「ソラリス」スタニスワフ・レム
沼野充義 訳 国書刊行会
ISBN4-336-04501-1
**以下ネタバレかもしれません**
これは1961年に出版されたポーランドの作家レムのSF代表作で、
「ソラリスの陽のもとに」のタイトルでハヤカワSF文庫から邦訳が出ていた物の、
新訳版。
解説によると、旧訳はロシア語訳からの重訳だったらしく、
原著の一部が削除されたものだったとのこと。
今回の新訳はポーランド語からの訳で、削除部分も含む決定版だ。
で、非常に面白かったぁ!
「ソラリス」は遠い惑星の名前。広大な「ソラリスの海」はどうも生命体らしい。
この人智を超えた徹底的な「他者」とのコンタクトを巡って、
人間が60年にわたり探検や実験や考察を重ねた末の時代、
ソラリス海上のステーションでの物語。実際の登場人物は3人(+1人?)
SFちっくな設定の中で語られるのは、スペクタクルや活劇ではなくて、
「絶対的な他者」を理解するとはどういうことなのかという認識論であったり、
ソラリスを巡って研究者がどのような考察を重ねたかという、自然科学やSF小説に対するメタフィクションであったり、
人間の記憶と苦悩に関する心理学的考察であったり、
心に突き刺さるような愛の物語であったり・・・と多層的なものだ。
これはなかなかのものだ。いわゆるSF小説の枠組みがあるとすると、しっかりそれを越えて文学している。
これが61年に書かれてしまったら、後に書き継ぐのは大変だぁ。
プロットとして面白いなと思ったのは、海の詳しい描写と、過去の研究者の業績を語り始めるのに、
ステーション内の図書室で本を繰るというシチュエーションから始めているところ。
その図書室がステーションの中心にあり、円筒形の部屋に書架がぐるっと巡っている、
という状況も、本好きにはわくわくする。
ソラリス研究史を描写するくだりは、まことしやかに「~学派」だのが細かく登場するが、
このメタフィクショナルな方法は、レム自身の後の著作につながると同時に、
ホルヘ・ルイス・ボルヘスなどの先駆者の仕事とのつながりを感じさせて、面白い。
そんでもってしっかり悲しい恋愛の物語でもあってぐっと来ます。
それもサイドストーリーなんかじゃなく、海が作り出した偽物とわかっている恋人との愛を巡り、
愛ってなに?というやっぱりソラリスを巡る存在論的なものと結びついているところがすごい。
あと、主題としては古びない小説なだけに、
コンピュータのアウトプットが「紙テープ」だったり
ステーション内の通信をテレビ電話の「受話器」でやってたり
妙にアナクロなところがアンバランスで笑えた。
(これはもちろん小説の価値を少しも損ねていない)
**
旧訳を読んだのはもう×十年前?でなんにも覚えていないんだけど、
旧訳は「海の描写」「ソラリス研究史」にあたる部分が大幅に削除されている版だということなので、
比べるとだいぶ印象が違うだろうと思う。
それと、私としては、タルコフスキーが映画化しているという観点でも興味のあるところ。
で、レムとタルコフスキー当人同士がケンカしてることから明らかなように、
やっぱり読んでみると映画での主題とはまるで違っていた。
映画では、意外と小説のディテールを忠実に映像化しているくせに、
描きたいことはタルコフスキーの永遠の主題である「郷愁と贖罪とモラル回復」。
映画は大好きだけれど、この小説は別物として大変優れていた。
本フェチとしては装丁と質感もいい感じです。(^^;)
(ただ表紙のイラストはいまいちでは・・?)
なにはともあれ、ああ読んでよかった~のおすすめ本でした。
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SFの香りに誘われてやって参りました。ソラリスに新訳旧訳があるとは知りませんでした。しかも旧訳には大幅カットがされていたなんて、ちょっと衝撃です。
話は変わりますが、前の記事にあったムーミンママの画像を見たらなんだか泣きそうになりました~。ママがあんまりあったかいので…。
わたしはニンニみたいな苦労人では全然ないんですが、今すぐムーミン家の玄関をあけて(鍵なんてかかってないはず!)ママの胸に飛び込みたい気持ちです。
ムーミンママいいですよねーでもパパもいいですよ背中の具合が(笑)
もちろん、映画「惑星ソラリス」もすっごく好きです。
本と映画では、視点が違いますが、<ソラリスの海>の存在感が十分に描かれていたと私は思います。
川の流れにかぶって、ケヴィンが独白するシーンが冒頭と最後にありますよね。
あれは、とても印象深いものでした。
未知の海と故郷の川。
こんなところにも、タルコフスキーの主題を感じます。
旧訳もぜひ読んでみてください。
当方レムとストルガツキーが好きで今後BLOGでも取り上げていきたいと思っております。
TBのデータが残ってしまって申し訳ありません
他の作品にも挑戦です。
いらっしゃいませ。
レムは面白いですね。難物も多いですけど。
私はこれから「天の声」に挑戦の予定です。
また遊びに来てくださいませ。