民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

語り手のわたしと聞き手のあなたが
一緒の時間、空間を過ごす。まさに一期一会。

「花咲き山」 斎藤 隆介 リメイク 3 ショート・バージョン

2012年10月28日 01時10分58秒 | 民話(リメイク by akira)
 「花咲き山」 ショート・バージョン 斉藤隆介 リメイク by akira

 今日は「花咲き山」って、ハナシ やっか。
(花が咲く山 って、書いて、花咲き山だ。)

 おれが ちっちゃい頃、ばあちゃんから 聞いた ハナシだ。
ほんとか うそか わかんねぇ ハナシだけど ほんとのことだと 思って 聞かなきゃなんね。

 このハナシには あや っていう子が 出てくる。
(ひらがなで あや だ)
おれは このハナシ、イヤっていうほど 聞かされたが、
(ばあちゃん、このハナシが 好きだったからな)
このハナシを聞くたび、この あや って子は ばあちゃんの ことじゃねぇか と思って 聞いてた。

 一度 ばあちゃんに 聞いてみたことがある。
「この あや って子は ばあちゃんの ことじゃねぇのけ?」
ばあちゃん、笑ったきり 答えて くんなかった。

 むかしの ことだそうだ。

 ある 山のふもとに あや っていう子が いたと。

 ある日(のこと)、あやは、おかぁに頼まれて、山に ワラビを取りに 行ったと。
ところが、ワラビをさがしてるうち、いつのまにか 道に 迷っちまったと。
あっちこっち、うろうろしていると、いい 花の香りが してくる 山を 見つけたと。
誘われるように 山に入って行くと、色とりどりの 花が 一面に 咲いているところに 出たと。

 あやが 夢中になって 花を見ていると、後ろに 誰かいる気配を 感じたと。
ふり返ってみると、まっ白の髪を 腰ぐれぇまで伸ばした ばさまが 杖をついて 立っていたと。

 「やまんば!?」
あやは 山には やまんばていう こわい ばさまが いるっていう うわさを思い出した。
(あやが)驚いて 立ちすくんでいると、
「驚くんでねぇ。・・・おめぇに 話してぇことがある。・・・まぁ、そこにすわれ。」
あやが 言われるままに すわると、ばさまも 一緒に すわって、やがて 話し 始めたと。

 「わしは この山に 住む 婆(ばば)だ。(以下 やまんばの独白)
わしのことを やまんば などと言って こわがるヤツもいる。
だが、わしは 人が こわがるようなことを したことは ねえ。

 臆病なヤツが 山ん中で わしに出会うと、こわがって 逃げようとする。
(まるで 化けモンにでも 出会った ようにな)
あわてて 逃げるもんだから、転んで 怪我をしたり、中には 崖から 落ちるヤツもいる。
人は みんな それを、わしの せいに する。
困ったもんだ。
 

 あや、おめぇは やさしい子だから、わしのこと ちっとも こわく なかんべ。
あっ、今、なんで おらの名前 知ってんだべ って、顔 したな。
わしは なんでも 知っている。
おめぇの 名前も、・・・おめぇが、どうして、この山に 来たのかもな。

 どうだ、この 一杯に 咲いている花、・・・きれいだべ。
どうして、こんなに 一杯 花が咲いているか、知りたくねぇか。
おめぇには 教えてやろう。

 人が ひとつ やさしいことをすると、この山に ひとつ 花が咲く。
この 山の花は みんな 人の やさしさが 咲かせたものだ。

 あや、そこに 赤い花が 咲いているべ。
その 赤い花は 昨日、おめぇが 咲かせた花だ。

 あや、昨日のこと 覚えているか?
昨日、おめぇは おかぁと 妹のそよと 三人で、祭りで着る 着物を 買いに行ったべ。
そして そよが、
「おら、この 赤いべべがほしい。」って、駄々こねて、おかぁを 困らせた時、
おめぇは 言ったべ、
「おかぁ、おら、いらねぇから、そよに 買ってやれ。」・・・ってな。

 そう言った時、その 赤い花が 咲いた。

 おめぇは 家(うち)が貧乏で、二人に 着物を買う 金が ねぇことぐらい 知っている。
だから、おめぇは 自分だって 新しい着物が ほしいのを ガマンして、そよに 譲ってあげた。
おかぁは どんなに ありがたかったか。
そよは どんなに 嬉しかったか。

