8月17日(水):
285ページ 所要時間3:30 ブックオフ108円💛!
著者54歳(1957生まれ)。東京大学文学部を卒業後、同大学院を経て、’82年に東京大学史料編纂所へ入所し、2001(平成13)年より教授を務める。’10年より東京大学大学院情報学環教授を兼任。文学博士。『江戸お留守居役の日記』で、日本エッセイスト・クラブ賞を受賞
最も脂ののった日本史(近世史)の大家による本格的な歴史学入門書である。本書は、文学部史学科日本史専攻の学生の「日本史概論」として使われるべき内容を備えている。一般に誤解されているアカデミックな歴史研究と素人や佞人(ねいじん)の歴史談義との違いを明確に解らせてくれる内容でもある。
内容を味わうのではなくページを進めることを優先し、1ページ30秒を強く意識しながらページに目を這わせたが、1時間以上予定をオーバーした。もとよりこんな短時間で本書の内容を理解しきることなど全く不可能だが、それでも著者が説く内容の奥行きの深さと厚みに圧倒されながら、本物の歴史学の一端に触れている気がして嬉しかった。
目から鱗がぽろぽろ落ちる感じがして、懐かしさとともに心の中で「そこはそう解釈しておいていいんですね?!」「ええ、そうなんですか、知りませんでした」「その話面白いですね」などの言葉を何度も繰り返した。本書の内容を「面白い!」と思うためには、日本史の基礎知識を相当程度身につけている必要がある。
・歴史研究とは、現在刊行されている多くの歴史書をつきあわせて自分の意見を打ち出すことではありません。歴史書を参考にしながら、自分で当時の資料を読み、歴史の真実を探求することです。/大学の史学科に進学した学生が一番とまどうのは、この点です。それまで歴史が好きで、歴史書や歴史雑誌を読んできて、さらに深く歴史を教えてもらえると思っていたところ、いきなり難しい史料を読まされ、そこから何かを明らかにしていかなければならないからです。/しかし、史料と格闘する中でしかつかめない歴史があります。本書は、その手引書となると思います。 281ページ
・本書は、史学科の学生だけでなく、歴史を学びたい人すべてを対象として書きました。 282ページ
【目次】はじめに
第一講 江戸の人物に学ぶ隠居学:1 早期退職して人生の夢を実現する─神沢杜口/2 隠居後に本当にやりたかったことを学ぶ─伊能忠敬/3 働く老後も生き甲斐のうち─大田南畝/4 町歩きの楽しみ─村尾嘉陵/5 老後の健康─貝原益軒
第二講 歴史愛好家から歴史研究者へ:1 インターネット上の疑問から/2 江戸時代の日記の世界
第三講 固定的な歴史観念から離れる:1 徳川中心史観を相対化する/2 悪代官史観に疑問を持つ
第四講 年号から江戸時代を大きくつかむ:1 寛永時代─幕府の制度が確立した時代/2 元禄時代─天下泰平の象徴的時代/3 享保時代─幕府役職制度の大改革/4 安永・天明時代(田沼時代)─賄賂政治の功罪/5 文化・文政時代─庶民の活力と化政文化
第五講 「江戸時代」でよくある質問:1 御三家・御三卿とはどういう大名ですか/2 これだけは知りたい江戸時代の「鎖国」
第六講 江戸城大奥という役所:1 大奥の制度と大奥女中/2 大奥女中のいじめ─組織のしがらみさまざま
第七講 江戸時代の大震災:1 宝永の大坂大地震と津波/2 安政の江戸大地震と東海大地震
第八講 時代小説で江戸と触れ合う:1 江戸の機動隊─池波正太郎『鬼平犯科帳』/2 男の独り者の暮らしぶり─池波正太郎『仕掛人・藤枝梅安』/3 慶次郎が歩いた江戸の町─北原亞以子『慶次郎縁側日記』/4 遠山金四郎家日記に見る遠山家─宇江佐真理『桜花を見た』/5 幕末・明治の世を武士として生きる─浅田次郎『五郎治殿御始末』
第九講 藤沢周平が描いた「藩」の世界:1 藩という社会・藩士という生き方─藤沢周平『隠し剣 鬼の爪』/2 藩士の身分と側室─藤沢周平『蝉しぐれ』から
第十講 研究者以外にも人気のある信長研究:1 織田信長と「三職推任」/2 信長研究の基本史料「信長公記」
おわりに/文庫版へのあとがき
【内容情報】
豊かな老後を送った、江戸の隠居名人五人の生き方。幕府の制度が確立した寛永、天下泰平の元禄、役職大改革の享保、庶民の時代の文化・文政。「鬼平」「梅安」「海坂藩」など、時代小説に見る幕府の役職、庶民・旗本の暮らしと藩の仕組み。歴史研究におけるインターネットの正しい使い方……。歴史研究へのアプローチの仕方、江戸時代の基礎知識、時代小説の読み方など、歴史を楽しむためのポイントを判りやすく解説。