もみさんの一日一冊遊書録( 2011年9月1日 スタート!: メメント・モリ ) ~たゆたえど沈まず~

年とともに人生はクロノロジー(年代記)からパースペクティブ(遠近法)になり、最後は一枚のピクチュア(絵)になる

8 009 是枝裕和「万引き家族」(宝島社:2018)感想5

2018年09月27日 02時29分02秒 | 一日一冊読書開始
9月26日(水):          

276ページ     所要時間4:00      図書館

著者56歳(1962生まれ)。日本の映画監督、脚本家、ドキュメンタリーディレクター、映画プロデューサー。東京都練馬区出身。東京都立武蔵高等学校、早稲田大学第一文学部文芸学科卒業。ドキュメンタリー出身の映画監督として知られ、国内外で高い評価を受ける日本人監督の一人である。

今日、図書館で見つけ、今日読んだ。もともとが映画作品なので文章やストーリー展開が映像的でわかりやすい。映画作品のキャストの写真をネットで眺めながら読み続けた。読み終わったら、確かに映画を一本見終わった気分になっていた。

6人のごく普通の家族が全員赤の他人だった。息子の家族から見放された老人、母親から虐待を受け続けた女性、両親からのネグレクトとDVを受けている幼児、妹の存在により家族内で強い疎外感を感じる若い女性など、「血縁による家族」という”制度”の中で、居場所のない、居場所をなくした者たちが、吹き溜まりのように集まって疑似家族を形成する。

多少の窮屈さと不満を抱えながら各自がそれなりに疑似家族関係に居場所と充足感を覚え、その関係に救われていた。しかし、それは今の日本社会では正当性を持たない違法な存在である。

血のつながりを家族の最重要な要件とする考え方の危うさ、血がつながらない疑似家族関係によって救われる状況が十分にありうることを題材にした作品である。そして、登場人物に対して、きめ細やかに行き届いた人格と背景が与えられて読み手を白けさせないで牽引するストーリー展開に安心して乗っかることができた。

人間存在に対するきめ細やかさと敬意、尊重は表現者としての著者の真骨頂と言える。途中、主人公の一人信代の姿を見ていて、最近読んだ角田光代「八日目の蟬」とオーバーラップした。欲しくても得ることができなかった家族、母親となることは、必ずしも血がつながっていなくても可能なのではないか?

これまで「家族」のあり方の問題を追究してきた著者が、ある意味、究極の「突き抜けた家族像」を作り上げ、そこから現実社会での固定観念化した「家族」制度に対する盲目的信頼、依拠、血縁による<絆(きずな)>に対して、「その観念的<家族像>、<家族制度>から漏れ墜ちて救われない人々が大勢生まれてきている。もっと自由に家族像を捉えなければいけない時代になっているのではないのか」と強く問いかける作品になっている。

「捨てたんじゃない」/信代は小声でそう言った。/宮部はその言い方に含まれた信代の反抗を見逃さなかった。/「捨ててるでしょ」/信代のような罪の意識の低い犯罪者を、宮部は特に嫌悪していた。/信代も正義を振りかざし、断罪し、人のあるべき正しさを説く宮部のような人間は大嫌いだった。/「拾ったんです・・・・・・」/信代が何を言おうとしているのか宮部には分らなかった。/誰かが捨てたのを拾ったんです。捨てた人は、他にいるんじゃないですか?」/私たちがいったい誰を捨てたというのだ。息子夫婦に捨てられた初枝と同居し、居場所を失った亜紀を居そうろうさせさせ、放っておいたら死んでいたかもしれない翔太とりんを保護した。それがもし罪に問われるのだとしたら、彼らを捨てた人々はもっと重い罪に問われるべきじゃないか。信代はまっすぐに宮部を見た。/(どうせあんたみたいな人には、わからないだろうけど)/信代は心の中でそう呟いた。241~242ページ

【内容情報】第41回日本アカデミー賞にて、最優秀作品賞をはじめ6冠を獲得した、『三度目の殺人』の是枝裕和監督が最新作「万引き家族」を自ら小説化。 是枝監督が小説で描き出す、「家族の絆」とはーーー。 「彼らが盗んだものは、絆でした」 とある住宅街。柴田治と息子の祥太は、スーパーや駄菓子店で日々万引きをして生計をたてていた。 ある日、治はじゅりという少女が家から閉め出されているのを見かねて連れて帰ってくる。 驚く妻の信代だったが、少女の家庭事情を案じ、 一緒に「家族」として暮らすことに。 年金で細々と生きる祖母の初枝、JK見学店で働く信代の妹・亜紀。 6人家族として幸せに暮らしていた。 しかし、ある出来事を境に、彼らの抱える 「秘密」が明らかになっていくーーー。 //「犯罪」でしかつながれなかったー。万引き・年金不正受給・虐待…。是枝監督が自ら描く、映画ではかたり尽くせなかった「家族」の在り方。
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