:16 | 映画の感想(た行)
 (原題:DEVOTION)2023年1月よりNetflixから配信。アメリカ海軍初の黒人パイロットと、彼の僚友である白人パイロットとの友情を描く実録映画。これは出来れば映画館のスクリーンで観たかった。それだけ映像に訴求力がある。正直、作劇は上出来とは言い難いが、某「トップガン」シリーズとは違って不自然な展開が見られないだけでも数段マシだ。

 1950年、ロードアイランド州のクォンセット・ポイント海軍航空基地に赴任したトム・ハドナー大尉は、同僚となるジェシー・ブラウン少尉と出会う。ジェシーは米海軍初の黒人パイロットで、腕は確かだが日頃から人種差別に悩まされていた。最初はぎこちなかった2人の関係だが、訓練を通して互いの距離を詰めていく。やがて朝鮮戦争が勃発し、彼らが属する機動部隊は日本海に展開。北軍に占拠された半島のエリアを奪還するという、困難な任務に挑む。



 上映時間が約2時間40分というのは、このネタでは長すぎる。そもそも、余計なシークエンスが多い。代表的なものは主人公たちがフランスのカンヌに寄港して、そこで人気女優と知り合った後にカジノ会場に繰り出すあたりや、そこで他の部隊員と一悶着起こすシークエンスだ。こんなのは丸ごと削って構わない。ジェシーの家族とトムとの触れ合いも、タイトに切り詰めて良かった。

 しかし、それら難点があっても本作には魅力がある。それはまず飛行シーンの素晴らしさだ。トムたちが搭乗するのは、F4Uコルセアというレシプロ単発単座戦闘機である。これが見た目が実にカッコ良く、前半に編隊を組んでロードアイランド州の海岸沿いを飛行する場面の美しさは特筆ものだ。空母への着艦場面もスリリングだし、朝鮮での空戦シーンは手に汗握る迫力だ。

 加えて、終盤近くの展開は戦争の悲惨さが強調され、忘れられない印象を残す。またエピローグではハドナー家とブラウン家の交流は今でも続いていることが示されて、胸が熱くなった。J・D・ディラードの演出は冗長な部分もあるが、全体としては及第点だろう。

 主演のグレン・パウエルとジョナサン・メジャースは好調。クリスティーナ・ジャクソンやダレン・カガソフ、ジョー・ジョナスといった他のキャストも万全だ。なお、カメラマンは現時点でアメリカ人の撮影監督ではトップクラスの実力を持つであろうエリック・メッサーシュミットで、ここでも流麗な仕事ぶりを披露している。
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「デッドプール&ウルヴァリン」

2024-08-31 06:26:15 | 映画の感想(た行)
 (原題:DEADPOOL & WOLVERINE)20世紀FOXがディズニーに買収された件を茶化しているあたりは面白かった。ただ、それ以外はまったく楽しめない。要領を得ない話の連続で、観ているこちらはどう対応して良いか分からず、出るのは溜め息だけ。前作(2018年)のヴォルテージが高かっただけに、残念でならない。

 アベンジャーズへの加入を希望したものの失敗したデッドプールことウェイド・ウィルソンは、ヒーロー業を引退して中古車セールスマンとして平穏な生活を送っていた。ウェイドの誕生日、時間変異取締局(TVA)のエージェントたちが自宅に押し入り、彼は連行されてしまう。TVA幹部のミスター・パラドックスによると、ウェイドたちが存在する時間軸において最も主要な存在だったウルヴァリンことジェームズ・“ローガン”・ハウレットが死亡したため、時間軸自体の消滅が迫っているという。



 ウェイドをTVA側に引き入れた後に分岐時間軸の剪定を敢行しようとしているパラドックスに賛同できないウェイドは、パラドックスのタイム・パッドを奪うと、別のマルチバースからローガンを引っ張ってくる。これに対してパラドックスは2人を虚無の世界(ヴォイド)に転送する。

 マルチバースという概念を採用してから、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)のクォリティは低下していると思う。コアなマニアは喜ぶのかもしれないが、一般の観客は置き去りにされる。しかも、配信番組を含めた関連作品をチェックしないと分からないモチーフも遠慮会釈無く挿入され、ますます“一見さん”にとって敷居の高いシャシンになっている。

 ウェイドは相変わらずの口八丁手八丁だが、前回からネタの繰り出し方もアクションのパターンも進歩しておらず、あまり盛り上がらない。終盤の“各界デッドプール全員集合”の場面も、果たして必然性があるのか疑問だ。そもそも、ウルヴァリンの話は「LOGAN/ローガン」(2017年)で区切りよく終わっていたのではなかったか。いくら多元時間軸だからといって、結了したエピソードを強引に掘り起こす筋合いなど無いと思う。

