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KIMURAの読書ノート『学歴分断社会』

2017年02月15日 | KIMURAの読書ノート
『学歴分断社会』
吉川徹 著 筑摩書房 2009年

前回の読書ノートの中で「学歴分断社会」について言葉として軽く触れた。それについて深く論じられているのが本書である。

本書は、日本は現在、「経済格差」をはじめとする「格差」という言葉が流布して「格差バブル」とさえ言われているが、その「格差」の根源はどこにあるのか、きちんと述べられていないのではという提起から始まる。そして人生のその格差の分岐点を探すと、18歳という年齢が見えてくると指摘している。その理由として、高校がほぼ義務教育化状態になった上、大学全入時代と呼ばれるようになったにも関わらず、大学進学率が50%ということ。つまり、大学に行きたいと高校生が望めば全員入学が可能になったにも関わらず、それを望む高校生が半数しかいないというのが、その分岐であり、「分断」であるというのが著者の主張である。そして、このラインを「非大卒/大卒」と分け、様々な調査をしている。その結果として、「格差」としての貧困問題、雇用問題などが見えてくる。

さらに、ここでは、本人のスタートラインを考える上で、自分自身の分断ラインではなく、親の学歴に注目して考えるべきではないかと述べている。親が「非大卒」であると、「非大卒」つまり「高卒」でも構わないと考えるし、「大卒」であると、子どもが大学進学を願う傾向があり、それは世代間に受け継がれる。そして、このことは学歴だけではなく、文化・職業・経済力の4分野に渡ってくる。こうして世代間関係が固定されてしまうことを著者は危惧している。そのため、子の世代がこの世代間関係から脱却したい時に、チャンスを与える政策が必要であると指摘する。

しかし、この「学歴分断」ラインはそればかりではない問題も含んでいる。バブル経済が破綻して以降、雇用情勢の悪化は「大卒」の人にも襲ってきた。そのために、日本で起こった出来事、それは「非大卒」の人たちが得ていた職業に、「大卒」の人が押し寄せ、「非大卒」の人たちをところてん式に押し出してしまったことである。公務員の「高卒」枠に、大卒の人が「高卒」と偽って採用された問題を覚えている人もいるのではないだろうか。ただ、職業を受け継ぐだけでもリスクは高いが、それでもそこでの「安定性」というものがあったが、雇用が流動化してしまった現在において、「非大卒」は更に下層へ流れてしまうリスクがあるのである。

そこで著者は、このラインを上下関係としてみるのではなく、水平関係としてみるように心がけるだけでなく、異なる社会的役割を果たしながら、お互いに支え合う分業関係にあることを忘れてはならないとして締めくくっている。

これらのことが、前回の読書ノート『下剋上受験』の著者が最も伝えたかったこととつながってくることが分かる。負のスパイラルからの脱却を目指した親の思いが本書を読むことにより、更に伝わってくるのではないだろうか。 (文責 木村綾子
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