アントンK「趣味の履歴簿」

趣味としている音楽・鉄道を中心に気ままに綴る独断と偏見のブログです。

驚愕!上岡敏之のロシアン

2016-12-07 10:00:00 | 音楽/芸術

 

やはり明らかにオケの音色が変化していた。音楽監督として上岡氏がその力量を発揮している新日本フィルハーモニー交響楽団のことである。アントンKが今最も聴きたい指揮者の一人である上岡敏之が、今回はロシアものに挑戦した。今までアントンKが実演で聴いてきた楽曲は、好みの問題でどうしてもドイツ系の音楽が多くなっていたが、この上岡敏之にかかると、今まで聴いたこともないようなニュアンスや雰囲気がとても新鮮に映り、今まで感じていた楽曲のイメージをアントンKの中では替えていった。毎回彼の実演に触れることで、ここはこうあるべきだとか、こうじゃなければならないという、間違っていたともとれる概念は、無残にも崩れ去る。ある意味、昔チェリビダッケのFMでの音源や、86年からの来日時の体験で聴いた時のような衝撃が身体を走るのだ。それは、演奏の好き嫌いを飛び越えたところにあり、何か自分の心に迫ってくるものがある。だから上岡氏の演奏会は、いつもどんな音楽になるのか楽しみで仕方がない。今回は自分にとって初めて聴くロシアものだから、なおさらなのだ。

今回の演奏会は、前半にストラヴィンスキーとチャイコフスキー、後半にプロコフィエフの第5という、中々上岡らしい凝ったマニアックなプログラム。アントンKもチャイコはともかくストラヴィンスキーとプロコフィエフなんて何年振りだろうというという感覚になる。総じての印象は、普段聴くことの少ないアントンKのツボをえぐり、研ぎ澄まされた、切れば血が飛び散るようなスリリングな演奏であった。小編成のストラヴィンスキーの「プルチネッラ組曲」やチャイコフスキーの「くるみ割り人形」組曲はサッと流し、全てが後半のプロコの第5に置かれていた印象が残った。

今回、指揮者の息遣いも感じたくて、指揮台のすぐ下の座席を選んだが、とにかく上岡氏の指揮振りは、明快でありリズミックで大胆な味付け。オケへの指示は完璧と言えるほどで、一応譜面台に総譜は置いているが全て暗譜で指揮していた。抜きんでた楽器の強奏を嫌う上岡氏だが、今回も心地よいトゥティで聴衆を魅了していた。しかし後半のプロコフィエフの第5だけは、ご本人も押さえきれなかったのか、この世の終わりのようなホールが崩れ落ちそうな爆音が炸裂していた。ここだけは、上岡も地獄からはい上がってきたような形相と声で、我々を緊張させたが、通して上岡節ともとれる解釈で進行した。それは、速いテンポの中でのアタックの強調や、メリハリがここぞというポイントで最上に生かされており、あいまいな表現は皆無であった。それにしても、この複雑な音楽を上岡氏は完璧に自分の中に取り込んで、それをアントンKの目の前で放出している感覚は経験がなく、大変新鮮な感覚になったと書き留めておきたい。

こんな超人のような上岡氏も、お会いして話してみると、大変フランクな人物であり、アントンKとも気軽に会話をして頂ける。やはり音楽の前の上岡氏とは、別人ということなのだろうか。さっきまで指揮台で我々に見せていた激闘の姿からは想像できないのだ。まあそれは、「人の大きさ」ということなのだろう。目の前にいる上岡氏は、穏やかに話を交わしてくれた。この日の演奏の印象を伝えると、大変納得の表情を見せてくれたし、専門家でもない一ファンの意見を喰いいるように聞いてくれた。来年からのマーラーの第6やブルックナーの第3の話になると、目を輝かせ、それを聞いてくれるかと言わんばかりに語ってくれた。やはりアントンKの本命は、どうしてもブルックナーやマーラーとなるから、今から大いに期待をして待ちたいと思っている。

2016/2017 SEASON

横浜みなとみらいホール 特別演奏会

ストラヴィンスキー

バレエ音楽「プルチネッラ組曲」

チャイコフスキー

バレエ組曲「くるみ割り人形」 OP71a

プロコフィエフ

交響曲第5番 変ロ長調  OP100

上岡 敏之 指揮

新日本フィルハーモニー交響楽団

コンサートマスター 崔 文洙