 おめぇは せつなかったべ。
祭りの 時には、友達 みんなが 新しい 着物を 着てくる。
そん中で、おめぇだけ 一人、古い 着物を 着て行くのは つらいもんな。

 だけど、おめぇは ガマンした。
妹のためを思って ガマンした。
おめぇの その やさしい気持ちが、その 赤い花を 咲かせた。

 この 山の花は みんな そうした 人のやさしさが 咲かせたものだ。
ウソじゃねぇ、ほんとのことだ・・・。あや、おめぇには わかるな。」(以上 やまんばの独白)

 「うん。」
あやが こくりと うなづくと、(ここからは昔話の語り口調で)
ばさまは あやを 背中におぶって、風のような 速さで 山ん中を 走り、
あっという間に 家(うち)の近くに 着いたと。
そして、あやをおろすと、あやの頭を なで、
「おめぇの その やさしい気持ち、いつまでも そのままにな。」
 そう言うと、(お礼を 言う間もなく)山ん中へ 消えていったと。 

 うちに帰って、おとぅと おかぁに 山でのことを 話すと、
「そんな 一杯に 花が咲いている 山が あるなんて、見たことも 聞いたこともねぇ。
夢でも 見たか、それとも キツネにでも 化かされたんじゃ ねぇのか。」
 そう言って、本気にしては もらえなかったと。

 それから、あやは もう一度 あの花が 見たいと、何度か あの山を 捜しに 行ったと。
だけど、ばさまに 会うことも、あの花を 見ることも できなかったと。

 けれども、あやは、そのあと、
「あっ、今、あの山で おらの花が 咲いた!」って、思うことが あったと。

 おしまい 
 

「花咲き山」 斎藤 隆介 リメイク 2

2012年10月17日 00時49分00秒 | 民話(リメイク by akira)
 「花咲き山」 斉藤隆介  リメイクby akira

 今日は「花咲き山」って、ハナシ やっか。
(花が咲く山 って、書いて、花咲き山だ。)

 おれが ちっちゃい頃、ばあちゃんから 聞いた ハナシだ。

 このハナシには あや っていう子が 出てくる。
おれは このハナシ、イヤっていうほど 聞かされたが、
(ばあちゃん、このハナシが 好きだったからな)
このハナシを聞くたび、この あや って子は ばあちゃんの ことじゃねぇか と思って 聞いてた。

 一度 ばあちゃんに 聞いてみたことがある。
「この あや って子は ばあちゃんの ことじゃねぇのけ?」
ばあちゃん、笑ったきり 答えて くんなかった。

 むかしの ことだそうだ。

 ある 山のふもとに あや っていう子が いたと。

 ある日(のこと)、あやは、おかぁに頼まれて、ワラビを取りに 山に 行ったと。
ところが、夢中になって ワラビをさがしてるうち、いつのまにか 迷子に なっちまったと。
あっちこっち、うろうろしていると、いい 花の香りが してくる 山を 見つけたと。
誘われるように 山に入って行くと、色とりどりの きれいな花が 一面に 咲いているところに 出たと。

 あやが 花に夢中になっていると、後ろから、声が したと。
ふり返ってみると、まっ白の髪を 腰まで伸ばした ばさまが 杖をついて 立っていたと。

 「やまんば!?」・・・あやが 立ちすくんでいると、
「こわがらなくてもいい。おめぇに 話したいことがある。・・・まぁ、そこにすわれ。」
あやが 言われるままに すわると、ばさまも 一緒に すわって、やがて 話し 始めたと。

 「わしは この山に 住む 婆(ばば)だ。(以下 やまんばの独白)
わしのことを やまんば と言って こわがるヤツもいる。
だが、わしは 人が こわがるようなことを したことは ねえ。

 臆病なヤツが 山ん中で わしに出会うと、こわがって 逃げようとする。
まるで 化けモンにでも 出会った ようにな。
 あわてて 逃げっから、転んで 怪我をしたり、中には 崖から 落ちるヤツもいる。
 人は みんな それを、わしの せいに する。
 困ったもんだ。
 
 あや、おめぇは やさしい子だから、わしのこと ちっとも こわく なかんべ。
 なんで おらの名前 知ってんだべ って、顔 してんな。
 わしは なんでも 知っている。
おめぇの 名前も、・・・おめぇが、どうして、この山に 来たのかもな。
おかぁに 頼まれて、ワラビを 取りに 来たんだべ。
 ところが、おめぇは 道に 迷っちまって、この山に来た。

