たのしみは …

2014-01-04 | 日記

今日は雪が降った。一日、無聊なるままに岩波文庫版 『 橘曙覧全歌集 』 ( 1999年刊 ) を読む。橘曙覧 ( たちばなのあけみ 1812-1868 ) は越前・福井の商家の人で国学者であり歌人であった。本居宣長 ( 1730-1801 ) の学問を慕って国学を志したという。また正岡子規 ( 1867-1902 ) は、彼の歌は近世の歌壇に新しい歌風をもたらし明治の和歌革新の先駆をなした、と評した。また文庫の解説 ( 水島直文・橋本政宣 ) に、曙覧は 「 家産を六歳下の異母弟である宣 ( せん 1818-1907 ) に譲って別居し、生涯福井に居住し、権勢を望まず富貴を求めず、藩主から勧められた出仕をも辞し、清貧に甘んじ、風雅の生活に歓びを求め 」 た人であった、という。 『 全歌集 』 からいくつか紹介したいと思うが、特に 「 春明艸 」 ( はるあけぐさ ) のなかの 「 独楽吟 」 五十二首連作に心引かれるのである。この連作の歌は全て、 「 たのしみは … 」 で始まり 「 とき 」 で終わるのである。五十二首全部上げる訳にはいかないが、数首掲載する。

  たのしみは艸(くさ)のいほりの筵(むしろ)敷きひとりこころを静めをるとき

  たのしみは珍しき書(ふみ)人にかり始め一(ひと)ひらひろげたる時

  たのしみは紙をひろげてとる筆の思ひの外(ほか)に能(よ)くかけし時

  たのしみはあき米櫃(こめびつ)に米いでき今一月はよしといふとき

  たのしみは雪ふるよさり酒の糟(かす)あぶりて食ひて火にあたる時

  たのしみは書よみ倦(う)めるをりしもあれ声知る人の門(かど)たたく時

  たのしみは湯わかしわかし埋み火を中(うち)にさし置きて人とかたる時

  たのしみは人も訪(と)ひこず事もなく心をいれて書を見る時

  たのしみはほしかりし物銭ぶくろうちかたぶけてかひえたるとき

  たのしみは鈴屋大人( 宣長のこと ) の後に生まれその御諭しをうくる思ふ時

曙覧の 「 たのしみ 」 はここに10個書いたので、あと42個残っているがこのくらいにしておこう。読んでいて、僕の気持ちが喜んでくる、のが分かる。最後にもう一首書く。詞書に 「 さびしかりける日 」 とある。

  ほしかるは語りあはるる友一人見べき山水(やまみず)ただ一ところ