Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

「パリ・オペラ座のすべて」フレデリック・ワイズマン

2009-11-28 03:43:30 | cinema
公式サイト

パリ・オペラ座のすべてLA DANSE, LE BALLET DE L'OPE'RA DE PARIS
2009フランス
監督:フレデリック・ワイズマン


巨匠?
ドキュメンタリーの巨匠ワイズマンが・・との宣伝文句でありますが、ワイズマンの名前を聞いたことのある観客がどれほどいるだろうか??全く知らない巨匠。
巨匠とはどう定義されるもんだろう?
匠であって一般に知られていない、という存在は確かにあるだろうな。
現代における大衆芸術ではどうなんだろうか。大衆なんだから、そこでの匠は、やっぱり人に知られてこそなのかなあ?巨匠。誰も知らない巨匠。

・・となんか思考が渦巻いてしまい。

ワタシはこの「巨匠」の作品は『チチカット・フォーリーズ』とこの『パリ・オペラ座のすべて』の二作しか観ていない。期せずして最初の作品と最近の作品を見たことになるのだが、両者の手つき、とくに編集における手つきが驚くほどに同じであることに驚く。人が意識せずとも避けられない変化というものに対して、この「巨匠」は身を守る術を心得ているかのようだ。

「巨匠」のフィルモグラフィーを観るとそこには実に多様な題材が扱われていて、推測にすぎないのだが、それらにおいて変わらずあの、説明のない、妙に冷静な視点と編集態度をもって望んでいるのかと思うと、それは考えてみるとおそろしく不遜というか大胆不敵なことだろう。違った素材を前にどうしたって態度が変わるのが凡人であるだろう。態度の不変/普遍にこそ、この作家の作家性と巨匠性を見いだすことができそうである。

*****

中身のほうは、世界一と目される大所帯バレエ団におけるリハーサル風景を中心に、本番の舞台の映像や、スタッフが働く様子などが織り交ぜられる。決して本番に向けリハーサルが構築され作品が完成に近づき、厳しい練習の末に本番の華を迎える、というような、カタルシスは得られない作りになっている。

スタッフの様子も、饒舌に奮闘する芸術監督の姿から、衣装を縫うお針子さんはもちろん、建物補修をするにいちゃんから浄水設備?掃除の様子や屋上の養蜂の様子までが登場する。

パレ・ガルニエの絢爛豪華なロビーや客席はほんのちょっとしかでてこない。本番シーンも(ってなんかいかがわしい?)唐突に前後を欠いた細切れでしかでてこない。

リハーサルだって、何の作品を誰が演出して誰が演じているのかという類いの説明はいっさいない。(あまりのことに見かねたのか、日本語字幕の世界では作品名とダンサー名を適宜挿入していたが・・・)

こんなふうに、ひたすらドラマや感動を忌避するかのような手つき。それが巨匠の技なのだ。まったくひれ伏すしかないではないか。

****

にもかかわらず。。。世界最高峰のダンサーたちの技術は映画の不親切さをはるかに飛び出して観客にとどく。まったく見事なもんである。リハーサルで細かい動きやニュアンスを微調整していくところは、素人にはもはや観て判断できるレベルではないけれども。
さらに本番舞台での演技はすごい。まさに100%以上を出している彼らは無敵だ。

クラシックなバレエもなかなかに刺激的であることにあらためて気づくし、コンテンポラリー作品にも挑戦する彼らは、そこらのコンテンポラリーダンサーなどふっとんでしまうような充実度を見せる。

すごい。



それから、、やっぱりパリに行ったばかりなので、ときおり映されるパレ・ガルニエからみる街並には、個人的にグッとくるものがあるなあ~~
シャガールの天井画もここで明るいものを観ることができましたww


それと最後に。
字幕での作品名等もそうだけれど、そもそも邦題からしてもそうだし、扱われた作品名やダンサーたちの名を網羅した豪華なパンフもそうだが、日本での興行をなんとか成功させようとする日本側の努力は、もはや涙ぐましいものがあった。
そうした、日本での既成のイメージ(パリ、オペラ座へのあこがれ?)を踏み台にした作品のいわば美化は、ワイズマンの手つきからするとよけいなことのように思えなくもないことは間違いないのだが、それでも、そうした架空の物語に幻惑されたにしろ「巨匠」の作品に触れる機会を広く提供することになるという点で、決して無碍に否定さるべきことでもないだろう。
これだけの観客動員を可能にした戦略にむしろ観る機会を得たわれわれは感謝しなければならないのかもしれない。(し、そうでないのかもしれない?ww)




人気blogランキングへ
↑なにとぞぼちっとオネガイします。

コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「千年の祈り」ウェイン・ワン | トップ | 「パイレーツ・ロック」リチ... »

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
川崎のシネコンでゆったり鑑賞ー (かえる)
2009-11-29 01:00:23
ぼんそわー。
manimaniさんもわいずまん映画はそんなにご覧になってはいないんですのね。
去年はしねふぃるの人は何かと「州議会」をベストに入れてたんですよね。
私もチチカットが観たかったのですが、その日は原宿で迷って間に合わなかったのでした・・・
「肉」なども観てみたいのだが。
バレエが題材な本作はとにかく至福なヒトトキでした。
返信する
べすと (manimani)
2009-11-29 22:45:45
☆かえるさま☆
どぅも~~(フランス語風)
なんとなくドキュメンタリに「ベスト」というのもなんとなく違和感のあるワタシですが、およそ興味関心のない分野はないといわんばかりのワイズマンの経歴ですよね~
今回のはドキュメンタリとしての興味とダンスへの興味のダブルなお楽しみでした。
返信する

コメントを投稿