『戦場の秘密図書館』
マイク・トムソン 著 小国綾子 編訳 文溪堂 2019年12月
著者はBBCの海外特派員で、これまで何度も紛争地帯の取材をしてきた。2012年にシリアのダラヤはアサド派勢力に包囲されて以来、外部からの援助が受けられていない状態で人々はどのようにして生き延びているのかという疑問を持ち、著者はダラヤに暮らす人々と連絡を取ろうと試みる。そのような時に、このダラヤに秘密の地下図書館があるという噂を耳にする。2015年のことである。この時、著者はシリアの内戦の中に「希望」を感じ、取材を行うことになる。とは言え、著者はシリア内部には入ることはできず、SNSなどを駆使して情報提供者を探し出し、取材はインターネット回線を使ったスカイプで行っている。
本書にはこの図書館やその周辺の街並みの写真が掲載されており、これを目にすると、この図書館がなぜ「秘密図書館」と言われているか、なぜ著者がここに「希望」を見い出し深く興味を持ったのかが一目瞭然となる。図書館の周囲は完全に破壊しつくされ、廃墟化しているのである。その廃墟化した地下部に外とはうってかわって、明るい雰囲気の室内。それを目にするだけでそこに「希望」を誰もが感じ取るであろう。しかし、このような現状でなぜダラヤの人々は「本」だったのか。取材の中で、ここで活動する若者たちはこのように語っている。
「体に食べ物を必要とするように、魂には本が必要なんです」(p60)
このように語るだけ、ここに集められた本は若者たちによって徹底した管理と保存が行われ、ここが戦場であるということを知らされなければ一般の図書館と何ら遜色はないほどである。また、ただ本を読むというだけの場所ではなく、そこでは講座なども行われるようになり、ちょっとしたコミュニティーの場にもなっている。しかし、ここに至るまでの過程では多くの苦難があり、その場面を読んでいくと改めてここが戦場であることを思い知らさる。それでも、若者たちが図書館を開設しようとした想い。何とも言えない気持ちが心にのしかかる。
2013年冬に開館した図書館であるが、戦況は刻々と悪化し、2016年ダラヤに残っていた市民はダラヤからの退去を求められる。無論、図書館を運営していた若者も同様であり、図書館を残してダラヤを去る彼らの心情を思うと心がそれだけで痛む。しかし、その後の彼らの詳細まで本書には記されているが、まさにそこには「希望」があった。
著者はこの取材に関して、自分自身は安全な場所で取材をすることに矛盾を感じ、苦悶している。それでも、この「秘密図書館」の存在を世界に発信しなければならないという使命感。著者の心の揺らぎを通して、私たち読者も自分の現在の位置と世界で起こっている戦地との距離感をリアルに感じ取ることができるのではないだろうか。そして、そこから自分は何を考え、自らの生活にどのようにつなげていくのか、そのようなことを教えてくれる1冊である。
====文責 木村綾子
マイク・トムソン 著 小国綾子 編訳 文溪堂 2019年12月
著者はBBCの海外特派員で、これまで何度も紛争地帯の取材をしてきた。2012年にシリアのダラヤはアサド派勢力に包囲されて以来、外部からの援助が受けられていない状態で人々はどのようにして生き延びているのかという疑問を持ち、著者はダラヤに暮らす人々と連絡を取ろうと試みる。そのような時に、このダラヤに秘密の地下図書館があるという噂を耳にする。2015年のことである。この時、著者はシリアの内戦の中に「希望」を感じ、取材を行うことになる。とは言え、著者はシリア内部には入ることはできず、SNSなどを駆使して情報提供者を探し出し、取材はインターネット回線を使ったスカイプで行っている。
本書にはこの図書館やその周辺の街並みの写真が掲載されており、これを目にすると、この図書館がなぜ「秘密図書館」と言われているか、なぜ著者がここに「希望」を見い出し深く興味を持ったのかが一目瞭然となる。図書館の周囲は完全に破壊しつくされ、廃墟化しているのである。その廃墟化した地下部に外とはうってかわって、明るい雰囲気の室内。それを目にするだけでそこに「希望」を誰もが感じ取るであろう。しかし、このような現状でなぜダラヤの人々は「本」だったのか。取材の中で、ここで活動する若者たちはこのように語っている。
「体に食べ物を必要とするように、魂には本が必要なんです」(p60)
このように語るだけ、ここに集められた本は若者たちによって徹底した管理と保存が行われ、ここが戦場であるということを知らされなければ一般の図書館と何ら遜色はないほどである。また、ただ本を読むというだけの場所ではなく、そこでは講座なども行われるようになり、ちょっとしたコミュニティーの場にもなっている。しかし、ここに至るまでの過程では多くの苦難があり、その場面を読んでいくと改めてここが戦場であることを思い知らさる。それでも、若者たちが図書館を開設しようとした想い。何とも言えない気持ちが心にのしかかる。
2013年冬に開館した図書館であるが、戦況は刻々と悪化し、2016年ダラヤに残っていた市民はダラヤからの退去を求められる。無論、図書館を運営していた若者も同様であり、図書館を残してダラヤを去る彼らの心情を思うと心がそれだけで痛む。しかし、その後の彼らの詳細まで本書には記されているが、まさにそこには「希望」があった。
著者はこの取材に関して、自分自身は安全な場所で取材をすることに矛盾を感じ、苦悶している。それでも、この「秘密図書館」の存在を世界に発信しなければならないという使命感。著者の心の揺らぎを通して、私たち読者も自分の現在の位置と世界で起こっている戦地との距離感をリアルに感じ取ることができるのではないだろうか。そして、そこから自分は何を考え、自らの生活にどのようにつなげていくのか、そのようなことを教えてくれる1冊である。
====文責 木村綾子