 監督ショーン・レヴィの仕事ぶりは、同じくライアン・レイノルズと組んだ「フリー・ガイ」(2021年)と比べて精彩が無い。やっぱりアメコミ物などの枠組みが確定した企画では、マッチしない演出家もいるのだろう。レイノルズをはじめヒュー・ジャックマンにエマ・コリン、マシュー・マクファディン、モリーナ・バッカリンといったキャストは悪くはないのだが、作品の性格上あまり機能しているように見えない。とにかく、マルチバースというのは御都合主義と隣り合わせである。よっぽど話を練り上げないと訴求力のある映画にはならない。
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「ツイスターズ」

2024-08-24 06:33:51 | 映画の感想(た行)

 (原題:TWISTERS)ヤン・デ・ボン監督による「ツイスター」(96年)の続編という設定ながら、ストーリーは繋がっておらず、独立した一本として観ても一向に構わない。ただ、中身がさほど濃くなくて、アトラクションの趣がある点は前作と共通している。もちろん各キャラクターはそこそこ肉付けされており、ライト方面に振り切ったわけでもないのだが、鑑賞後にまず印象に残っているのは精緻な特殊効果であるのは正直なところだ。

 ニューヨークで気象予測の仕事に就いているケイト・クーパーには、不幸な過去があった。学生時代に故郷オクラホマ州で竜巻の観測をしていた際に、巨大竜巻に巻き込まれて多数の僚友を失っていたのだ。そんな折、彼女はくだんの事故で幸いにも生き残った友人ハビからの強い依頼で、竜巻対策のため帰省することになる。そこで出会ったのが、ストームチェイサー兼映像クリエイターのタイラー・オーウェンズとその仲間たち。ケイトは彼らと反目し合いながら、当地に現出した超弩級の竜巻に立ち向かっていく。

 ケイトが抱える屈託に加え、タイラーたちの一見いい加減ながら実は強い信念を持っている様子など、軽佻浮薄な登場人物の扱いは排除されている。竜巻多発地域が抱える社会的問題(阿漕な不動産業者の暗躍など)も取り上げられ、作品が薄っぺらくならない。そして何といっても、竜巻の圧倒的な描写だ。

 本来は4DXで観るべきシャシンなのだろうが、通常の上映で鑑賞した私でもその凄さは分かる。ケイトたちがこんな化け物に果敢に立ち向かっていく様子を追うだけでも、映画的興趣は十分醸し出されてくるのだ。リー・アイザック・チョンの演出は前回「ミナリ」(2020年)の時よりも進歩しており、多少テンポが緩い場面はあるにせよ、あまり気にならないレベルに抑えている。

 主演のデイジー・エドガー=ジョーンズは「ザリガニの鳴くところ」(2021年)の頃と比べて演技面はもちろん、ルックスに磨きが掛かっていることに驚いた。彼女を眺めているだけで本作を観る価値はある(笑)。タイラー役のグレン・パウエルをはじめ、アンソニー・ラモスにブランドン・ペレア、キーナン・シプカ、デイヴィッド・コレンスウェット、モーラ・ティアニーなど、脇のキャストも良い演技をしている。ベンジャミン・ウォルフィッシュの音楽はさほど目立たないが、的確な仕事ぶりだと思う。
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「罪深き少年たち」

2024-07-14 06:28:03 | 映画の感想(た行)
 (英題:THE BOYS)警察の不祥事を描いた実録映画は、最近の日本映画では「日本で一番悪い奴ら」(2016年)ぐらいしか思い浮かばないが、韓国製の本作はその迫真性と感銘度において印象を強烈なものにしている。細かい部分を突っ込めば瑕疵はあるのだが、この作品のパワーはそれを補って余りあると思う。各キャストの好演も見逃せない。

 1999年、全羅北道の参礼(サムレ)にあるウリスーパーマーケットで強盗殺人事件が発生。決定的な証拠が見つからず捜査は難航すると思われたが、程なく地元の警察は近所に住む3人の少年を犯人として逮捕し、事件は一応の終結を見せた。ところがその翌年、その強引な遣り口で“狂犬”の異名を持つ敏腕刑事のファン・ジュンチョルのもとに、真犯人に関する情報が寄せられる。



 ファンが当時の捜査内容を調べてみると、確かに不審な点が多い。特に少年の一人はロクに自分の名前も書けない知的障害者であり、到底重大な事件を引き起こす者とは思えない。やがてファン刑事は、警察と検察の暗部を知ることになる。韓国で実際にあった“参礼ナラスーパー事件”を下敷きに練り上げられたドラマだ。

