FOOTBALL LIFE

~サッカーを中心に日々の雑感など~

『エレニの旅』

2005年05月19日 | Weblog
1919年ごろ、ギリシアのテサロニキ湾岸にあらわれた人々。ロシア革命勃発により赤軍がオデッサに入城し、移民としていっていた人たちが逆に難民として帰ってきた。その中に40歳がらみのスピロスという男と妻、5歳の息子アレクシス、その手を握っている小さな少女エレニ。オデッサで両親を失いスピロスに助けてもらったのだった。

10年くらいたった。スピロスたちは「ニューオデッサ」という村を築いた。家々が並び、学校や教会もあった。エレニはテサロニキで双子を出産し、裕福な商人夫婦の養子にしてもらった。アレクシスの子供だった。数年後スピロスは妻が亡くなり、成長したエレニを妻に迎えようとしていた。結婚式の途中で、ウエディングドレスを着たままのエレニとアレクシスは村を出て行った・・・

テオ・アンゲロプロス監督の「永遠と一日」から6年ぶりの新作ということで、ひどい雨の日に見に行った。これも長いお話。20世紀を総括する3部作の一つということだった。初頭に生まれ、終わりになくなった監督の母へ捧げた作品。ギリシア悲劇の旅ー。

エレニにはこれでもかといわんばかりに次々に苦難に見舞われる。そのたびによく泣く。エレニ役の女優が黙っていても泣きそうな表情に見え、ずーっと泣きはらしたように見える。これは見ていて辛かった。

「永遠と一日」の中で老詩人の妻が「私の一日」と言う日に、彼がちょっと崖に行ってくるというと裏切り者ーという言葉を浴びせて怒る。普段創作活動に没頭して、家庭生活を省みない夫に今日は妻のために一日下さいという日だったからだ。時代が違うとはいえ、この映画では女の側からのそういう反発や打開する行動がない。

エレニはアレクシスとの愛、双子との再会と生活という個人的なものだけでなく、大きな時代のうねりの中に翻弄される。アレクシスはアコーディオンが聴けて、民族音楽を奏でる仲間の死はファシズムの嵐だった。集会を催しただけでも捕まった。人民戦線が作られる。この辺のくだりはスペインの人民戦線を思い起こさせた。

エレニの悲劇はこれにとどまらない。獄中生活を送っているうちに双子は内乱によって、政府軍と反政府軍に分かれて戦ってしまう。そして、突如、沖縄の名前が出るー。

ここで20世紀のこととはいっても、どこか遠いギリシアのお話に見えたこの映画が突然目の前にアップになって出てくる感じがした。沖縄で終わる日本人の戦争。そこから始まる日本の戦後60年ー。重大な問いを突きつけられた思いー。

内容は「永遠と一日」よりずっとわかりやすい感じがした。ここでもどこへ行っても漂泊するよそ者という難民の意識がセリフとして出てきていた。哀愁漂う音楽が素晴らしく、映像の美しさはどの作品にも。スピロスの葬儀のとき、10人くらい喪服を着ていかだに乗り、川を下っていく場面。ここでも黒い色の美しさが印象深い。スピロスや音楽仲間のバイオリン弾きのニコスなど脇役の存在感が抜群。

この映画は終わってもー。
自分の問題として考えることが始まったー。