民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

語り手のわたしと聞き手のあなたが
一緒の時間、空間を過ごす。まさに一期一会。

「古屋のむり」 リメイク by akira  

2013年08月18日 00時28分07秒 | 民話(昔話)
 「古屋のむり」 リメイク by akira  元ネタ 女川(おながわ)・雄勝(おがつ)の民話

 今日は 「古屋のむり」ってハナシ やっか。

 おれがちっちゃい頃、ばあちゃんから聞いたハナシだ。
ほんとかうそか わかんねぇハナシだけど ほんとのことだと思って 聞かなきゃなんねぇ。

 むかーし、むかし。

 山に囲まれて、百姓なんかしてる 村が あったって。
山の奥には オオカミがいて、昔っから 雪 降ったりして 食うもん なくなっと、
その村に やって来て、馬とったり 牛とったり してたんだって。

 そんで、その村では オオカミがこわいもんだから、夕方は 暗くなる前に、家 帰ってしまうし、
朝も すっかり 明るくなってからじゃないと 家 出ていかないんだって。
そんで、その村は ほかの村にくらべて とれるもんも少なくって、貧乏していたんだって。

 その村の 一番 高い山の方に ポツンって 家が建ってて、
爺(じ)さまと婆(ば)さまが ずっと 二人っきりで、
自分ら食うだけ、田んぼ 作って、畑 作って、暮らしていたって。

 その日は 朝っから 雨が 降っていたって。
そんで、その夜、二人で 囲炉裏 囲んで 仕事してっと、雨が どんどん 強くなって、
家が古いもんだから、雨が むりはじめたんだって。
あっちでポトッ、こっちでポトッ、って 茅(かや)の腐ったとっから。

 そんで、囲炉裏の火 のんのん、のんのん 燃やして、
家にある 入れもん みんな 持ってきて、雨の 落ちてくっとこに 置いて、
それが 一杯になっと 別の入れもんに とっ替えて、水 捨てに行って、って、
二人して くるくる 動き回っていたって。

 そんで、二人で 息 ハァハァ させながら、
「なぁ、婆さま。世の中に オオカミがおっかねぇ、化けモンがおっかねぇって、言ったって、
『古屋のむり』ほど、おっかねぇもんは ねえなぁ」
「ほうだなぁ、おらも 七十なんぼ 長生きしたけど、『古屋のむり』ほど、おっかねぇものはねぇ。
『古屋のむり』がきたんじゃ、今夜は 寝らんねぇ。
明日の朝まで、『古屋のむり』と戦わなくちゃなんねぇ」
そんな話 してたって。

 すっと、オオカミが 馬とろうと 来てて、二人が寝んのを 待ってたんだって。
そんで、二人の 今の話 聞いてて、
「はてな、『古屋のむり』ってのは、聞いたことねぇなぁ。どんな化けモンなんだべ。
二人で寝ないで 戦わなくちゃなんねって、言ってっとこみると、
よっぽど おっかねぇ化けモンなんだんべな。・・・そんな化けモン 来る前に 逃げなきゃ」
って、そのオオカミ、馬とろうとしてたの やめて、山へ 逃げていったって。

 それから しばらくして 雨が上がったって。
だけど、雨があがったって、すぐに『古屋のむり』は おさまんねぇ、
二人は 朝まで 寝られなかったって。

 そんで、あのオオカミ、よっぽど『古屋のむり』が おっかなかったんだんべな、
よその村 行って 馬、牛とること あっても、その村には、二度と 来ることはなかったって。
きっと あのオオカミが 仲間に、あの村には『古屋のむり』って、おっかねぇ化けモン いっから、
行かねぇ方がいいぞって、言ったんだんべな。

 そんで、その村は 安心して、朝早くから 夜遅くまで 働くようになって、
裕福な 村に なったんだって。

 そんで、おしめぇ。



「古屋のむり」 岩崎 としゑの語り

2013年08月16日 00時03分22秒 | 民話(昔話)
 「古屋のむり」 女川・雄勝の民話 岩崎 としゑの語り 松谷みよ子 編著

 昔(むかす)昔、

 ある村の ずっと一番高い山の方に ポツリポツリと 家 建ってねえ、
百姓なんかすてるがあったんだって。

 その山には 狼が住んでんだってね。
昔から 山が深くて、そんでねえ、雪なんかが降って食べものねえとき、
馬とられたり 牛なんかも とられたりしたって。
 それで 誰も 夕方遅くまで 日が入るまで 働いてる人ねえんだと、なんでもかんでも 
日が山にあるうつに、夕方も家へ入るしね、朝もすっかり夜が明けてからばり働くんだって。

