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面白かった!
テリー・ギリアム「ローズ・イン・タイドランド」の原作なので読んでみたけれど、映画以上に豊かな世界だったかも。
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ジェライザ=ローズは11歳の少女。母の死をきっかけにロサンゼルスを引き払い父の生家へ引っ越し。でもグレイハウンドを乗り継いでやってきたその家は、ヒメモロコシの群生にかこまれたボロ屋。しかも父は椅子に座ったきり動かない。
たった一人でヒメモロコシの広野(タイドランド=干潟)を探険する少女。
でもそこには「魔女」のデルと「キャプテン」ディキンスという、怪しい隣人がいたのだ・・・・
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主人公ジェライザ=ローズの妄想が一瞬たりとも止まらないのは見事であるけれど、さらにおもしろいのは、彼女を取り巻く現実世界も、リアリティを保ちながら彼女のファンタジー以上に充分奇想天外であるところ。
ヒメモロコシにとりかこまれた「ホワットロックス」でのひとりぼっちの妄想も面白いのだが、その妄想も、回想として描かれる彼女の両親との生活のいかれ具合によって、都会での生活に根ざしていたのだとわかって一層救いがない。
そして中盤から隣人のデルとディキンズの登場以降が俄然面白い。妄想と現実がぐるぐると誘い合って起こす風は、毒気を含み、埃っぽく、グロテスクで、一瞬たりとも怯むことがない。この混合物こそが、生と死の根源に働きかけるファンタジーの真髄なのだ。
で、うわぁあぁ~~っ・・とシャボン玉のように次から次へと繰り出されるいびつなエピソードたちにクルクルと翻弄されて読み進むと、ラストにはいよいよ両者の臨界点、カタストロフが待っている。
こんな最後でいいのか?
極限でのカタルシスと、明示されない死と、愛情との出会いがある。
よくぞここまでたどりつきました。
人間の想像力には果てがないというが、この小説は妄想世界と現実世界の二層において多彩な想像力が発揮されていて、そのことを証明する1作である。
そしてその想像力は、読み手の常識や既成観念に両手をかけ、ガタガタゆさぶってくれる類いのものなのだ。
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ジェライザ=ローズ11歳という設定がよいのだと思う。
11歳といえば、どっぷりファンタジーではなく、むしろはっきりリアルワールドにほうに足を突っ込みはじめる年齢。なのにジェライザ=ローズは引き延ばされた幼年期とやってきた大人期がまじりあった臨界点少女なのだ。
だからたとえば幼小年期の性愛だって、その魅力もおぞましさも両方鮮烈にとらえきることができる。
すごい。
回想シーンでの、父や母との他愛もないエピソードが泣ける。ばかばかしい話ばかりなんだけど。おならのこととか落書きのこととか、よくこういうエピソードを素材としてとっておけるよなあ。
というわけで、私は名作だと思いましたです。
ただ、巻末の解説がね・・・・
もうちょっと作者の人となりとかを伝えてほしかったですよ・・
ミッチ・カリン
1968年ニューメキシコ州生まれ
いまのところ他に邦訳はなさそう
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