[141] 絵本の扉を開く-その1 (2004年06月28日 (月) 14時11分)
絵本への関心の高まり
絵本は、年間1000点あまり(03年の場合)発行されており、世界有数の絵本大国といってもよいでしょう。絵本は子ども、とくに乳幼児期を対象にしていますが、年齢を超えて大人にも読まれるものが出回るようになりました。内容に年齢を超える普遍性がある場合は、境界が溶けていくことは当然のことです。また、対象をあらかじめ大人にしている絵本も、出版されています。
絵本は、幼い子どもの理解を可能にするために、とかく文章を少なくして絵でそれを補う、と思われがちです。文章と絵がそれぞれ独自な力を持ち、それが主張しかつ折合って、絵本という表現をしている本なのです。絵本は、独自な表現手段を備えた分野の本として認知されてきたのではないでしょうか。
絵本の絵は、子ども向けとしている童画とは限らなくなってきています。絵画制作者として作品が世の評価を得ている人が、絵本制作に取り組んでいます。また欧米の絵本は、子どもを対象にしながらも童画という概念がないことに象徴されるように、狭義の教育の役割を持つとは限りません。内容のメッセージ性など、深い思索の世界を提示しているものもみられます。このようなことは、絵本が年齢を越えた本であることをうながす要因にもなっています。
絵本が、対象を子どもに限定したものと限らなくなっているため、本の一分野に位置づき商品として価値、つまり販売部数に関心が向くようになります。絵本が数年で100万部販売といった、かつて考えられなかったことが話題になり、市場としての活気が出てきている側面もみられます。これは絵本がことさら「教育的」という枠に閉じ込めるのではなく、娯楽性も含めた多様な作品の出版が活発になる可能性を秘めていることでもあります。このような状況は一般の本にあるような、受け手に作品を吟味する力が求められてきているといえます。
求められる絵本を伝える者に、書評、批評・評論をする力
メディアでの絵本の扱いは、新聞の書評欄のひとつの分野として、あるいは独立した絵本欄を設けるようになってきています。家族が気に入った絵本を披露する、いわゆる著名といわれる人によるによるお薦め絵本のコメント、作家紹介といった企画がみられます。その内容は、お勧め絵本という形をとるため、結果として販売誘導かのような扱いが多く、書評ともいいがたい状況です。メディアもっぱら絵本の普及、啓蒙期、という位置付をしているように思われます。
文化人といわれている人の絵本論も盛んです。絵本が、子育てや保育の世界だけの文化財ではないことを意味しています。絵本の内容が、子どもの生活や思考や行動の特徴にそったものとは限らず、死や障害児やお年寄りのことなど、子ども向けでは無理と思われがちな作品も多くを見ることが出来ます。そのような状況が、絵本や児童文学のとは異なる専門性からの絵本への接近が必要しており、彼らの絵本論は魅力的でもあります。しかし絵本を、とかく向日性のものとみる傾向があり、評論とは遠いものが多いといっても過言ではありません。
ところが年間1000点あまり発行される絵本の受け手が、選択する力を得ることとによって、よい作品を生み出すために必要な書評、とくに批評・評論といった分野を、確立させていかなければならないのではないでしょうか。かつて作家などの専門家による絵本評論の雑誌がありましたが、それが消えて一般雑誌が絵本を啓蒙的に特集したり、ブックガイド本の出版も多く見られます。
絵本は、大人が読み聞かせるという形で、子どもに伝えられます。絵本を子どもに伝える橋渡しをしているのは、親、図書館職員、保育者、保育を専攻する学生、絵本専門の書店、読み聞かせサークル活動をしている人たちです。子どもに読み聞かせをし、大人もその世界を楽しむことは、絵本の歴史とともにありました。ところが絵本論を展開するのは、絵本作家や児童文学研究者などの一部人のものです。
絵本をもっとも子どもへ伝える立場にある保育園と幼稚園の保育者、あるいは保育を専攻する学生が、絵本の書評、さらに批評・評論を出来るぐらいの専門性があってもよいはずです。保育者が5年ぐらい保育を経験すると、一般的にはおそらく50冊ぐらいの作品を知っているでしょう。しかし書名、内容、作者など記憶にとどめ、絵本の世界を理解している保育者は、少ないのが現実です。
多くは保育活動での絵本の位置付けが、ある活動の補助的なためです。読み聞かせで子どもに絵本の楽しさ体験をさせる時間をともにすることが中心であるため、作品の内容についての関心に至らない状況でしょう。絵本に関心のある保育者は、自分の好きな絵本の世界を持っていて、子どもの反応にも関心が向いている場合があります。
しかし重要なことは、絵本を子どもへ伝える橋渡しをする保育者、あるいは保育を学ぶ学生、親、子どもの文化財に関心のある人が、子どもの文化財として記憶にとどめ作品世界について、批評、評論する力を持つことです。それが子どもに絵本の世界の楽しさを伝える力になり、やがて作家や出版社に子どもにとってよい作品であることの意味を伝え、優れた文化財としてのよい絵本を生み出す環境づくりになることでしょう。