 そのに、子持たずのじいさんとばあさんが住んでたんだってねえ。年とるまでも二人でねえ、
自分たち食うだけ 田んぼも作れば 畑も作ってね。暮らしていたんだって。

 そすたら ある日ね、
「ばあさんや、冬になれば 草もねくなっから、もすこす 馬のもの刈って、
お天気のいいときに 干すて囲うべなあ」
って、二人で草刈りすて、そいつを家へ運んでねえ、干すかた すてたんだと、一生懸命。
ほいで 乾けば 納屋さ 片づけ 片づけすてたら、ある日ね、にわかに 空 曇ってきたんだって。
「あ、ばあさん、夕立つ きそうだ」
って、二人でね、一生懸命 かき集めて、乾かねえ草も片づけてね、

 そのうつに、ポツリポツリ 降り始めてきたんだと。
「草も入れたから いいいい。ばあさん、濡れることねえから、いいから 家へ入れ 入れ」
って、二人で家ん中さきてねえ、あがり框んとこさ 腰かけて、雨の止むのを待っていたんだと。
そすたら 雨 止むどころか、ますます 強く降ってきたんだって。
「雨 どうせ 晴れねえから、ばあさん、足洗って 上さ あがって、今日は これで終わりとすっぺ」
「じゃあ、そうすっかな、じいさん」
 
 二人であがってねえ、ご飯の支度すて、そすたらねえ、家が古いから 雨 強く降ってきたら、
どこもかすこも、ボツボツ、ボツボツ、むってくんだと。
茅のくさったとこから、ほすて、火 のんのん、のんのん焚(た)いてね、
二人でご飯食べてたら ますます 降っから、囲炉裏まで降ってくんだと。して 灰が飛ぶんだと。
じいさんとばあさんが寝るとこねえんだってねえ。床敷くとこなくなっつまったど。

「こんな よく降る雨も、しばらくぶりだなあ、ばあさんや」
ほのうちに 暗くなってすまって、
「寝ることもできねえしな、ばあさんや」
って、二人で話 語ってると、なんだか 馬小屋の方でね、ガタンって 音 すたんだと。
「ああ、馬だってもなあ、寒かんべなあ」
って、じいさんがゆって、
「なあ、ばあさんや、世の中に なに おっかね、化け物 おっかね って ゆったって、
狼も化け物も、なにも おっかねえものはないけんどもよ、古屋のむりほど、おっかねものはねえなあ」

 ほすたら、ほの、ばあさんもねえ、
「ほんだなあ、おらもこの年まで七十なんぼまで 長生きすたが、古屋のむりほど、おっかねえものはねえ。古屋のむりが今夜きたために、今夜寝ずの番だ。明日(あすた)の朝まで寝ねえで、じいさんと二人でねえ、古屋のむりと戦わねばなんね」
って、ゆったとね。

 そすたらねえ、狼が馬んとこさ、きてたんだと。ほいて、じいさんとばあさんの話、聞いてたんだと。
「はてな、古屋のむりってのは聞いたこともねえ。二人で一晩中、戦うっていってるとこみれば、
なんぼ 古屋のむりって化け物、おっかねえべ。たすかに おれの歯のたたねえ化け物にちがいねえ」
ってね、馬とろうとすたのをやめて、古屋のむりがおれんとこさ、こねえうちにってね、
逃げてすまったんだと。その狼が。

 そいて 逃げてからね、自然と雨も晴れてねえ、古屋のむりもおさまったんだと。
それから きれいに 拭いて 乾かして、床とって 寝たんだと。

 それからねえ、その狼がねえ、なんぼ 古屋のむりがおっかねかったかね、
それから じぇったいにその村を除けてね、よその村さ行って 牛、馬、とることがあっても、
その村さ、さがって こねくなったんだと。日暮れても、雪降ってもねえ、こねくなったんだと。

