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「知らざあ言って聞かせやしょう」 1、歌舞伎と人形浄瑠璃は兄弟の演劇 その1

2017年02月28日 00時26分53秒 | 伝統芸能(歌舞伎など)
 「知らざあ言って聞かせやしょう」 心に響く歌舞伎の名せりふ 赤坂 治績 新潮新書 2003年

 1、歌舞伎と人形浄瑠璃は兄弟の演劇 その1

 歌舞伎と人形浄瑠璃はほぼ同時代に生まれました。歌舞伎の原形は、歌と舞踊に寸劇を加えた、現代で言うレビューみたいなものです。一方、人形浄瑠璃は、語り物(浄瑠璃=義太夫節)と操り人形が一緒になったもので、義太夫節(太夫・三味線)の演奏に基づいて人形を操ります。つまり、音楽劇的要素の濃い人形劇です。

 同時代に生まれた二つの演劇は、初期から互いに影響を与えあってきました。たとえば、初代市川団十郎は金平(きんぴら)(公平)浄瑠璃をヒントに「荒事(あらごと)」を創造したと伝えられます。金平浄瑠璃は坂田金時(つまり足柄山の金太郎)の子という設定の金平らが活躍する人形浄瑠璃の総称、荒事は「荒々しい芸」という意味です。

「知らざあ言って聞かせやしょう」 1、台本もせりふもリサイクルされた その3

2017年02月26日 00時10分32秒 | 伝統芸能(歌舞伎など)
 「知らざあ言って聞かせやしょう」 心に響く歌舞伎の名せりふ 赤坂 治績 新潮新書 2003年

 1、台本もせりふもリサイクルされた その3

 けれども、似たような作品ばかりでは新鮮さに欠けます。そこで、流行なども織り込み、新鮮な工夫も加えました。これを「趣向」と言います。

 江戸時代は良いものは捨てずに再利用(リサイクル)していましたが、演劇も過去に大当たりした作品に工夫を加え、何回も利用したのです。台本だけではありません。せりふも再利用しました。以前の作品で評判の良かったせりふを新しく作った作品で再利用することは珍らしいことではありませんでした。そのため歌舞伎・人形浄瑠璃にはたくさんの類型作品・類型場面・類似のせりふが成立しました。

 要するに、古い作品を受け継ぐことと新しい作品を作ることを同時に行ったのです。型を受け継ぎつつ、型を破ってきたと言い換えることもできます。こうして、歌舞伎・人形浄瑠璃は、古い形を残すことで洗練を重ね、新しい感覚を採り込むことで幅を広げていきました。芸術性を高めながら、同時に時代に適応する力も付けてけたのです。

「知らざあ言って聞かせやしょう」 1、台本もせりふもリサイクルされた その2

2017年02月24日 00時13分23秒 | 伝統芸能(歌舞伎など)
 「知らざあ言って聞かせやしょう」 心に響く歌舞伎の名せりふ 赤坂 治績 新潮新書 2003年

 1、台本もせりふもリサイクルされた その2

 けれども、再演ばかりでは、飽きられてしまいます。観衆を惹きつけるためには、新しいもの、珍らしいもの、奇抜なものを上演することも必要です。江戸時代の演劇人は寝る間も惜しんで、この矛盾する二つを同時に解決する方法を研究しました。

 そのため、江戸時代の歌舞伎は上演が原則になっていました。しかし、新作と言っても全くのオリジナルではありません。
 
 歌舞伎や人形浄瑠璃は、有名な伝説、先行芸能・文芸などを作品の骨格にしました。この作品の骨格を「世界」と言い(本来は仏教語)、たとえば『忠臣蔵』は『太平記』の世界を借りて作られています。また、当時起きたセンセーショナルな事件も作中に採り込みました。作者が頭の中だけで考えた、まったくのオリジナルではなく、必ず原型(モデル)があったのです。

「知らざあ言って聞かせやしょう」 1、台本もせりふもリサイクルされた その1

2017年02月22日 00時03分10秒 | 伝統芸能(歌舞伎など)
 「知らざあ言って聞かせやしょう」 心に響く歌舞伎の名せりふ 赤坂 治績 新潮新書 2003年

 1、台本もせりふもリサイクルされた その1

 江戸時代、能・狂言は幕府の式楽(儀式芸能)となり、幕府や有力な武家の保護を受けていました。また、古い時代の西洋演劇も、王家や貴族の保護を受けてきました。逆に、歌舞伎・人形浄瑠璃は、保護を受けるどころか、風紀を乱す「悪所」として、取締りの対象になっていました。弾圧されていたのです。

 では、歌舞伎(芝居)や人形浄瑠璃(人形芝居)の人々はどうして生活していたのでしょうか。不特定多数の人々に芝居を観てもらうことによって生活費を得ていたのです。つまり、歌舞伎・人形浄瑠璃ははじめから、大衆の観劇料で生活する商業演劇でした。

 商業演劇として生きていくためには、多くの人に劇場へ足を運んでもらう必要があります。そのためには、よく知られている伝説、有名な文学芸能作品を劇化し、過去に大当たりした作品を再演するのが一番の近道です。作品に信用がありますから。

「知らざあ言って聞かせやしょう」 付章 その2

2017年02月20日 00時07分59秒 | 伝統芸能(歌舞伎など)
 「知らざあ言って聞かせやしょう」 心に響く歌舞伎の名せりふ 赤坂 治績 新潮新書 2003年

 付章 その2

 もちろん、江戸時代の文化も宗教や当時の支配思想の影響を強く受けていました。しかし、それとは価値観の異なる庶民の文化が咲き誇っていたのです。たとえば、日本演劇最大のヒット作『忠臣蔵』は「忠義」を旗印にしているものの、描いている中身は「金」と「色」です。大星由良助(大石内蔵助)など赤穂の浪士が敵討ちを果たすまでを描いていると見せながら、社会と人間の根源を描いたのです。歌舞伎を支えた庶民に人気があったのは、仇討ちに加わる金を調達するために死んでいった勘平であり、勘平の心を察して色街に身売りしたおかるでした。

 江戸の文化のもう一つの特徴は古いものを尊重したこと。古い形を遺しつつ新しい形を作ってきたため、歌舞伎は大変幅広い演劇になり、さまざまな特徴を持っています。歌舞伎のせりふを理解するために、その台本。せりふの特徴を整理しました。