 どうだ、この山は びっくりするくれぇ 一杯 花が咲いているべ。
 どうして、こんなに 一杯 花が咲いているか、知りたくねぇか。
おめぇには 教えてやろう。

 人が ひとつ やさしいことをすると、ひとつ 花が咲く。
この山の花は みんな 人のやさしさが 咲かせたものだ。

 あや、おめぇの 足もとに 咲いている その 赤い花。
その 赤い花は 昨日、おめぇが 咲かせた花だ。

 あや、昨日のこと 覚えているか?
昨日、おめぇは おかぁと 妹のそよと 三人で、祭りで着る 着物を 買いに行ったべ。
そして そよが、「おら、この 赤いべべがほしい。」って、駄々こねて、おかぁを 困らせた時、
おめぇは 言ったべ、「おかぁ、おら、いらねぇから、そよに 買ってやれ。」・・・ってな。

 そん時、その 赤い花が 咲いた。

 おめぇは 家(うち)が貧乏で、二人に 着物を買う 金が ねぇことぐらい 知っている。
だから、おめぇは 自分だって 新しい着物が ほしいのを ガマンして、妹のそよに 譲ってあげた。
おかぁは どんなに ありがたかったか。
そよは どんなに 嬉しかったか。

 おめぇは せつなかったべ。
祭りの 時には、友達 みんなが 新しい 着物を 着てくる。
そん中で、おめぇだけ 一人、古い 着物を 着てんのは つらいもんな。
 だけど、おめぇは 妹のためを思って ガマンした。
おめぇの その やさしい気持ちが、その 赤い花を 咲かせた。

 ここの花は みんな そうして 咲いた。

 ほら、そこに、今 咲こうとしている 白い花が あるべ。
その 白い花は、今、双子の 赤ん坊の あんちゃんが 咲かせようとしている。
 双子の 弟が かぁちゃんの おっぱいを ウクンウクン って 飲んでいる。
もう片っ方の おっぱいも 手でいじくっていて 放さねぇ。

 あんちゃんは ちょっと 先に 生まれただけなのに、
自分は あんちゃん だからって、おっぱいが飲みたいのを ガマンしている。
目に 一杯 涙をためてな・・・。

 ほら、今、こらえきれなくなって、涙が ポトリと 落ちた。
その落ちた涙が その白い花の 葉っぱの上で キラキラ 光っている 露(つゆ)だ。

 自分が したいこと、やりたいことを ガマンする。
目に 一杯 涙をためて ガマンする。
その やさしさと けなげさが ここの花を 咲かせる。

 ウソじゃねぇ、ほんとのことだ・・・。あや、おめぇには わかるな。」(以上 やまんばの独白)

 「うん。」あやは こくりと うなづいたと。(ここからは昔話の語り口調で)
「おめぇの その やさしい気持ち、いつまでも そのままにな。」
ばさまは あやの 頭を やさしく なで、帰り道を 教えてくれたと。

 うちに帰ると、おとぅと おかぁに 山のことを 話したと。
「そんな 一杯に 花が咲いている 山が あるなんて、見たことも 聞いたこともねぇ。
(おおかた)夢でも 見たか、キツネにでも 化かされたんじゃ ねぇのか。」
 本気にしては もらえなかったと。

 それから、あやは、もう一度、あの花が 見たくなって、あの山を 捜しに 行ったと。
だけど、ばさまに 会うことも、あの花を 見ることも できなかったと。

 けれども、あやは、そのあと、
「あっ、今、あの山で おらの花が 咲いた!」って、思うことが あったと。

 おしまい 
 

「”へ”って、こわい」 リメイク by akira

2012年10月15日 00時34分24秒 | 民話(リメイク by akira)
 「”へ”って、こわい」 参考 「屁一つで村中全滅」フジパン、福娘童話集

 今日は ”へ”のハナシ やっか。
”へ”って、なんか わかっか?(尻から 出る ヤツな)

 おれが ばあちゃんから 聞いた ハナシだ。

 へっぴり嫁、せんべいこわい、草刈った、・・・ばあちゃん、”へ”のハナシ 好きだった。
おれら ちっちゃい時、人前では ”へ”しちゃいけねぇ って教わっていたから、
”へ”のハナシは なんか 恥ずかしくて、素直に 聞けなかった。

