もみさんの一日一冊遊書録( 2011年9月1日 スタート!: メメント・モリ ) ~たゆたえど沈まず~

年とともに人生はクロノロジー(年代記)からパースペクティブ(遠近法)になり、最後は一枚のピクチュア(絵)になる

7 035 久留宮隆「国境なき医師が行く」(岩波ジュニア新書:2009)感想3+

2018年02月10日 00時21分46秒 | 一日一冊読書開始
2月8日(金):    

177ページ      所要時間2:10      ブックオフ108円

著者50歳(1959生まれ)。三重大学医学部卒.国境なき医師団日本支部副会長.山本総合病院手術室部長.外科医として20年の勤務ののち,国境なき医師団に参加.2004年にリベリア,シエラレオネ,2009年にナイジェリアとスリランカで派遣医師としてミッションに参加.リベリアでは緊急医療に従事し,3カ月間に約350件の手術をこなした.

あまりうまい文章の本ではない。しかし、内容がすご過ぎる。「国境なき医師団」には漠然とした憧れを抱いていたが、少なくとも軟(やわ)な憧れが吹き飛ばされることだけは間違いがない。

まず給料は10分の1に減る。派遣される現地医療の実態は過酷を通り過ぎてかなり悲惨である。数カ月で入れ替わる様々な国籍の医師たち。スタッフ間で使われる英語能力の貧困、マニュアルの無い引き継ぎ、昼夜なく押し寄せる死に近い重篤な患者、最低限しかない医療器具、医師も例外としないマラリア・結核・ラッサ熱・エイズ他複合感染症、ボランティアの医師・医療スタッフを送り出す日本国内での無理解と支援不足。

医師の専門分野など全く関係なく、貧しい医療設備であらゆる重症の怪我人・妊婦らの手術をせざるを得ない現実の中、多くの患者を死なせ、多くの患者を助ける。最期の脳外科手術のエピソードを読みながら、既視感に捉えられた。アフリカのリベリアを、日本の江戸時代に置き換えれば、ああなるほど!これって現代の脳外科医が幕末の江戸にタイムスリップするドラマ「仁」の世界とすごく似ている。そうか「仁」って、国境なき医師団と同じ状況なんだ、と妙な納得をした。

それにしても、「国境なき医師団」が、こんなにも支援体制の乏しい、ボランティアの当事者である医師の自己犠牲を強いる組織でしかないというのには、逆に驚かされた。そう考えると、シュバイツァーやマザー・テレサ、中村哲医師らの取り組みの偉大さを改めて思い知る気がした。

【目次】プロローグ
1章 ミッションはじまる : やるしかない/いきなり,子宮破裂!?/言葉がわからない,薬がわからない/はじめての衛星電話/外国人スタッフのミッション
2章 痛い経験 : 何よりも経験/シンシアの腹痛/静けさの中の不安/崩れ落ちる自信/モハメッドの父,ドクター・カマラ
3章 スタッフの面々 :リタ/ラザロとキャサリン/アラン/真面目で根気づよいシモーヌ/船頭多くして舟動かず/緊急ミーティング/シモーヌとの別れ
4章 リベリアの生活 :ダウンタウン,マーケット/食事のこと/ロブスターを買う/リベリアという国の現在/サッカー人気/独立記念日/日本人との交流
5章 体調を崩す : アフリカ特有の病気 マラリア/アフリカ特有の病気 ラッサ熱/アフリカ特有の病気 トロピカルアルサー/エイズ/体調を崩す
6章 忘れられない患者 :けなげな少女/奇跡的な回復/リベリアからの手紙
エピローグ

【内容紹介】「医者としての原点に立ち返りたい」.勤務先の病院を辞して「国境なき医師団」のミッションに参加した著者が自らの体験を語る.赴任したアフリカで見たものは,紛争や貧困の中で充分な医療を受けられずに命を落としていく患者たちの姿だった.劣悪な環境の下で国際スタッフとともに数々の困難に立ち向かった壮絶な救命救急医療の現場報告.
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