民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

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『仮名手本忠臣蔵』

2017年03月13日 00時02分21秒 | 伝統芸能(歌舞伎など)
『仮名手本忠臣蔵』は、以下の文章を以って始まる。


嘉肴(かかう)有りといへども食せざれば其の味はひをしらずとは。国治まってよき武士の忠も武勇もかくるゝに。たとへば星の昼見へず夜は乱れて顕はるゝ。例(ためし)を爰(ここ)に仮名書きの太平の代の。政(まつりごと)…

どんなにおいしいといわれるご馳走でも、実際に口にしなければそのおいしさはわからない。平和な世の中では立派な武士の忠義も武勇もこれと同じで、それらは話に聞くだけで実際に目にすることが無くなってしまうのである。だがそんな世の中でも、立派な忠義の武士は必ずいる。それはたとえば、星は昼には見えないが夜になれば空にたくさん現われるのと同じように、普段は見えなくても忠義の武士は、あるべきところには確かに存在するのだ。そんな武士たちの話をわかり易いように仮名書きにして、これから説明することにしよう…という大意で、要するにこれから「忠」も「武勇」も備わった「よき武士」である「赤穂浪士」たちのことについて語ろうということである。

「知らざあ言って聞かせやしょう」 1、歌舞伎と人形浄瑠璃は兄弟の演劇 その4

2017年03月05日 00時02分10秒 | 伝統芸能(歌舞伎など)
 「知らざあ言って聞かせやしょう」 心に響く歌舞伎の名せりふ 赤坂 治績 新潮新書 2003年

 1、歌舞伎と人形浄瑠璃は兄弟の演劇 その4

 江戸時代の人々は、知的創造物を私有化する権利、すなわち著作権という概念を持たなかったものの、原作を尊重する意識は強く持っていました。そのため、義太夫狂言の多くは原作(「本行(ほんぎょう)」と言う)の人形浄瑠璃に即して歌舞伎化され、せりふも基本的に人形浄瑠璃の詞章を踏襲しています。

 歌舞伎は成立した時から音楽性・舞踊性の高い演劇です。人形浄瑠璃は人形を「観る」演劇であると同時に浄瑠璃を「聴く」音楽でもあります。そのため、人形浄瑠璃の語りはもちろん、歌舞伎のせりふ術も音楽性が強いことが特徴になっています。

 歌舞伎では、朗誦するように言うせりふ術、欧米演劇でいうデクラメーション(朗誦術・雄弁術)を重視していて、このせりふ術を「歌う」と言います。また、義太夫狂言では、立ち役(男役)の見せ場である「物語」や女形の見せ場である「クドキ」は、義太夫の三味線に乗ってせりふを言います。(これを「糸に乗る」「乗り地」と言う。



 

「知らざあ言って聞かせやしょう」 1、歌舞伎と人形浄瑠璃は兄弟の演劇 その3

2017年03月03日 00時11分22秒 | 伝統芸能(歌舞伎など)
 「知らざあ言って聞かせやしょう」 心に響く歌舞伎の名せりふ 赤坂 治績 新潮新書 2003年

 1、歌舞伎と人形浄瑠璃は兄弟の演劇 その3

 一方、語り物である人形浄瑠璃の台本(「丸本」と言う)は、すべての詞章を太夫(語り手)が語るように書かれています。(ただし、長編なので、複数の語り手が自分の担当する部分だけを語ります)。人形遣いはそれに基づいて人形を操るのです。

 したがって、人形浄瑠璃を歌舞伎にするためには、人形浄瑠璃の丸本を歌舞伎の台帳に書き直さなければなりません。浄瑠璃の詞章は大別して、登場人物のせりふの部分と小説で言う地の文に分かれますが、人間の動きでは無理な所などがあるので、俳優が演じられるように書き直さなければならないのです。

 こうして、対話を中心としながらも、状況説明や役の心理などを義太夫節の太夫が語るという、歌舞伎の義太夫狂言の様式が成立しました。本来の歌舞伎台帳の様式(スタイル)と人形浄瑠璃の様式を折衷し、俳優だけでなく、義太夫節の太夫・三味線も出演するという特殊な様式が生まれたのです。

「知らざあ言って聞かせやしょう」 1、歌舞伎と人形浄瑠璃は兄弟の演劇 その2

2017年03月01日 00時12分33秒 | 伝統芸能(歌舞伎など)
 「知らざあ言って聞かせやしょう」 心に響く歌舞伎の名せりふ 赤坂 治績 新潮新書 2003年

 1、歌舞伎と人形浄瑠璃は兄弟の演劇 その2

 この関係は、正徳期(18世紀前半)以降、さらに親密になります。当時振るわなかった歌舞伎は、起死回生の策として、人形浄瑠璃のヒット作の歌舞伎化を始めたのです。以降、歌舞伎の中で、人形浄瑠璃を原作とする作品は大きな比率を占めるようになります。(人形浄瑠璃を歌舞伎化した作品を「義太夫狂言(物)」「丸本物」などと言う)。逆に、人形浄瑠璃も歌舞伎を採り込みました。

 しかし、二つの芸能は、形が異なるため、台本の書き方は違います。
 歌舞伎の台本(「台帳」と言う)は基本的に、人(擬人)と人(擬人)が対話する、対話形式で書かれます。ト書き(登場人物の動きの指定)と舞台書き(大道具の指定)を除き、それぞれの役のせりふで成り立ちます。

 

「知らざあ言って聞かせやしょう」 1、歌舞伎と人形浄瑠璃は兄弟の演劇 その1

2017年02月28日 00時26分53秒 | 伝統芸能(歌舞伎など)
 「知らざあ言って聞かせやしょう」 心に響く歌舞伎の名せりふ 赤坂 治績 新潮新書 2003年

 1、歌舞伎と人形浄瑠璃は兄弟の演劇 その1

 歌舞伎と人形浄瑠璃はほぼ同時代に生まれました。歌舞伎の原形は、歌と舞踊に寸劇を加えた、現代で言うレビューみたいなものです。一方、人形浄瑠璃は、語り物(浄瑠璃=義太夫節)と操り人形が一緒になったもので、義太夫節(太夫・三味線)の演奏に基づいて人形を操ります。つまり、音楽劇的要素の濃い人形劇です。

 同時代に生まれた二つの演劇は、初期から互いに影響を与えあってきました。たとえば、初代市川団十郎は金平(きんぴら)(公平)浄瑠璃をヒントに「荒事(あらごと)」を創造したと伝えられます。金平浄瑠璃は坂田金時(つまり足柄山の金太郎)の子という設定の金平らが活躍する人形浄瑠璃の総称、荒事は「荒々しい芸」という意味です。