 ばあちゃん、あっけらかんと 「ブッ!」って やってた。
おれは ばあちゃん 恥ずかしくないんかな って 思いながら 聞いてた。
まだ ちっちゃかった 妹は 転げまわって おもしろがって いた。
それを見て、あっ、妹は まだ ガキなんだな、なんて 思ったもんだ。

 ばあちゃん、たまに 本物の ”へ”の音 させようと いきばったりしたけど、なかなか出なくてな。
今じゃ、なつかしい 思い出だ。・・・(あぁ、ばあちゃんのハナシ、また 聞きてぇな)

 そんな ”へ”のハナシ、やっか。

 むかーしの ことだと。

 ある 小さな 村に、一人の 娘が いてな、
この娘、かわいそうに ”へ”が出る 性分だったと。
出もの 腫れもの ところかまわず って言うけど、
”へ”をしちゃ まずい っていうとこでも ”へ”が出る。
「こんなんじゃ、一生、嫁にいけねぇかも しんねぇな」
親は 心配で しょうがなかったと。

 ところが、捨てる神あれば、拾う神あり、ってほんとだな。
ある夏の日 娘が 山を 五つ越えた 村での お祭りに 行った時、
そこで 知り合った 村の 長者の 一人息子に みそめられてな、
ぜひ、嫁に ほしい って 言ってきたと。

 願ってもない話と トントン拍子に 話が進み、いよいよ、娘が 嫁に行く って いう時、
親は、「嫁に行ったら、人のいるとこで ”へ”をしちゃ なんねぇぞ」って、言い聞かせたと。

 さて、祝言の席、娘は ”へ”が したいのを ガマンしていたと。
だけど、”へ”が出る 性分だ。
ガマンにも 限界がある。
娘は とうとう ガマンできなくなって、「プーーッ!」・・・って、やっちまったと。

 一瞬、なにごとかと 空気が とまった。
そして、”へ”をしたのが 嫁さん だってのが わかると、
みんな 嫁さんを 見て、笑いを かみ殺していたと。

 娘は 顔を真っ赤にして 外に飛び出すと、池に 飛び込んで 死んじまったと。

 あわてて 娘を 追いかけた ムコどの、
「やっと 一緒になったのに、”へ”ひとつで 死なせてしまうとは、おわびのしようがない」
池に 飛び込んで 死んじまったと。

 それを見てた 長者の親、
「一人息子に 死なれては、もう 生きてく 張り合いもない」
池に 飛び込んで 死んじまったと。

 今度は 娘の親、
「娘のせいで とんでもないことになった、申し訳ない」
池に 飛び込んで 死んじまったと。

 それから、新郎の親戚、新婦の親戚、みんな、
「やれ、いたわしや」
次から 次へ 池に 飛び込んで 死んじまったと。

 それを聞いた 村のもん、
「長者さまが いなくなっては、この村は やっていけない」
村のもんも 次々と 川に 飛び込んで 死んじまったと。

 そして、とうとう 村には 誰も いなくなっちまったと。

 ”へ”ひとつで 村が全滅、・・・”へ”って こわいね。

おしまい

「ダイコンさんが白いわけ} リメイク by akira

2012年09月27日 01時10分54秒 | 民話(リメイク by akira)
 「にんじんさんが赤いわけ」  元ネタ 松谷みよ子 むかしむかし 6 講談社

 むかーし、むかし、おじさんが 子供のころ 聞いた話 なんだけどね。

 ニンジンさんと、ゴボウさんと、ダイコンさんが、一緒に、お風呂に 入ったんだって。

 ニンジンさんは せっかちでね、
 「さあ、入いっぺ。」
って、いきなり 飛び込んだんだって。
 そうしたら、お湯が 熱くて 熱くて、「アッチッ チッ チッ」って、飛び上がったんだって。
 でも、ニンジンさんは、負けず嫌いでね。
「うーん」って うなりながら、ゆでだこみたいになって 入っていたんだって。

 次に ゴボウさんが 入ったんだけどね。
ゴボウさんは お風呂が 嫌いでね、
 「アッチッ チッ チッ、こんな熱いお風呂 入ってられっか!」
って、ろくに 洗いもしないで、出たんだって。

 次に、ダイコンさんが 入ったんだけどね。
ダイコンさんは きれい好きでね、
水を入れて、よーく かんまわして、冷(さ)ましてから、ゆっくりお風呂に入って、
それから、よーく からだをゴシゴシ洗って、出たんだって。

 そんだから、ニンジンさんは どうしたんだっけ?
熱いのをガマンして入って、ゆでだこみたいになったんだよね。
だから、ニンジンさんの色は真っ赤なんだって。

 ゴボウさんは どうしたんだっけ?
よーく 洗わないで 出て来ちゃったんだよね。
だから、ゴボウさんの色は黒いんだって。

 ダイコンさんは どうしたんだっけ?
きれいに洗って 出たんだよね。
だから、ダイコンさんの色は真っ白なんだって。

 ほんとかな?