 それから安心してねえ、朝早くから 夜遅くまで その村は働くようになって、裕福な村になったんだと。

 そんで おすめえ。

「古屋の漏り」 今村 泰子

2013年08月14日 00時36分35秒 | 民話(昔話)
 「古屋の漏り」 (漢字混じり) 今村 泰子  ほるぷ出版

 むかし あったけど。
 山の近い ある村に、じいさまと ばあさまが いてあったと。
 大きい百姓で あったども、子どもが いなかったので、
二人は 古くなった家に、ウマこ 一匹 飼って さびしく 暮らしていたと。

 ある 雨の しとしと降る 晩のこと。
 どろぼうが、「今夜のような 晩こそ ウマこ 盗むに いい晩だ。」
と、早くから 家の中に しのびこみ 台所の 梁の上に あがって、
下の様子を うかがっていた。 
「早く じいさまと ばあさま、寝床にいかねえかな。」
と、待ちくたびれ、そのうち コクリ コクリ いねむりをはじめた。

 そこへ 山のオオカミが、裏の木戸口から 
「腹 へったなあ、この家の ウマこなら、たらふく 食うに いいんだどもなあ。」
と、こっそり やってきたと。

 じいさまと ばあさまは、囲炉裏端にすわって、のんびりと 話こをしていた。
「ばあさん、おまえは この世の中で なにが 一番 おっかねかな。」
「んだなあ、おら わらしの時から、山のオオカミが 一番 おっかねもんで あったすな。」
「んだ、んだ、晩げになって、山の オオカミが あちこちで ほえだすと、おっかねとて、
ふとんかぶって 丸まってたなあ。」
 オオカミは 耳をたてて、じっと 聞いていたが、
「ふん、ふん。」と、うなずき、少し 口をあけ、うれしそうな顔をした。

 「おじいさんは、なにが 一番 おっかねすか。」
「おれがな、今 一番 おっかねもんは、『古屋の漏り』だ。」
「んだす、んだす、おじいさんあ。『古屋の漏り』だば、なにより おっかねす。
今夜あたり くるんでねすか。」
 オオカミは ぎくりとして、からだを 少し 前の方に すすめたと。
「ほう、おれより おっかね『古屋の漏り』ちゅうもんは、どんなもんだろう。
こらあ おおごとだ。こげなところに 長くはおられねえ。」と、あわてだした。

 その時、雨が 風とともに ザーッと すごい勢いで 降りだした。
 じいさまと ばあさまの声が、急に 大きくなったと。
「おじいさん、おじいさん、ほんとに 『古屋の漏り』 きたすよ。」
「おう、とうとう きたかっ。」と、たちあがり、身支度をはじめた。
 部屋のあちこちでは、ポタン ポタンと 雨(あま)しずくが おちはじめた。

 オオカミは 騒ぎを聞き、
「こりゃあ、いよいよ 大変だ。『古屋の漏り』ちゅう ばけものが きたようだっ。」
と、ふるえあがり、逃げだした。
 ウマどろぼうは その音を聞き、ウマこが逃げたと思い、
背中めがけて 飛び降りたと。

 ウマどろぼうは、
「こりゃあ、よく走る ウマこだ。なんと、よく走る ウマこだ。逃がしてなるものか。」
と、オオカミの耳を ぎっちり 握り、馬乗りになって、しがみついていた。

 たまげたのは オオカミだった。
「わあっ、おれの 背中に『古屋の漏り』とっついたあっ。」
と、ビュン ビュンと ありったけの力を出して、走りだしたと。

 やがて、夜が しらじらと あけてきた。
すると 山奥の 木の上で、猿が、
「あやぁ、おかしでぁ、人間が オオカミの背中に乗って 走ってらあ。」
と、手を叩きながら はやしたてたと。
 ウマどろぼうも、はっとして よく見ると、それは ウマこではなく、
おそろしい、大きな オオカミで あったと。
 ウマどろぼうは ぶったまげたの なんの・・・・・。
そのとたんに、力が抜け、背中から 振り落とされ、おまけに、けものの落とし穴に 
転げ落ちて いったと。

