FOOTBALL LIFE

~サッカーを中心に日々の雑感など~

『故郷の香り』

2005年05月07日 | Weblog
ジンハー(グオ・シャオドン)は10年ぶりに村に帰ってきていた。高校時代の恩師の事業の揉め事を解決するためだった。今では北京の役所に勤め、妻と生まれたばかりの息子がいた。目的を果たし帰ろうとして村の橋を渡っていたとき、背負いきれない芝を担いで一歩一歩重そうに歩いていく女とすれ違った。

汗と泥に汚れていたが、まぎれもなく初恋の人ヌアン「暖」(リー・ジア)だった。そのうち夫と子供と暮らす家を訪ねてくれと言われた。先生から村の幼馴染で口の不自由なヤーバ(香川照之)と結婚し、6歳の娘がいると言う話を聞いた・・・

「山の郵便配達」「ションヤンの酒屋」に続くフェオ・ジエンチイ監督の作品。毎日休まずに黙々と犬を連れて、高い山々に住む人たちに手紙を届ける父親とそれを受け継いでいこうと言う息子がみずみずしい自然の風景とともに描かれた「山の郵便配達」。これですっかりこの監督のファンになった。

これも村の暮らしと風景が美しく描かれていて、懐かしい気持ちになる。ボタンの掛け違いで別々の運命をたどる男女。しかし、ヌアンとヤーバが生活する村人の人生にも物質的なものでははかれない価値があるんだよと言っているようなところは、あの郵便配達の姿が重なって見える。

ふたを取るとほうほうと立つ白い湯気。トントンと野菜を刻む音。卵をかき混ぜて、熱くなった鍋にさっと入れるとじゅっという音と共においしそうな料理が並ぶ食卓がある。ヌアンがジンハーと別れて暮らした10年間の間にこうして営々と繰り返されてきた日常の暮らし。これこそヌアンが努力して築いたものだからだ。

川の水にザルに入れた野菜を沈めて何度も洗ったり。水がめの中に浮かぶ畑で取れた新鮮な野菜。なんの変哲もない繰り返される暮らしこそ人生なのだとー。ヤーバが畑からとってきた大きなきゅうりに味噌をつけながら酒の肴にしてかじる。これも実においしそうな場面なのだ。

ジンハーの気持ちを文章と言うか、独白にしていってしまわないほうがいいのになあと。言葉ではなく最後まで映像だけで説明するというほうがよかったのではと。これがちょっと残念だった。

グオ・シャオドンは知性が感じられ、リー・ジアは娘のころと母親になり、運命を引き受けてたくましく生活する姿を演じ分けていた。しかし、なんといっても驚きはセリフがいえない香川照之の演技。ヌアンに対する愛情は彼の圧倒的な存在感で演じられていた。

若かりしころに戻って人生をやり直せたらと誰しも思う人生のほろ苦さ。透明感のある映像と共にいつまでも余韻が残る映画。