 とにかく、腐敗した警察上層部と検察の描き方が強烈だ。ロクな証拠も無いまま暴力で少年たちを犯人に仕立て上げた当時の捜査陣は、迅速な犯人逮捕を評価されて昇進している。さらにはファン刑事の孤軍奮闘ぶりを踏み潰すかの如く、手段を選ばない妨害工作を仕掛けてくる。この事件が本当に解決したのは、事件から16年も経った2015年なのだ。かつての少年たちは刑期を終えて出所しており、しかも彼らの面倒を見ているのはウリスーパーの犠牲者の娘である。彼女も3人が犯人とは思えず、アフターケアを買って出ているのだが、この展開は泣かせる。

 まあ、どうして3人が濡れ衣を着せられたのか、その真相が明かされていないのは不満だし、真犯人の一人が結局どうなったのか分からないのも欠点だろう。しかし、世の中の不条理に敢然と立ち向かうファン刑事たちの勇姿や、クライマックスの再審の場面における盛り上がりを見せつけられると、どうでも良くなってくるのも事実。

 社会派作品には定評のあるチョン・ジヨンの演出は力強く、最後まで作劇が弛緩しない。ファン刑事に扮するソル・ギョングのパフォーマンスは良好で、男臭さと優しさを兼ね備えたキャラクターを演じきっていた。ユ・ジュンサンにチン・ギョン、ホ・ソンテ、ヨム・ヘランら脇のキャストも万全の仕事ぶり。公開規模は小さいが、本年度のアジア映画の収穫だと思う。
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「トリガー・ウォーニング」

2024-07-07 06:24:17 | 映画の感想(た行)

 (原題:TRIGGER WARNING )2024年6月よりNetflixから配信された活劇編。水準を超える出来では決して無いが、少しは興味を覚える箇所があり、結果的にあまり気分を害さずに鑑賞を終えることが出来た。こういうサブスク関連の作品は過度に期待を持つ筋合いのものではなく、そこそこ楽しめばそれで良いという気楽なスタンスで臨んだ方が、精神衛生上よろしいかと思う(笑)。

 中東で任務に就いていた女性特殊部隊員パーカーは、本国アメリカで独り暮らしをしていた父親が事故死したという知らせを聞き、故郷のニューメキシコ州の田舎町に帰省する。ところが、地元の者たちに事情を聞いてみると、殺人事件の可能性もあるようだ。その町には米陸軍の訓練基地があり、よからぬ連中がそこの武器類を盗み出して転売しているのではという疑惑もあった。また、それには町の政治家や保安官もグルになっているらしい。パーカーは父親の仇を討つため、犯罪組織に敢然と立ち向かう。

 主演はジェシカ・アルバで、製作総指揮にも関与している。まず驚いたのが、彼女がすでに40歳を超えていたことだ。ずいぶん前から若手女優の一人だと思っていたが、気が付けば年月が経って中堅どころになっていた。しかも、彼女の出自に相応しくラテン系という役柄で、年齢によって担当する仕事を変えていくのも、まあ当然だろう。

 そんな彼女のいわば“俺様映画”であるから、主人公はやたら強い。ピンチらしいピンチも無く、次々に敵を倒してゆく。もちろんかなりの鍛練を積んだことは見て取れるが、まるでランボーみたいな暴れっぷりだ。ストーリーは大して盛り上がらず、ヒロインの無双ぶりばかりがクローズアップされる。監督のモーリー・スルヤも、彼女の引き立て役に徹しているようだ。

 しかし、主人公の父親が旧坑道を“第二の住居”みたいに扱っており、それが陸軍基地の敷地にまで繋がっていたという設定は、強引ながら面白い。そして、アメリカの片田舎に生息する昔ながらのゴロツキの暗躍は、殺伐とした空気を作品にもたらして悪くない。

 マーク・ウェバーにトーン・ベル、ジェイク・ウィアリー、ガブリエル・バッソ、カイウィ・ライマンといったキャストは馴染みは無いが、まあ堅実に役をこなしていたと思う。ゾーイ・ホワイトのカメラが捉えたニューメキシコの荒野は、冒頭とラストの中東の風景にも通じるものがあり、両方とも世界の辺境といった雰囲気を醸し出している。
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「トランザム7000VS激突パトカー軍団」

2024-05-24 06:07:28 | 映画の感想(た行)

 (原題:SMOKEY AND THE BANDIT RIDE AGAIN)80年作品。77年製作の「トランザム7000」は本当に面白いアクション・コメディだった。確か地方興行はジョージ・ロイ・ヒル監督の「スラップ・ショット」との二本立てだったと思うが、おそらくは当初“添え物”扱いでブッキングされたこっちの方が、ロイ・ヒル御大の新作の影を薄くするほどの存在感を示していた。で、満を持して作られたこの続編だが、残念ながら前作ほどは楽しめない。何やら監督と主演俳優との意識合わせが出来ていない印象だ。パート3が製作されていないのも当然かと思わせる。

