民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

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「どくとるマンボウ青春記」 その6 北 杜夫

2016年06月20日 00時16分15秒 | 本の紹介(こんな本がある)
 「どくとるマンボウ青春記」 その6 P-42 北 杜夫  新潮文庫 (平成12年)

 更に上級生は、ストームなるものを寮に復活した。ストームにもいろいろあるが、その一つは説教ストームである。真夜中、寝ている下級生を叩き起こし、なんのために入寮したのかとか高校生活の意義だとか質問を発す。どのように答えても、バカヤローの怒声が返ってくる。つまり、それまでの一般世間の常識、価値概念をすべてくつがえし、高校生としての自覚に目ざめさせるのである。これはやるほうにも相手を即座にやりこめるだけの頭脳を要するけれど、やられるほうはネボケマナコだし、寝巻き一枚でふるえていなければならぬし、十人の説教強盗にはいられたよりも災難だ。

 ただのストームというのは、やたらに騒々しい。単細胞の権化のごときデタラメのエネルギーの発露である。深夜、朴歯をはき、ホウキをふりまわし、せい一杯の声でデカンショをがなりたてながら、寮じゅうの廊下をねって歩く。いや、とびはねてゆく。朴歯で廊下を蹴り、あるいは手に持って打ちあわせ、ホウキ、ボウ切れでそこらじゅうを叩き、いかにしてもっとも凄まじい音響を立て、惰眠をむさぼる奴輩(やつばら)を覚醒させるかという狂宴である。