 オオカミは ほっとして、山の奥へ 帰ると、
「みんな、集まれ。」
と、仲間のけものたちを 呼んだ。
熊やイノシシやら、みんな 集まってきた。
「おれは 夕べ、『古屋の漏り』ちゅう ばけものにとりつかれ、一晩中 
山の中を 走りまわった。とんだり はねたり どんなことをしても、離れなかった。
やっと 途中の穴こに 落としてきた。 あんたなものがいたら 大変だ。
みんなで これから 退治さねかや。」
と、相談をもちかけた。

 猿は、
「あれは、『古屋の漏り』でねぇ。人間だったでぁ。」
「なに いうかっ。『古屋の漏り』だっ。」
と、オオカミも 頑張ったと。
 みんなも おそろしいので、
「ああだ。」「こうだ。」
と、言いあって 決まらなかった。
とうとう、穴このそばまで 行くことにしたと。
「猿、おまえの長いおっぽで、『古屋の漏り』いるか どうか、さぐって みてけれ。」
 猿は しかたなく、長い おっぽを、するすると、穴の中に入れて、ぐるっぐるっと 
かきまわしたと。

 穴この中で のびていた ウマどろぼうは、ほっぺたに ヒタヒタと さわるものが 
あるのに 気がついた。
「おやっ、ありがたい。いいところに なわが、さがっている。」
と、猿のおっぽともしらず、ぎっちり つかんだと。
「あっ、いて、て、て。やっぱり『古屋の漏り』だあーっ。
おれとこ 穴この中さ 引っ張りこむぅーっ。オオカミ、助けてけれーっ。」
これを 聞いた オオカミと 仲間たちは、
「さあ 大変だっ。猿、おまえ、早く 戻って こいっ。」
と、言って、一目散に 逃げていったと。

 猿は 腹が立つやら、悔しいやら。
おっぽをつかまれているので、逃げることもできない。
 ウマどろぼうと、やいの やいのと 引っ張りあいこ するうちに、猿のおっぽは、ぷっつり 
切れてしまったと。

 やっと 猿は、逃げることができた。
けれども、おっぽは 短くなったし、あまり 力を入れて りきんだので、
顔は 真ッかに なってしまった。
今も その時の まんまだと。

 とっぴん ぱらりの ぷう。
 



「ふるやのもり」 今村 泰子

2013年08月12日 01時16分26秒 | 民話(昔話)
 「ふるやのもり」 原文  今村 泰子  ほるぷ出版  1985年 初版

 むかし あったけど。
 山の ちかい ある むらに、じいさまと ばあさまが いて あったと。
 おおきい ひゃくしょうで あったども、子どもが いなかったので、
ふたりは ふるくなった いえに、うまこ いっぴき かって さびしく くらして いたと。

 ある あめの しとしと ふる ばんの こと。
 どろぼうが、「こんやのような ばんこそ うまこ ぬすむにいい ばんだ。」
と、はやくから いえの なかに しのびこみ だいどころの はりの うえに あがって、
したの ようすを うかがって いた。 
「はやく じいさまと ばあさま、ねどこに いかねえかな。」
と、まちくたびれ、そのうち コクリ コクリ いねむりを はじめた。

 そこへ 山の おおかみが、うらの きどぐちから 
「はら へったなあ、この いえの うまこなら、たらふく くうに いいんだどもなあ。」
と、こっそり やって きたと。

 じいさまと ばあさまは、いろりばたに すわって、のんびりと はなしこを して いた。
「ばあさん、おまえは この よのなかで なにが いちばん おっかねかな。」
「んだなあ、おら わらしの ときから、山の おおかみが いちばん おっかねもんで あったすな。」
「んだ、んだ、ばんげに なって、山の おおかみが あちこちで ほえだすと、おっかねとて、
ふとん かぶって まるまってたなあ。」
 おおかみは みみを たてて、じっと きいて いたが、
「ふん、ふん。」と、うなずき、すこし くちを あけ、うれしそうな かおを した。

