もみさんの一日一冊遊書録( 2011年9月1日 スタート!: メメント・モリ ) ~たゆたえど沈まず~

年とともに人生はクロノロジー(年代記)からパースペクティブ(遠近法)になり、最後は一枚のピクチュア(絵)になる

113冊目 神谷美恵子「生きがいについて 神谷美恵子著作集1」(みすず書房;1966) 評価5

2011年12月30日 06時54分01秒 | 一日一冊読書開始
12月29日(木):

288ページ  所要時間5:10

20年以上、読まずに死蔵していた本を、この機会に浚えてしまおうと、本棚から取り出して読み始めた。今回は休息のつもりで、楽そうな本を選んだつもりだった。しかし、とんでもない地雷を踏んでしまった!。生易しい本ではなかった。

はじめは、眉につばをつけて用心しながら、読み始めた。頻りに外国人の名があげられて、あの人がこう言っている、この人がああ言ってる、と引用して、コメントを加える。「なんだ切り貼りだらけの内容で、所謂「~では」調の出羽守タイプか」と相当に怪しんでいた。

ただ、全体としては概ね良心的内容が語られているし、すべて正しいことだと思うので読み続けた。一方で、「だから何をどう受け留めたらよいというのか?」わからない。

しかし、後半になって、岡山県長島愛生園のハンセン病患者の記述が中心に据えられると、人間の「極限的絶望」の紹介であり、想像を絶する内容であった。著者自身の語りは坦々と進められるのだが、そこに紹介され続けるのは、人間の「生きがい」と真っ向から対立する「極限的絶望」の数々であって、全く洒落にならない。絶望的状況の数々は敢えて書きません(というか、時間もエネルギーもありません)。皆さんで是非読んで下さい。

「患者たちの「絶望」は、極端な形で表れるが、それはすべての人間の「絶望」でもある」などと言われても…。著者の話もどう受け止めてよいのか、どうも波長が合ってこない、ピンとこないのだ。とりあえず、確かなことは、<ただ事でないこと>が紹介・提議・論議されているということだけである。

とにかく、読んでいて疲れる内容の本だった。しかし、途中で読むのをやめようという気には全くならない。終りまで目を通し終えて、この本が、人間の「存在」「生命」の根源に関わる最も大事な問いを発している、非常に質の高い実存哲学・思想・宗教・臨床心理学の書だ、ということ。フランクルの「夜と霧」に匹敵(凌駕?)する内容の本だ、と思う。

この本は、一気に読んで、内容について軽々にコメント云々する本ではない。じっくり十分な時間を懸けて読むか、何度も折に触れて読み直し、<座右の書>とすることで、自分自身の精神を練り上げる縁(よすが)にすべき本である、と思った。

変革体験。

結語:愛生園でも病状が重く最底辺のハンセン病患者たちにも「なお生きる意味というものがありうるのか」という最も厳しい問いに対して、「人間の存在意義は、その利用価値や有用性によるものではない。野に咲く花のように、ただ「無償に」存在しているひとも、大きな立場からみたら存在理由があるにちがいない。自分の眼に自分の存在の意味が感じられないひと、他人の眼にもみとめられないひとでも、私たちと同じ生をうけた同胞なのである。もし彼らの存在意義が問題になるなら、まず自分の、そして人類全体の存在意義が問われなくてはならない。そもそも宇宙のなかで、人類の生存とはそれほど重大なものであろうか。人類を万物の中心と考え、生物のなかでの「霊長」と考えることからしてすでにこっけいな思いあがりではなかろうか。/現に私たちも自分の存在意義の根拠を自分の内にはみいだしえず、「他者」のなかにのみみいだしたものではなかったか。五体満足の私たちと病みおとろえた者との間に、どれだけのちがいがあるというのだろう。私たちもやがて間もなく病みおとろえて行くのではなかったか。パール・バックにとって、精薄(ママ)の娘はそのままでかけがえのない子どもであるように、大きな眼からみれば、病んでいる者、一人前でない者もまたかけがえのない存在であるにちがいない。少なくとも、そうでなければ、私たち自身の存在意義もだれが自信をもって断言できるであろうか。略。/これらの病めるひとたちの問題は人間みんなの問題なのである。であるから私たちは、このひとたちひとりひとりとともに、たえずあらたに光を求めつづけるのみである。」

※この著書は、加賀乙彦「死刑囚の記録」に並ぶ基本的文献だと思う。

※ノーベル文学賞作家パール・バックが「精神薄弱(ママ)」の娘を生み、絶望の底から娘の存在を意味あらしめる道を求め続ける話を知ったことも大きな収穫だ。

※睡眠不足と疲労で、表現が大げさになっているかもしれないですが、お許しください。お休みなさい。 

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