 とっぴんぱらりのぷう。(おしまい)

「恵比寿さま」 リメイク by akira フル・バージョン 

2012年09月22日 22時58分38秒 | 民話(リメイク by akira)
 「恵比寿さま」 

 私は 民話を語るとき、こんな情景を 思い浮かべて 語っています。

 雪国です。・・・季節は冬。
雪が「しん しん」と、降っています。
 夜です。・・・むきだしの小屋ウラからつるされた ランプの炎が ゆら ゆらと ゆれています。
いろりでは マキが「ぱちっ ぱちっ」・・・時折 はぜながら 燃えています。
自在カギにかけられた ナベからは「ぐっつ ぐっつ」・・・なにか 煮えてる音が しています。

 そのほかには なんの音もしない、雪の降る音さえ 聞こえてきそうな しんとした 静けさです。

 そんな中で 家族のみんなが もくもくと よなべ仕事をしています。
じいちゃんは ワラで 縄(なわ)を なっています。
ばあちゃんは 糸を よっています。
とうちゃんは 草履(ぞうり)を 編(あ)んでいます。
かあちゃんは 針で なにか 縫(ぬ)っています。

 子供だって 遊んでなんか いません。
子供にでも できる仕事があります。
タバコの葉をのばしたり、綿のゴミを取ったり、・・・いろいろと。
子供たちは 昼間 思いっきり 遊んでいるので、夜になると へとへとです。
それでも 眠い目を こすり こすり、仕事をしています。
だけど 単調な 仕事なもんだから、つい うとうと してしまいます。

 そんな時は ばあちゃんの 出番です。(時には じいちゃんが)
子供たちの 目を 覚まさせようと、声をかけます。
「ムカシ、語っか。」
「わーい。」
子供たちが 喜びの声をあげます。

 そんな風にして、ばあちゃんが 語り始めます。
糸を よりながら・・・ ポツリ・・・ポツリ・・・

 今日は「恵比寿さま」って、ハナシ やっか。

 オラが ちっちゃい頃、ばあちゃんから聞いたハナシだ。
ほんとか うそか わかんねぇけど、ほんとのことだと思って 聞かなきゃなんねぇ。

 むかーしの ことだそうだ。
 
 ある村のはずれに ばさまと 孫の優太が 二人っきりで 暮らしていたと。
(優太ってのは、優しいっていう字に 太いって字で、優太だ)
優太は 不幸にも おとぅとおかぁに 先立たれて ひとりぼっちに なっちまってな、
たったひとり身内の ばさまが 引き取って 育てていたと。
 わずかばかしの 畑をたがやし、その日食うのが やっとの 貧しい暮らしだったと。

 年を取ってから 子供を育てるってことは 大変なことだ。
「年寄りっ子は 三文安い。」なんて 言われねぇように、
「やーい、あまえっこ。」なんて バカにされねぇように、
ばさまは 心を鬼にして きびしく 育てていたと。
 それに 暮らしは 貧しくても、心まで 貧しくあっては なんねぇ と、
「いいか、優太。・・・心の貧しい人間ってのは 人を見かけで判断する人間のことを 言うんだぞ。
おめぇは 人を見かけで 判断しちゃいけねぇ。
誰にでも どんな人にでも 優しく するんだぞ。・・・困った時は 相見互い。」
 ばさまは くり返し くり返し 言って聞かせたと。

 ばさまは 小さい時から 恵比寿さまを 大事にしていてな、
朝に夕に 恵比寿さまに 手を合わせて 拝んでいたと。
それに、なんかちょっとでも いいことがあると、恵比寿さまに感謝して 手を合わせて 拝んでいたと。
 優太は そんな ばさまの後姿を見て、感謝の心を 学んでいったと。

