【全訳】メルケル首相、自宅隔離から復活のスピーチ「“その後”は必ず訪れます」
“ドイツのおっかさん”アンゲラ・メルケル首相だ。3月22日、首相に予防接種をした医師の新型コロナウイルス感染が判明したため、自宅隔離に入ったが、検査で陰性となり戻ってきた。そして、テレビを通してイースター休暇を前にした国民に語りかけた。その全文をお届けする。
国民のみなさん、こんにちは。
今日、こうしてまた首相府からみなさんにお話しすることができるのを嬉しく思います。自宅隔離を終え、体調も万全です。私はいま、14日間一人で家にいること、そして14日間電話やインターネットでしか世界と繋がることができないのは、簡単ではないと確信しています。
新型コロナウイルスにより自宅に一人でとどまらなければならない高齢者や持病のある人にとって、そして私のように隔離を求められている人にとって、この時期はとくにそうでしょう。そうした状況にいる方々に、心からお見舞いを申し上げます。
このウイルスとの戦いにおいて、私と連邦政府にとって何が意思決定の指針となるのか、いま一度みなさんにお伝えします。まもなくイースターが始まります。ふだん教会に通う何百万人ものキリスト教徒にとって、復活祭(日曜日)とは、家族みんなで散歩をしたり、焚き火をしたり、あたたかい南部の湖で過ごしたりするものでしょう。でもそれは、これまでの話です。今年は違います。
私が今日申し上げたいのは、私たちはこれまでとはまったく異なるイースターを過ごすことになる、というものです。もちろん、キリスト教徒は受難日(金曜日)と復活祭を祝うことでしょう。でもほかの信者と共に教会に集まることはできません。この数週間、各教会がテレビやラジオ、インターネットを通して素晴らしい礼拝を多くの人々に届けてくれていることを嬉しく思います。イースター期間中はさらに増えることでしょう。
そして私は、国内の宗教施設で集まることができないユダヤ人やイスラム教徒、そのほかの宗教を信じるみなさんのことも想っています。緊急事態宣言は、社会に大きく影響するものであり、緊急時に最低限の期間しか受け入れるべきでないものの一つです。
この2週間の自粛ルールを守りながらも、イースター中に散歩をすることはできるでしょう。ただ、それは同居する家族とのみ、あるいは家族以外の1人とのみ可能です。短くても1.5m、できれば2m間隔をつねに空けなければいけません。頻繁な手洗いも忘れないようにしましょう。
マスクを着けていたとしても、ソーシャルディスタンスを保つことをつねに心がけてください。ウイルスに対するワクチンや治療薬がない限り、ソーシャルディスタンスを保つことは最も効果的な予防法なのです。
もう一つ、肝に銘じてください。たとえ小旅行であっても、イースター休暇中にドイツ国内の湖や山、親戚を訪ねてはいけません。
とても辛いですね。わかります。私たちは好きなときに好きなだけ移動し、旅をし、したいことをするのに慣れています。私たちの自由な人生の基本です。ですが突然、こうしていくつものルールや規制ができました。でもこれらは命に関わる重大なものです。ですから私は、このイースター直前のいま、もう一度みなさんに思い出してほしいのです。
みなさんのなかには、「もう2週間も規制に従っている。あとどれだけ続くんだ?」と思う人もいるでしょう。わかります。ですが、私がいま解除日を端的に申し上げ、今後の感染率を鑑みてもし約束を果たすことができなかったら、とても無責任なことになってしまいます。
もし私が約束を台なしにしてしまうことがあれば、医療も、経済も、社会もどんどん悪い状況になるでしょう。
関連記事: 【全訳】メルケルがハーバード大で「壁を壊そう」
私がみなさんにお約束できるのは、連邦政府を頼ってくださいということです。私も昼夜問わず、どうすればみなさんの健康を守りながら、元の生活を取り戻すことができるかを考えています。
もし私たちが自分の責任について考えなければ、それに応えることすらできません。同じように、現実にそぐわない規制解除日を決めたり、間違った希望を膨らませたりしては、責任を果たすこともできません。
あらゆる視点から全体像を捉えるのは、とても骨の折れる仕事です。ですが、親愛なる国民のみなさん、連邦政府と私個人がこの仕事を担うことに期待していてください。それがまさに私たちが取り掛かっていることです。お約束します。
このことで成功し続けるため、私は今後もみなさんの協力を必要としています。率直に申し上げます。この数週間、国民のみなさんは大きな力を貸してくださっています。我が国の最も良いところが表面化しています。このことに私は感謝しきれません。
コロナウイルスの感染は、ドイツでもいまだに急拡大しています。この病により命を落とした方々、そのご家族とご友人に心からお悔やみを申し上げます。
毎日数千人が新たに感染しています。つまり、新たな患者も毎日増え続けているということであり、一部の方々は病院での集中治療を必要としています。
重症の方々を含め、まだみなさんに必要な治療をできる状態にあります。私たちは人間社会に生きています。数字ではなく、一人ひとりの尊厳が守られるべきです。
ロバート・コッホ研究所による最新情報では、新たな感染者の増加ペースは数日前よりもわずかながら落ちてきています。ですが、これを「傾向」として結論づけるにはまだ早すぎます。いまの時点で規制を緩めることもまた、早すぎるのです。
専門家は、要請にみなさんが従うことで、感染カーブを緩やかにすることができると言っています。私たちは、医療システムがコロナ禍という大きな負荷にきちんと対応できる状態にしておかなければなりません。
4月1日の州首相との会議では、自粛要請ガイドラインはいったんこれまで通り、イースター休暇最終日の4月19日までとすることで一致しました。それ以降の指示は、ウイルスの拡大状況と病院への影響に大きく左右されます。
いまは不安が募るときであることを、私もよく理解しています。みなさんの家庭、職場、そして国全体が要請によってどう変わるか、という問題ですから。政治家が簡単にみなさんの心配を取り除くことができるわけではありません。
ですが、政府としてできることはすべてやる心づもりでいます。この数日間、ドイツでは過去最大級の財政支援策と社会保障をしています。助成金やローン、短期の休業補償に対する数え切れないほどの手続きが、なるべく官僚的ではない形で迅速にされています。
関連記事: ドイツの芸術家「申請から3日で、私の口座には60万円が振り込まれた」
みなさん、覚えていてください。連邦政府はみなさんとともにあります。私たちの社会的市場経済が価値あるものだということを示すために、できることすべてに取り組んでいます。
私たち国民全員が、このパンデミックからほぼ毎日学んでいます。科学者も、政治家も同じです。みなさんの忍耐に感謝します。
ルールを守り、人との接触を控えてできるだけ家にいるみなさんは、それだけで能動的にいいことをしているのです。この状況下で、どうしたらほかの人の力になれるかと考えを巡らせている人も同じです。
確かにソーシャルディスタンスは守らなければなりません。ですが、それが親しみや愛情、連帯感を示すのに妨げになることはありません。手紙を書き、電話をかけ、スカイプで話し、ほかの人の買い物を手伝い、自宅でのコンサートをネット配信することもできます。これらのすべてが、いまの時期を一緒に乗り越えていく力になります。
“その後”は必ず訪れます。心から祝うことのできるイースター休暇はまたやってきます。「結果論」としての素晴らしい生活がいつ戻るかは、いまの私たちの手にかかっているのです。