スリランカの大学を終えたW君が修士課程に入学した。日本の最新計画技術を身につけることも考えたが、まずは研究手法を習得してもらうことにした。国内の事例地に案内し研究内容を解説して、ある程度理解できたところで、帰国費用を支援し、スリランカで私の調査に参加してもらって、実地訓練をさせた。そのときの調査結果をまとめて建築学会で発表したのが以下である。
2004 「スリランカの農村における水利用」 日本建築学会北海道大会
スリランカは、島の北側のドライゾーン(北東モンスーンの時期に集中して雨が降るが年間を通して雨が少ない)と南側のウェットゾーン(南西モンスーンの時期に雨季になるが年間を通して雨が降る)に分かれる。紀元前3世紀に始まるスリランカのシンハラ王朝はドライゾーンに都をおき、山あいに築いた潅漑貯水システムにより稲作農耕をすすめ、栄えてきた。いまでもこの潅漑貯水システムが北部の人々の生活水、農業水をまかなっている。
16世紀に進出したヨーロッパ人はウエットゾーンにプランテーションを開発し、新しく町をつくった。政治・経済の中心はコロンボなど南部に位置する。
2002年度・2003年度日本建築学会大会でドライゾーン、ウェットゾーンの潅漑貯水システムと農村住居についての事例研究を報告した。この調査を通じて、農村では井戸や水路で水をまかなっていることが判明した。またドライゾーンとウェットゾーンでは水利用に若干の違いが見られた。本稿は、水利用改善の資料に活用されることを期待して水利用の実態を報告する。事例地はドライゾーン・キリクラマ村(Kirikkulama)、ウェットゾーン・カットタ村(Kattota)で、2002年、それぞれ12世帯を対象に水利用に関する聞き取りを実施した。
ウェットゾーン・カットタ村の水供給は、水路、水路沿いの共同井戸、個人所有の井戸であり、水路は稲作に、共同井戸は沐浴洗濯に使われる。
個人所有の井戸をもつ家の多くは飲用・洗い物・菜園に井戸を、沐浴洗濯に共同井戸を使うが、沐浴洗濯も井戸を使う家もみられた。徐々にこの形式の水利用が増えると推測できる。
井戸をもたない家は、水利用扶助の意識のもと飲用・洗い物・菜園に隣人の井戸を使い、沐浴洗濯に共同井戸を使っている。井戸掘り技術の進歩(チューブ式井戸)により、個人所有の井戸へ移行していくと考えられる。
ドライゾーン・キリクラマ村の水供給は、人造湖に水を供給する水路と深井戸、浅井戸に依っている。
水路・湖の水は稲作用であるが、沐浴洗濯水にも使われる。
深井戸は飲用にも適し、全戸が飲用に深井戸を使用する。
浅井戸は飲用に適さないため、浅井戸をもつ家は飲用は深井戸、洗い物、菜園は浅井戸と使い分けがみられる。
井戸をもたない家は隣人の深井戸で飲用、洗い物、菜園の水をまかなう。多くの屋敷が屋根の水を集める枡を設けていることから、乾季の水への意識が高いことがうかがえる。
ウェットゾーンでは年間を通して降水があり、水量が安定していることから、井戸水を飲用、洗い物、菜園に使い、共同井戸で沐浴洗濯を行っている。井戸の有無で水の扶助がみられるが、一方で水使用を占有化する芽もうかがえる。
ドライゾーンでは乾季の水量減少があるため、深井戸は飲用・洗い物・菜園に、浅井戸は洗い物・菜園にと使い分けがみられる。沐浴洗濯でも通常は水路、乾季には湖と、乾季の影響を受けた水利用がみられた。水の扶助意識の高さがうかがえるが、水量・水質への不安は大きく、安定した水供給システムの確立が急がれる。
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