10月8日(月):
206ページ(本文は155ページ) 所要時間5:45 ブックオフ510円
著者42歳(1903~1950:46歳)。英国領インドのベンガルに生まれる。文学のみならず、二十世紀の思想、政治に多大なる影響を与えた小説家。名門パブリック・スクールであるイートン校で学び、その後、数年間ビルマの警察に勤務。やがて職を辞し帰国すると、数年間の放浪を経て、作家となった。主な著作に長篇小説『一九八四年』(ハヤカワ文庫)やスペイン内戦に参加した体験を綴ったルポルタージュ『カタロニア讃歌』などがある。
翻訳者:山形浩生(ヤマガタヒロオ)1964年生、東京大学大学院工学系研究科都市工学科修士課程修了。翻訳家・評論家。
本書は、本文の前に<著者の序文案>と<訳者あとがき>から読んだ。そこで、本書がスターリンのソ連邦をかなり正確に写し取った<おとぎばなし>であることを確認した。そして、オーウェル自身が社会主義者であり、スターリン支配下のソ連邦の社会主義のあり方のゆがみを強く批判し、根本的改善を求める内容になっている。その後、冷戦下で西側から東側への批判のため、格好の材料とされた本書であるが、出版時にはソ連政府への批判を許さない親ロシアプロパガンダ勢力が強かった
イギリス国内の状況下で、ほとんどの出版社に断られて苦労したそうだ。
<著者の序文案>は、死後20年以上たってからタイプ原稿が見つかり、1972年に初めて雑誌掲載されたものである。自由と民主主義のあり方、リベラルの変節と全体主義化などについて考えるうえで、これだけでも十二分に読む価値がある。
<訳者あとがき>も、冷戦崩壊後も失われることのない本書の普遍的存在価値を示してくれていて良かった。
本文を読む際には、ウィキペディア「動物農場」を開いて、登場動物と実在の人物を大勝しながら読み進めた。追放される農場主ジョーンズ氏がロマノフ朝、予言を残すブタの老メイジャーがレーニン、指導的ブタのスノーボールがトロツキー、ナポレオンがスターリン、昔の迷信を広げるカラスのモーゼスがロシア正教会、農場で最も知能が高かったブタ(共産党?)が、9匹の獰猛な犬たち(GPUゲーペーウー)を使って、スノーボールを革命から追放し、独裁的指導力を握ったナポレオンによる夢も、希望も、花もない自主自由なのに苛烈な労働を強いられ続ける。知能の低い馬や羊やめんどり他が無教養に放置され、違和感を覚えても、どう猛な犬たちと、ナポレオンの手先で雄弁家のブタのスクィーラー(モロトフ)に丸め込まれて、ナポレオンの恐怖支配を受け続ける。
動物農場と手を組むピルキントン氏が大英帝国で、対立するフレデリック氏がナチス・ドイツである。
物語りの終わり、ブタたちは禁断の二本足で歩くようになり、人間との関係を再開し、外見的にもどちらが人間でどちらがブタなのかわからなくなった。つまり、社会主義には社会主義特有だが階級的搾取構造が出来上がり、それは資本主義的搾取構造と何ら変わらない不公平・不公正なものになり果てているのだ、というオチである。<序文案>で著者は、「多くの読者は、本書を読み終えて、最後にブタたちと人類が完全に和解したような印象を持つかもしれない。でもこれは私の意図とはちがう。その逆で、私は本書を盛大な不協和音で終わるつもりだった」と記している。ソ連と西側とのなれ合いは長く続かないということだ。
最後に、『カタロニア讃歌』を読んでいた時もそうだが、本書を読んでいても「ここに書いてあることは、アベ政権下のまさに今の日本でも当てはまることばかりだ」と考えることが非常に多かった。オーウェルの社会民主主義者としての透徹したまなざしは、21世紀の日本の現状を考える場合にも、ベースとなる思想であると言える。オーウェルはメディアについても極めて批判的で不信感を持っている。<真実の報道>などありえないのだ。俺は今回オーウェルをよりよく知ることができて本当に収穫があったと思っている。
ブタのナポレオン(スターリン)の政策に強い違和感を覚えても、考えることをせず、抵抗をせず、すぐに忘れて済ませてしまう無知な馬や羊やめんどりらが今の日本人のように思えて仕方がない。また、ナポレオン(スターリン)の政策の失敗はことごとく、もはや死んでるか、無力化されているスノーボール(トロツキー)の陰謀のせいにされてしまうのが、安倍政権にとって何か都合が悪い状況になると持ち出される拉致被害者家族と北朝鮮の脅威論として持ち出されることと非常に戯画的に重なり合って感じられるのだ。
また、これまで『一九八四年』のような徹底的なディストピア小説をオーウェルがどうして書くことができたのかわからなかったが、今回の読書で「オーウェルには、十分なイメージがあったのだ」と納得することができた。要するに、『カタロニア讃歌』での苦い経験と、スターリン批判の<おとぎばなし>の『動物農場』を本格的に発展させた延長線上に『一九八四年』ができ上っているのだ。
【目次】本文155ページ/報道の自由『動物農場』序文案19ページ/『動物農場』ウクライナ語版への序文10ページ/訳者あとがき22ページ
【内容情報】
動物たちは飲んだくれの農場主を追い出し理想的な共和国を築こうとするが……。全体主義やスターリン主義への痛烈な批判を寓話的に描いた作品 ///飲んだくれの農場主ジョーンズを追い出した動物たちは、すべての動物は平等という理想を実現した「動物農場」を設立した。守るべき戒律を定め、動物主義の実践に励んだ。農場は共和国となり、知力に優れたブタが大統領に選ばれたが、指導者であるブタは手に入れた特権を徐々に拡大していき…。権力構造に対する痛烈な批判を寓話形式で描いた風刺文学の名作。『一九八四年』と並ぶ。オーウェルもう一つの代表作、新訳版。