 「おじいさんは、なにが いちばん おっかねすか。」
「おれがな、いま いちばん おっかねもんは、ふるやの もりだ。」
「んだす、んだす、おじいさんあ。ふるやの もりだば、なにより おっかねす。
こんやあたり くるんでねすか。」
 おおかみは ぎくりと して、からだを すこし まえの ほうに すすめたと。
「ほう、おれより おっかね『ふるやの もり』ちゅう もんは、どんな もんだろう。
こらあ おおごとだ。こげな ところに ながくは おられねえ。」と、あわてだした。

 その とき、あめが かぜと ともに ザーッと すごい いきおいで ふりだした。
 じいさまと ばあさまの こえが、きゅうに おおきく なったと。
「おじいさん、おじいさん、ほんとに ふるやの もり きたすよ。」
「おう、とうとう きたかっ。」と、たちあがり、みじたくを はじめた。
 へやの あちこちでは、ポタン ポタンと あましずくが おちはじめた。

 おおかみは さわぎを きき、
「こりゃあ、いよいよ たいへんだ。『ふるやの もり』ちゅう ばけものが きたようだっ。」
と、ふるえあがり、にげだした。
 うまどろぼうは その おとを きき、うまこが にげたと おもい、
せなか めがけて とびおりたと。

 うまどろぼうは、
「こりゃあ、よく はしる うまこだ。なんと、よく はしる うまこだ。にがしてなるものか。」
と、おおかもの みみを ぎっちり にぎり、うまのりに なって、しがみついて いた。

 たまげたのは おおかみだった。
「わあっ、おれの せなかに『ふるやの もり』とっついたあっ。」
と、ビュン ビュンと ありったけの ちからを だして、はしりだしたと。

 やがて、よるが しらじらと あけて きた。
すると 山おくの 木の うえで、さるが、
「あやぁ、おかしでぁ、にんげんが おおかみの せなかに のって はしってらあ。」
と、てを たたきながら はやしたてたと。
 うまどろぼうも、はっと して よく みると、それは うまこではなく、
おそろしい、おおきな おおかみで あったと。

 うまどろぼうは ぶったまげたの なんの・・・・・。
その とたんに、ちからが ぬけ、せなかから ふりおとされ、おまけに、けものの おとしあなに 
ころげおちて いったと。

 おおかみは ほっと して、山の おくへ かえると、
「みんな、あつまれ。」
と、なかまの けものたちを よんだ。
くまや いのししやら、みんな あつまって きた。
「おれは ゆうべ、『ふるやの もり』ちゅう ばけものに とりつかれ、ひとばんじゅう 
山の なかを はしりまわった。とんだり はねたり どんな ことを しても、はなれなかった。
やっと とちゅうの あなこに おとして きた。 あんたな ものが いたら たいへんだ。
みんなで これから たいじさねかや。」
と、そうだんを もちかけた。

 さるは、
「あれは、『ふるやの もり』でねぇ。にんげんだったでぁ。」
「なに いうかっ。『ふるやの もり』だっ。」
と、おおかみも がんばったと。
 みんなも おそろしいので、
「ああだ。」「こうだ。」
と、いいあって きまらなかった。
とうとう、あなこの そばまで いく ことに したと。
「さる、おまえの ながい おっぽで、『ふるやの もり』いるか どうか、さぐって みてけれ。」
 さるは しかたなく、ながい おっぽを、するすると、あなの なかに いれて、ぐるっぐるっと 
かきまわしたと。

 あなこの なかで のびて いた うまどろぼうは、ほっぺたに ヒタヒタと さわるものが 
あるのに きが ついた。
「おやっ、ありがたい。いい ところに なわが、さがって いる。」
と、さrの おっぽとも しらず、ぎっちり つかんだと。
「あっ、いて、て、て。やっぱり『ふるやの もり』だあーっ。
おれとこ あなこの なかさ ひっぱりこむぅーっ。おおかみ、たすけてけれーっ。」
これを きいた おおかみは なかまたちは、
「さあ たいへんだっ。さる、おまえ、はやく もどって こいっ。」
と、いって、いちもくさんに にげて いったと。

