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「お」を付けて美化語を量産してきた保育界

2006-08-01 09:15:24 | 子ども・子育て・保育
 文化庁が26日に発表した05年度「国語に関する世論調査」は、敬語に関する意識調査として言葉の頭に「お」を付ける美化語について発表した。言葉の頭に付けるのだが、接頭語(辞)のように言葉の意味を変える(さ迷うなど)のではなく、物言いを丁寧で上品にするためである。

 「お」付け言葉は、長年保育界に身をおいてきたわたしとしては、業界言葉と思っていた。長年歌われている昼食時の歌
 ♪おべんと おべんと うれしいな
降園時の歌
 ♪おかえり おしたくできました
 保育界に適応していくためには、この「お」付け言葉を使用しなければならなかった。この物言いが、男性が保育界になじんでいくためにある、いくつかの関門のひとつでもあった。
 しかし「お集まり」「お片づけ」「お帰り」など、どれも抵抗があって使えなかった。教師が「お集まり」というと、子どもが「お片づけ」といいながら遊びを中断する。「片付けて教室へ入りなさい」といったほうが、行動を促す言葉として適切なのだ。状況によっては「急いで片付けて・・・」となるのである。
 そこでわたしは、学生時代読んだ本に、動詞に「お」を付けて名詞化するのはよくないと書いていたのを思い出して、提案したのだった。動詞の持っている行為の多様な表現を狭めることになる、なんて生意気な理屈を付けたものだった。
  
 長年使いなじんできた言葉を変えることは、ベテランの先生方にそうとう抵抗があったに違いない。何年かたつうちに、女性が子どもに対してバカ丁寧に遠まわしな言い回しは、薄らいでいったようであった。「お」付け言葉が少なくなったのだった。これは単に「お」を取って乱暴な言い回し、あるいは男言葉にすることではない。今思えば、保育におけるジェンダーの問題でもあったのだった。
 じつはそれだけにとどまらない、子どもにおもねることのないコミュニケーションのあり方、子ども観、子どもの発達を深いところで見るといったような、保育のあり方を根源的に問い直すことにつながっていったようであった。
 
 朝日新聞(06-7-27)によると、「お」を付けることの多い言葉の上位は、菓子、酒、米、皿、弁当、茶わん、酢、天気、薬、手紙、と続く。これから分かることは、「お」を付けるのは、家事にまつわる言葉が多い。ということは女言葉でもあるのだ。このところ言葉使いの男女の境界が消えてきているので、男性が「お」付け言葉の使用に抵抗がなくなっているようだ。
 言葉使いというのは、幼い時からなじんでいる語感というものがあるようだ。わたしは上記の言葉で「お」と付けて使っているのは、お菓子ぐらいである。都市で育っていないせいかもしれない。しかし年配者が言う菓子という語感に、職人が焼くせんべいやあられのようなイメージがわくのだ。

 また、言葉の問題としては、外来語に「お」をつけるのはよくないはずである。「おビール」などは夜の男性接客が震源地かもしれない。でも「おトイレ」ともいうのは、ことの核心をさけ、まさしく美化するためなのだろう。

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