 ある日のことだ、ばさまが 優太に なにか食べさせようと、畑に行く途中、
道に迷って 困ってる様子の お坊さんに 行き会ったと。
「ごくろーさんで・・・なにか お困りですか?」ばさまが 声をかけると、
「この お寺に行こうと してるんだが、・・・どうも 道をまちがえたようじゃ。」
「どれ どれ。・・・あっ、ここは やっかいなところじゃ。どれ、おらが一緒に 行ってあげんべ。」
ばさまは 家で 腹をすかして待っている 優太のことも忘れて、
お坊さんを お寺まで 連れていって あげたと。

 お寺に 着くと、
「おおー、ここじゃ、ここじゃ。・・・ばあさんや、世話になったの。・・・これは お礼じゃ。」
そう言って、紙に包んだものを 差し出したと。
「と、とんでもねぇー、おら、そんなつもりじゃ・・・」
「それは わかる。・・・ほんの気持ちじゃ。」
そんなやりとりが 何度かあって、
「ほんじゃ、ありがたく いただきますだ。」
ばさまは 申し訳なさそうに 受け取ったと。

 うちへ帰って あけてみっと、銭っこが 入っていたと。
さっそく 優太を呼んで、
「これで なんかうんまいもの 買ってきて 食うか。・・・おめぇー、なにか 食いてぇものあっか?」
「おいら、・・・ぼたもちが食いてぇな。」
「ほうか、ほうか、じゃ、これで 買っておいで。」

 銭っこを あとがつくほど しっかと 握って、お店に行くと、ぼたもちが 二つ 買えたと。
「こっちは ばあの分、こっちが おらの分。」
嬉しそうに ぼたもちを ながめながら 帰る途中、
ぼろぼろの服を着た じいさんが 道っぱたに 倒れていたと。
「おじさん、どうしたの?」
優太が 声をかけると、
「腹がへって 動けねえだ。・・・おら、もう 三日も なんにも 食ってねえだ。」
優太は じいさんの顔と ぼたもちを かわりばんこに 見て、
「どうしようかな?」って、迷っていると、
ばさまの 顔が 浮んできて、・・・ばさまの 声が 聞こえてきたと。

「困った時は 相見互い」・・・だぞ。

「おじさん、・・・これ、食ってくんろ。」
優太は ぼたもちをひとつ つかむと そのじいさんに あげたと。

「ただいま。」
うちへ帰って、優太が 差し出した ひとつしか入ってねぇ ぼたもちを見て、
「なぁーんだ、一つっきり 買えなかったんか?」
「ううん、ふたっつ 買えたんだけど、おら 途中で 我慢できなくなって 食っちまったんだ。」
ばさまは それを聞いて、
「あっ、優太に なんかあったんだな。」って、すぐに 気がついたと。
「おらは 年だから ひとつも食えねぇ。・・・二人で 半分こして 食うべな。」
 ばさまと優太は ひとつのぼたもちを わけあって 食べたと。
「ぼたもちは うんめぇな。」
「うんめぇな。」
二人は 顔を見合わせて にっこ にっこ 笑ったと。

 その夜は しんしんと 冷え込む 寒の戻りがあってな、
わずかに残った マキをくべて、二人は いろりのそばで 身を寄せ合って 寝たと。
「ぶるっ、ぶるっ」
ばさまが 寒さで 目を覚まして、マキをくべようとした時だったと。

「チンチンカラリン チンカラリン。・・・チンチンカラリン チンカラリン。」

 大勢の にぎやかな声が 近づいてきたかと思うと、
うちの前で 止まって、・・・軒の下で「どっさ」と、ものをおく 音が 聞こえたと。
「あれぇー、なんだんべぇ?」
ばさまが 起き上がって 戸をあけてみっと、
なんと、恵比寿さまを 真ん中に 七福神の みんなが 勢ぞろいして 立っていたと。
その前には 米やら、味噌やら、着物やら、いろんなものが どっさと 山のように 積んであったと。
その山の てっぺんには 二人じゃ 食いきんねぇほどの ぼたもちも のっかって いたと。

 ばさまが 優太を起こして、二人で 手を合わせて 拝んでいると、
「ばさまや、・・・お寺までの道案内 ありがたかったぞ。
優太や、・・・ぼたもちは うんまかったぞ。
これは お礼じゃ。」
 そう言うと、すーっと、消えて いったと。

「情けは 人のためならず」

 それから、ばさまと優太は 幸せに 暮らしたとさ。

 おしまい