民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

語り手のわたしと聞き手のあなたが
一緒の時間、空間を過ごす。まさに一期一会。

「本屋さんで待ちあわせ」 その5 三浦 しをん  

2017年11月29日 00時28分28秒 | 本の紹介(こんな本がある)
 「本屋さんで待ちあわせ」 その5 三浦 しをん  大和書房 2012年

 キュリー夫人の暖房術 その1 P-24

 子ども向けの「キュリー夫人」の伝記は、幼かった私に衝撃をもたらした。キュリー夫人の偉大さに胸打たれたのではない。
 その伝記でキュリー夫人は、自分の体に椅子を載せて寝ていたのだ!貧しいなかで研究に打ち込むキュリー夫人が、寒さに耐えかねて取った苦肉の策なのだが、薄い毛布のうえに椅子を載せたからって、あたたかくなるか?それって単なる「気のせい」じゃ?物理界の偉人らしからぬ行いではないかと思えてならなかった。

 さて、私の住むアパートは寒い。冷凍庫の扉を開けたら、流れでてきた空気があたたかかった。冷蔵庫ならまだしも、冷凍庫より寒い台所ってなんなんだ。ここはホントに東京か?としばしば疑問だ。

 寒さに震えながらベッドに入る。シングルベッドなのだが、枕元から足もとに至るまで積まれた本によって、幅の半分はふさがっている。狭い。ミイラみたいに硬直して寝るしかない。
 その晩も、布団にくるまりミイラになっていた。「凍死」という言葉が実感をともなって脳裏に浮かび、思わず身じろぎした瞬間、事件は起きた。スプリングのわずかな軋みに敏感に反応し、ベッドの半分に積んであった本の山が、私のうえにいっせいになだれ落ちてきたのだ。

「本屋さんで待ちあわせ」 その4 三浦 しをん  

2017年11月27日 00時14分21秒 | 本の紹介(こんな本がある)
 「本屋さんで待ちあわせ」 その4 三浦 しをん  大和書房 2012年

 『女工哀史』に萌える その2 P-19

「女工萌え」が高じたあまり、『あゝ野麦峠』(山本茂実、角川文庫)も『日本の下層社会』(横山源之助、岩波文庫)も小学校時代に読破したというAちゃんに敬意を表し、未読だった『女工哀史』を私もさっそく購入。読んでみた。

 おもしろい。たしかにこれはおもしろい!「よくこんなことを女性から聞き出せたなあ」というプライベートな部分まで、ちゃんと記(しる)してある。

 しかし私がなによりも胸打たれたのは、著者の細井氏の徹底した男女平等の視線だ。
 細井氏は劣悪な条件で働く工場の女性たちに、立ち上がって正当な権利をつかむよう強くうながす。細かいデータと生々しい証言を集め、工場とそこで働く人々の実状を、「これでいいのか」と高らかに世に問う。

 この本に書かれた社会のひずみと女性を取り巻く問題点は、もちろん改善されてはいるが、いまも完全な解決には至っていないと言っていいはずだ。
 情熱に満ちた本との出会いはいつでも、情熱を持った読み手に導かれて生じる。Aちゃんの熱き心に、深く感謝したのだった。

「本屋さんで待ちあわせ」 その3 三浦 しをん  

2017年11月25日 00時06分29秒 | 本の紹介(こんな本がある)
 「本屋さんで待ちあわせ」 その3 三浦 しをん  大和書房 2012年

 『女工哀史』に萌える その1 P-18

 友人Aちゃんと「小さいころに好きだった本」について語らっていて、度肝を抜かれた。
 Aちゃんが頬を紅潮させ、
「小学生のころの愛読書は、『女工哀史』でした!」
 と言ったからだ。
「じょじょじょ、女工哀史!?」それって小学生の女の子が読むような本かな」
「いや、あれはホントにおもしろいですよ。工場での男女関係についてとか、ドキドキしながら熟読したのを覚えてます」
「うーん……。なんでまた、『女工哀史』を手に取ってみようと思ったの?」
「そのころの私は、『女工萌え』だったんですよ。もちろん当時は、『萌え』という言葉はありませんでしたが」
 と、Aちゃんはますます頬を赤らめた。

「萌え」ってなんだかわからん、というかたのために一応簡単に補足すると、「とにかくモヤモヤジレジレしてたまらない気持ち」だと思えばよろしかろう。小学生だったAちゃんは、「女工」に対して内面から湧き上がる理由なきモヤモヤを抱いていたわけである。

「本屋さんで待ちあわせ」 その2 三浦 しをん  

2017年11月23日 00時05分34秒 | 本の紹介(こんな本がある)
 「本屋さんで待ちあわせ」 その2 三浦 しをん  大和書房 2012年

 はじめに その2

 もしかして前世は、本に棲息している虫かなんかだったのか?それとも、ひとを読書へと駆り立てることで恋や美容から遠ざけるような、悪霊に取り憑かれているのか?そうとでも考えないと、本や漫画に対するこの執着が説明つかん!

 前世や悪霊が原因だとしたら、もうしょうがないですね(思考の放置)。思うぞんぶん、読書に勤(いそ)しみます。え、本日の仕事?あばばば、聞こえません。私は仕事をするために洗顔をそっちのけにしているのではない。本や漫画を読むために洗顔をそっちのけにしているのだ!

「ダメっぽいことをえらそうに言って煙に巻く」戦法でした。
 それでは、はじまり、はじまり!お楽しみいただければ幸いです。

「本屋さんで待ちあわせ」 その1 三浦 しをん

2017年11月21日 00時26分55秒 | 本の紹介(こんな本がある)
 「本屋さんで待ちあわせ」 その1 三浦 しをん  大和書房 2012年

 はじめに その1

 1日の大半を本や漫画を読んで過ごしております。こんにちは。
 いまも、この「はじめに」を書こうとして、「いや、そのまえに景気づけに本を読もう」と思い立ち、『江戸東京の地名散歩』(中江克己、ベスト新書)を手に取ったらそのまま夢中になってしまい、気づくと夜になっていた。本日の仕事が全然終わってないのに……。

 というわけで(?)、本書は一応「書評集」だ。ちゃんとした評論ではもちろんなく、「好きだ!!」「おもしろいっ」という咆哮になっちゃってるので、お気軽にお読みいただければ幸いです。取り上げたのは、個人的におすすめの本ばかりなので、ブックガイドとして少しでもみなさまのお役に立つといいなと願っております。

 私は本を紹介する際に、ひとつの方針を立てている。「ピンとこなかったものについては、最初から黙して語らない(つまり、取り上げてああだこうだ言わない)」だ。

 ひとさまの本に、えらそうにあれこれ言っておきながら、自分が書いてる本はどうなんだ。そう問われるとグゥの音(ね)も出ない。そこで姑息にも、批判的にならざるをえない本や漫画への感想は、公には表明しないようにしている。また、たとえ私にはピンとこなかったとしても、その本や漫画を好きなかたが当然おられるのだから、わざわざネガティブな感想を表明して、該当の書籍やそれを好きなひとたちを否定する必要も権利もないと考えるからでもある。
 ひとによっていろんな読みかたができるから、本や漫画はおもしろい。