 さるは はらが たつやら、くやしいやら。
おっぽを つかまれて いるので、にげる ことも できない。
 うまどろぼうと、やいの やいのと ひっぱりあいこ するうちに、さるの おっぽは、ぷっつり 
きれて しまったと。

 やっと さるは、にげる ことが できた。
けれども、おっぽは みじかくなったし、あまり ちからを いれて りきんだので、
かおは まっかに なって しまった。
いまも その ときの まんまだと。

 とっぴん ぱらりの ぷう。

 あとがき
 「古屋のもり」は、江戸時代の中期に上梓された「奇談一笑」に「屋漏可恐(やもりおそるべし)」
という題で書き残されている。
かなり古い時代からの話のようであるが、今も日本各地で採集されている。
 「古屋のもり」ということばの勘違いから話は発展していくが、屋根がもるという、
生活に根ざした実感から生まれた話だと思われる。
 雨もりする茅屋根や、わら屋根、登場する狼(場所によっては虎)馬どろぼうなど、近代化が進み、
環境の変化した現代の農村では、すっかり姿を消したものばかりである。

 



「古屋の漏(も)り」 大島 廣志

2013年08月10日 00時25分13秒 | 民話(昔話)
 「古屋の漏(も)り」 ― 岩手県 ―   再話 大島 廣志  提供 フジパン株式会社

 むかし、山奥の家で、爺さまと婆さまが、一匹の馬を飼っておった。
 ある雨がざんざ降りの夜に、虎がやってきて、馬をとって食おうと、馬小屋にしのびこんだ。
 家の中では、爺さまと婆さまが、
「婆さま、お前、世の中で一番おっかねぇもんは何だ」
「そりゃぁ、虎だ。世の中で虎が一番おっかねぇ。爺さまは、何がおっかねぇ」
「こんな雨のふる夜は、虎よりか”古屋のもり”がなによりおっかねぇなぁ」と、話しておった。
 それを聞いた虎は、
『この世で、おれさまよりおっかねぇ”古屋のもり”ちゅうもんがいるのか、こうしちゃぁおられん』
と、そろりそろり、逃げようとしたと。

 すると、ちょうどその晩、馬泥棒も馬を盗みに来ておって、馬小屋の天井にしのびこんでいたんだが、
逃げ出したのが、てっきり馬だと思うて、その背にとび乗った。さぁ、虎はたまげた。
”古屋のもり”につかまったと早合点して、どうにか振り落とそうと、とびはね、とびはね逃げ走った。
馬泥棒は馬泥棒で、落とされてなるものか、と、ぎっちりしがみついていたんだと。

 そのうちに夜が明けはじめて、あたりが明るくなってきたら、今度は、馬泥棒がたまげた。
「ぎゃ、馬じゃねがった。と、虎じゃぁ。こりゃぁおおごとだぁ、く、食われちまう」
何とかせにゃぁと、虎の背で思案していると、行く手に、木の枝が突(つ)ん出ているのが見えた。
馬泥棒は、しめたとばかりにとびついた。
 ところが、木は枯木だったと。パリッと折れて、木の根っこにあいていた穴に落ちてしもうた。
虎は、やっとのことで”古屋のもり”が離れたから、ほっとして歩いていると、猿に出合うたと。
そこで、虎がおっかなかったこれまでのことを話したら、猿は、
「そんなもん、いるはずがねぇ」と本気にしない。
虎は猿を馬泥棒の落ちた穴へ連れていった。

 猿は暗い穴の中をのぞきながら、
「古屋のもりは、おれがつかまえてやる」と、長いシッポを穴の中にたらした。
そうしたら、穴の中にいた馬泥棒は上から綱がおりてきたもんだから、
「これは助かった」と、しっかり綱につかまったと。
猿は、下から引っ張られたので、穴の中に落ちそうになった。あわてて、
「古屋のもりにつかまった。助けてくれ―」とたのんだが、虎は、
「おれの話を信じなかった罰だ、ゆっくりつかまえてこいよ」と言い残して、どこかへ行っちまったと。
後に残された猿は、顔をまっ赤にして、どたばたもがいていたと。
そうしたら、しっぽが、ボッチリちぎれてしもうたと。
猿の顔が赤くて、しっぽが短くなったのは、それからだって。

 どっとはらい