絵本への関心の高まり
絵本は、年間1000点あまり(03年の場合)発行されており、世界有数の絵本大国といってもよいでしょう。絵本は子ども、とくに乳幼児期を対象にしていますが、年齢を超えて大人にも読まれるものが出回るようになりました。内容に年齢を超える普遍性がある場合は、境界が溶けていくことは当然のことです。また、対象をあらかじめ大人にしている絵本も、出版されています。
絵本は、幼い子どもの理解を可能にするために、とかく文章を少なくして絵でそれを補う、と思われがちです。文章と絵がそれぞれ独自な力を持ち、それが主張しかつ折合って、絵本という表現をしている本なのです。絵本は、独自な表現手段を備えた分野の本として認知されてきたのではないでしょうか。
絵本の絵は、子ども向けとしている童画とは限らなくなってきています。絵画制作者として作品が世の評価を得ている人が、絵本制作に取り組んでいます。また欧米の絵本は、子どもを対象にしながらも童画という概念がないことに象徴されるように、狭義の教育の役割を持つとは限りません。内容のメッセージ性など、深い思索の世界を提示しているものもみられます。このようなことは、絵本が年齢を越えた本であることをうながす要因にもなっています。
絵本が、対象を子どもに限定したものと限らなくなっているため、本の一分野に位置づき商品として価値、つまり販売部数に関心が向くようになります。絵本が数年で100万部販売といった、かつて考えられなかったことが話題になり、市場としての活気が出てきている側面もみられます。これは絵本がことさら「教育的」という枠に閉じ込めるのではなく、娯楽性も含めた多様な作品の出版が活発になる可能性を秘めていることでもあります。このような状況は一般の本にあるような、受け手に作品を吟味する力が求められてきているといえます。
求められる絵本を伝える者に、書評、批評・評論をする力
メディアでの絵本の扱いは、新聞の書評欄のひとつの分野として、あるいは独立した絵本欄を設けるようになってきています。家族が気に入った絵本を披露する、いわゆる著名といわれる人によるによるお薦め絵本のコメント、作家紹介といった企画がみられます。その内容は、お勧め絵本という形をとるため、結果として販売誘導かのような扱いが多く、書評ともいいがたい状況です。メディアもっぱら絵本の普及、啓蒙期、という位置付をしているように思われます。
文化人といわれている人の絵本論も盛んです。絵本が、子育てや保育の世界だけの文化財ではないことを意味しています。絵本の内容が、子どもの生活や思考や行動の特徴にそったものとは限らず、死や障害児やお年寄りのことなど、子ども向けでは無理と思われがちな作品も多くを見ることが出来ます。そのような状況が、絵本や児童文学のとは異なる専門性からの絵本への接近が必要しており、彼らの絵本論は魅力的でもあります。しかし絵本を、とかく向日性のものとみる傾向があり、評論とは遠いものが多いといっても過言ではありません。
ところが年間1000点あまり発行される絵本の受け手が、選択する力を得ることとによって、よい作品を生み出すために必要な書評、とくに批評・評論といった分野を、確立させていかなければならないのではないでしょうか。かつて作家などの専門家による絵本評論の雑誌がありましたが、それが消えて一般雑誌が絵本を啓蒙的に特集したり、ブックガイド本の出版も多く見られます。
絵本は、大人が読み聞かせるという形で、子どもに伝えられます。絵本を子どもに伝える橋渡しをしているのは、親、図書館職員、保育者、保育を専攻する学生、絵本専門の書店、読み聞かせサークル活動をしている人たちです。子どもに読み聞かせをし、大人もその世界を楽しむことは、絵本の歴史とともにありました。ところが絵本論を展開するのは、絵本作家や児童文学研究者などの一部人のものです。
絵本をもっとも子どもへ伝える立場にある保育園と幼稚園の保育者、あるいは保育を専攻する学生が、絵本の書評、さらに批評・評論を出来るぐらいの専門性があってもよいはずです。保育者が5年ぐらい保育を経験すると、一般的にはおそらく50冊ぐらいの作品を知っているでしょう。しかし書名、内容、作者など記憶にとどめ、絵本の世界を理解している保育者は、少ないのが現実です。
多くは保育活動での絵本の位置付けが、ある活動の補助的なためです。読み聞かせで子どもに絵本の楽しさ体験をさせる時間をともにすることが中心であるため、作品の内容についての関心に至らない状況でしょう。絵本に関心のある保育者は、自分の好きな絵本の世界を持っていて、子どもの反応にも関心が向いている場合があります。
しかし重要なことは、絵本を子どもへ伝える橋渡しをする保育者、あるいは保育を学ぶ学生、親、子どもの文化財に関心のある人が、子どもの文化財として記憶にとどめ作品世界について、批評、評論する力を持つことです。それが子どもに絵本の世界の楽しさを伝える力になり、やがて作家や出版社に子どもにとってよい作品であることの意味を伝え、優れた文化財としてのよい絵本を生み出す環境づくりになることでしょう。