Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

「愛の世紀」再観 ジャン=リュック・ゴダール

2009-01-13 21:58:27 | cinema
愛の世紀 [DVD]

紀伊國屋書店

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2001フランス/スイス
監督・脚本:ジャン=リュック・ゴダール
撮影:クリストフ・ポロック、ジュリアン・ハーシュ
出演:ブリュノ・ピュジュリュ、セシル・カンプ、ジャン・ダヴィー他


ゴダール作品の幸運は、ほとんどの作品が世界の何処かしらでしょっちゅうソフト化されていることにあるのだと思う。もはや所在すらあいまいな60~70年代アジビラ映画を除けば、たとえば『ヒア&ゼア』をはじめ『ウラジミールとローザ』『楽しい知識』までが入手しようと思えば入手できてしまうのだ。あんな映画のくせに(笑)

ゴダール作品の悲運は、ほとんどのソフト化された作品もすぐに絶版になってしまうことだ。ここぞというときに入手しておかないと手に入りにくくなってしまう。しばらくすると中古市場に出てくるが、結構高値がつく。字幕作成が恐ろしく難儀そうなゆえか日本版などは大概もともと高価なものなのに、さらに高くなる。見る機会を得るにはレンタル屋にモノが並ぶのを根気よく待つか、高価な中古品を買うか、たまさか幸運にもときおりもたらされる劇場リバイバルを待つか、と、ソフトが出回っている割には見ることがムズカしい。

何が言いたいのかというと特にないのだが、鑑賞する機会があれば迷わず観よう、というのがワタシのゴダールに対する基本姿勢なのです。かなわぬことも多いけれども。
で、なんとか入手が間に合ったこの『愛の世紀』も、ゴダール21世紀の最高傑作ともてはやされた割にはいまやDVD販売は終了しているようで、中古か在庫残を狙うしかないようです。残念なことです。

****

今年1発目の鑑賞作品はこの映画となりました。
実は以前劇場で観ている。

もはや希少となったモノクロフィルムによる黒白の質感と、老練の域に達したカットのテンポとそれに無関係に侵入しては消えてい行く音楽には非常に心打たれたのだけれど、観終わって内容を思い出そうとしてもどうしても思い出せない。

この映画、ゴダールにしては恐ろしくまれなことに、登場人物が非常に筋の通ったことを話し行動する。にもかかわらず、思い出すのは冒頭の噴水の彫刻、小さな絵を交互に示す男の手つき、都市の雑踏、夜のベンチで本を読むゴダールの姿、突然カラーになるときの海の怪しい色彩、深夜の列車を掃除する女性・・・そのような断片でしかない。

ワタシにとってはそれらの断片が雄弁であることがここでの重要なことなのかもしれない。3つの世代による愛の物語を、小説か舞台かオペラかなにかで実現しようとしている登場人物の思惑とその先行きなどとは全く別に、濡れそぼるパリの街路に雨に打たれながら眠るホームレス(だと思う)の冷たいカットが語る無言の物語のほうが突出している。無言の物語に打たれ涙するワタシがいる。
思えば80年代以降のゴダールをワタシはそういう見方で観ているように思う。それはあまりに情緒的にすぎるのかもしれないが。

****

無言劇の突出は、中盤以降の「二年前」とのテロップとともに極度に色処理したカラー画面になって以降は急速に感じられなくなる。映像の不思議。過去であるのに生々しい現前はどうしたことか。
この映画、過去のほうがあきらかに生き生きと現在性を持っており、現在の部分はモノクロであるが故か、記憶の奥底のような抽象性を持っている。
そのせいかカラーパートの記憶はモノクロのそれに比べて非常に少ない。
突出する物語もない。

この映画を時系列に組み直してみるとどうだろうと空想する。
全く違うものになる、というレベルを越えて、もはや映画として成立しなくなるのではないか?
順を追ってエドガーの創作の動機から出会いから並べてみると、それは全く意味のない、説明的プロットになってしまうのだろう。
現在を提示してから過去を提示すること。それをモノクロとカラーで区分けしてみせること。理由はさっぱりわからないが、そうでなくてはいけなかったのだと強く思わせる。それがゴダールの恐ろしさであり、無闇にふりまかれるうさんくささなのである。

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劇場で1回、DVDで2回観た。
最低でももう一回くらいは観たい。

過去記事


【追記】
あそうそう、この映画中で驚くべきことに、スピルバーグへの言及があるのが妙に浮いている。
ひとつは「スピルバーグ商会」が40年代の物語の制作権を買いたたく、という寸劇。もうひとつは、ぽつりと「シンドラー夫人は一銭も受け取らず南米にいる」とかいうつぶやき。
『映画史』でも徹底的にゴダール以降の映画作家を無視したゴダールだが、ここで思いあまってかうっかりしてか、アメリカのユダヤ人作家の名を挙げている。
『愛を讃えて』(原題)という作品ににつかわしいのかどうか・・?


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