 テキサスの州知事選挙の候補者であるビッグ・イノスは、現知事の歓心を買うためにある荷物をマイアミからダラスに運ぶ仕事を引き受ける。実務を請け負ったのが、トラックレースに優勝したスノーマンとその好敵手であるバンディットだった。バンディットは前作でいい仲になったキャリーにフラれたばかりで落ち込んでいたが、今回の仕事についてスノーマンから聞いたキャリーは自身の結婚式を放り出してバンディットたちと合流する。

 しかし、そこに立ち塞がったのがキャリーの婚約者の父親で保安官のジャスティスだった。かくしてバンディットと彼に味方するトラック野郎たちと、ジャスティス率いるパトカー軍団との賑々しいバトルが始まる。

 粗筋だけチェックすると、面白そうに思える。事実、ある程度は引き込まれるのだが、パート1に比べると爽快感に欠けるのだ。何より、バンディットに扮するバート・レイノルズのパフォーマンスがいただけない。何やらヘンな“内省的演技”に色目を使っているようで、単純明快な活劇編のカラーに染まりきっていない。

 たぶん本作はレイノルズとハル・ニーダム監督との共同製作のようなものだろうが、元スタントマンでカーアクションに力を入れたい監督と、俳優としての深みや渋みを表現したかったであろうレイノルズの意向に齟齬が生じていたのかもしれない。早い話が、面白いところがニーダムで面白くないところがレイノルズということか。人気スターがノリまくって作った映画が成功したことは、あまりないと思われる。

 それでもヒロイン役のサリー・フィールドをはじめジェリー・リード、パット・マコーミック、ジャッキー・グリーソンといった顔ぶれは好調。知事が輸送を希望した荷物が“思わぬもの”だったりするオチは悪くない。また、ラストのNGのフィルムを繋ぎ合わせたエンド・タイトルだけはかなりウケた。
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「ダンディー少佐」

2024-04-21 06:08:18 | 映画の感想(た行)
 (原題:MAJOR DUNDEE)1965年作品。過激なバイオレンス描写で有名なサム・ペキンパー監督の手によるシャシンながら、ここではエゲツない暴力場面は出てこない。この監督の“真価”が発揮され始めるのは「ワイルドバンチ」(1969年)あたりからだろう。とはいえ、元々彼はテレビの西部劇のディレクターとして実績を積んでいたこともあり、本作も手堅い出来と言える。

 南北戦争時の1864年、メキシコ国境近くの北軍第五騎兵隊の駐屯地が、狂暴なアパッチの族長チャリバの奇襲を受けて全滅する。指揮官のエイモス・ダンディー少佐は早速討伐に乗り出すのだが、手勢は少ない。そこで犯罪者や南軍の捕虜や脱走兵を討伐軍に加えるという、思い切った手段に出る。ダンディーはかつての友人で南軍大尉のタイリーンを副官に任命しようとしたが、戦前にこの2人の間には確執があった。何とか“チャリパを片付けるまで”という条件付きでタイリーンを説き伏せるのだが、敵はならず者のアパッチだけではなく、当時北軍と対立していたフランス軍も彼らの前に立ち塞がる。



 まず、成り行きとはいえ南北両軍が共同して敵に対峙するという設定が面白い。加えて、主人公と南軍の将校との、過去の遺恨が絡んでくる。結果として、いつ討伐軍が空中分解するか分からないといったサスペンスが醸成される。もちろん、アパッチによるゲリラ攻撃も厄介で、ダンディー少佐の苦労は絶えない。そこでメキシコの現地住民との交流や、主人公と地元の女医とのロマンスなどが“息抜き”のような扱いで挿入されるのには苦笑した。徹底してハードな展開で追い込む方がドラマとして盛り上がるのは確かだが、この時期のプログラム・ピクチュアとしては、こういう緩い作劇もアリかと納得してしまった。

 戦闘シーンはペキンパー御大らしく手抜きが無い。特に、フランス軍に挟み撃ちにされた討伐軍が決死の突破を図るシークエンスは盛り上がる。主演はチャールトン・ヘストンで、史劇やSF大作の主役の印象が強い彼だが、この頃までは西部劇にもよく顔を出していた。タイリーンに扮するリチャード・ハリスは儲け役で、ヘストンより目立っていたかもしれない(笑)。ジェームズ・コバーンにウォーレン・オーツ、ベン・ジョンソン等、脇の面子も濃い。ヒロイン役のセンタ・バーガーは当時はセクシーさで売れていたらしく、本作でもその魅力を発揮している。
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