Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

「アリゾナ・ドリーム」エミール・クストリッツァ

2007-07-15 01:44:09 | cinema
アリゾナ・ドリーム

ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン

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1992フランス
監督:エミール・クストリッツァ
製作:クローディー・オサール
脚本:デヴィッド・アトキンス、エミール・クストリッツァ
出演:ジョニー・デップ、ジェリー・ルイス、フェイ・ダナウェイ、リリ・テイラー、ヴィンセント・ギャロ


これを観ると、クストリッツァが決してリアリズムの作家なのではなくて、現実とファンタジーの境界を巧妙に曖昧にさせることでなにがしかのものを感じ取らせることを目論む作家なのだということがよく分かる。
それはフィクションの力を信じることであって、作品がすべて現実の投影であったり寓話であったり解釈であったりとする立場とは違うのだと思う。
ティムバートンを薄めたようなソフトなタッチで展開するのでほんわかと観てしまえるが、思い返してみると多くのモチーフがポリフォニックに忍ばせてあって、でもそのモチーフがうまく溶け合うのは、これが虚実の境目を絶妙に歩むナイスブレンドな味わいだからなのだ。解決も謎解きも一切ないのに呑み込んだ後味が切なくハッピーですらあるのは、まさにフィクションの力にこちらが呑み込まれていることの証左なんだな。

・・・と訳の分からない韜晦ではじめてしまうスタイルが多くなってきたなあ・・

******

ジョニー・デップの透明感でかなりすっきりした仕上がりのこの作品は、後のクストリッツァの祝祭的混沌から語り起こすスタイルはあまり感じさせません。スマート。ほんとにクストリッツァ?でもこれが一皮剥いた彼の本音なのかもしれません。

【夢】
冒頭に、人を知るにはその人の夢を聞け、という(ような)言葉がでるように、全編通低するのはである。いつかたどり着くであろうユートピア、というものが主人公の人生観にはあって、その行き着く先が夢で観た世界なのだ。

【共同体=家族】
主人公=少年は、疑似家族に参入する。それは少年時代にふさわしい暖かい疑似ユートピアであるが、少年は成長し、本当に力のある者、本当の愛の対象を知る。つまり成長することで、疑似家族はバランスを失うことになる。

【浮遊~飛行】
成長の暗喩が飛行の実現だ。
初めはベンチの浮遊だったが、すぐさま飛行を求める積極的行動にでる。一応成功するが、本当の飛行があるとき成就する。この成就をきっかけに愛の構造が変転し、共同体はバランスを崩しはじめる。

一方でつねに真のユートピアへ誘うのが夢の魚である。魚は現実とファンタジー(もしくは異世界)を自由に行き来し、空中を舞う存在である。

あとは、リリ・テイラーの一度目の自殺シーンも浮遊のモチーフである。彼女は亀なので結局は浮遊しないのだが。

【成長譚とアメリカンドリームの終焉】
というわけで、共同体の崩壊と叔父の死をきっかけにジョニーが成長して、いよいよ現実に足を踏み出そうという映画なのですが、踏み出そうにも叔父が体現したアメリカンドリームはもはや現実のモノではなく、ジョニーは地味な仕事と夢の世界に帰属することになるのです。ここらへんがクストリッツァ的というか、厳しい現実もあるけどユートピアを生きようよという結末なわけで、ここらでクストリッツァの賛否が分かれそう・・・

【映画の参照】
ヒッチコックをめぐりなかなか面白い仕掛けがしてあって、この映画中でもっとも笑いを取る場面となっている。ヴィンセント・ギャロががんばっている。
他にも複数の映画からの引用あり。
あとホームムービーへの懐古的目配せも見逃せない。これは後の「SUPER8」でもみられる目線。




まあこんな感じの映画で。
わたしはわりと気に入りました。ヴィンセントが結構普通の俳優やってるし、しかも笑いを取るし。
リリもけっこう魅力的で。
なんたってフェイはあの「俺たちに・・・」のフェイですもん。

リアリズム命!のひとや、なんでこうなるの?ということにこだわる方には薦めませんけどね。

****

この映画撮影中にクストリッツァの故国でボスニア紛争ぼっ発。
映画冒頭に紛争についてのラジオニュースがちらっと流れる。

フランス資本でユーゴの監督によるアメリカ(についての)映画。

音楽はオリエンタルなクストリッツァ味だったりメキシカンだったりで、アメリカ映画と一線を画す要素。

そうそう、すでに動物使いとしての腕前を発揮している。とくに食卓の亀サン。あれは奇跡では??



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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
いぬいっと (かえる)
2007-07-23 11:25:09
こんにちは。
動物づかいがいつも楽しいクストリッツァ作品ですがこのカメも最高でしたー。
浮遊感がもうもう大好きです。
サントラも超お気に入りー。
返信する
魚も (manimani)
2007-07-24 03:00:49
☆かえるさま☆
こんにちは~
あのカメ、足速いですよね(笑)

音楽だけハリウッド離れしてましたね。
返信する
トラ・コメどうもです (ひらりん)
2008-01-12 01:57:40
「ジョニデ祭り」開催中で、
彼の古い映画をレビューしましたが・・・
さすがジョニデ・・・
登場人物がヘンな人揃いで、ビックリしました。
エミール・クストリッツァ監督の作品は・・・
「ライフ・イズ・ミラクル」は観てました。
なかなか味のある作風で、おもしろいですね。
機会があったら、彼の作品も探してみる事にします。
返信する
どうも~ (manimani)
2008-01-12 23:43:33
☆ひらりんさま☆
ジョニーも若いですよね~これ。
わたしはリリ・テイラーが好きですね。

クストリッツァ、次は「アンダーグラウンド」でどうでしょう?
返信する
こんにちは (ひで)
2008-11-19 09:56:02
クストリッツァ監督が描くアメリカって・・・!?
と、期待半分、不安半分で観てみましたが、
個性的な役者が揃ったことで一風変わった作品になりましたね。

でも、最も芸達者だったのはカメかな!?
あのシーンはまさに奇跡でしたね。
返信する
どうも (manimani)
2008-11-19 22:17:42
☆ひでさま☆
タッチがソフトなだけで本質はあくまでクストリッツァだったので安心(?)しました。
思い起こしてみると亀も含め、それぞれが名演技を残していると思いますね~
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