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2005「地域文化と新たな暮らしの知恵」=新たな知恵を吸収、取捨選択、洗練され地域の文化として継承

2017年08月08日 | studywork

2005「地域文化と新たな暮らしの知恵」農村計画学会誌vol.23No.1

1 固有の風土が地域文化の芽生え
 それぞれの地域にはその地域に固有の風土と歴史がある。
 風土とは、狭義には、その地域の気候や地勢のことで、暑い、寒い、雨が多い、雪が降る、海沿い、山なか、沖積地、台地など、その地域に固有の自然環境が人々の生活に働きかけている様相を意味する。環境作用の様相といってもよい。
その働きかけに人々はただ手をこまねいているわけではない。その環境をじょうずに活用しようと工夫を重ね、あるいは環境作用を制御しようと知恵をしぼる。暑いところでは風通しを工夫した住まいが作られ、寒いところでは断熱を工夫した住まいが発達する。木が多いところでは木造や木材の利用が進み、木がないところでは石造が発達し煉瓦が利用された。海沿いの立地では漁業が盛んになり、山間では林業が発達し、沖積地では稲作が行われ、河川では舟運による商業が栄えた。風土は、広義には、その地域に固有の環境条件のもとで展開する生活の仕方をも含んだ人々の環境制御、環境活用の様相といえる。
 環境の働きかけはその地域に固有であり、対する人々の環境制御、環境活用が試行錯誤を重ねながら繰り返された結果、環境と共生したその地域に固有の生活様式が生まれてくる。この生活様式と生活様式を支える生活技術は、生活の発展とともに洗練され、次代に受け継がれていく。地域文化の形成である。
 同じように、それぞれの地域は固有の環境のもとで固有の生活様式を生み出し、生活技術を発展、洗練させ、地域文化を形作っている。隣りあう地域であれば、環境条件も類似するし、日常的な交流によって相互に干渉しあい、類似の生活様式、類似の生活技術が地域文化として伝承されていくであろう。しかし、しばしば突出した出来事により生活様式、生活技術に大きな飛躍が生まれる。河川の氾濫に伴い洪水を考慮した敷地造成技術や築堤技術が発展したり、飢饉や人口増に伴う食糧確保に応じて新田や新村の開拓技術が工夫される。あるいは、優れた技術者や技能者の出現により生活技術がめざましい進歩を遂げたり、政治的、ときには武力的な強制や異文化との接触を契機に生活様式、生活技術に転機が生まれることも少なくない。上杉藩は米沢に移封されたため上杉鷹山の改革が生まれ、北前船の寄港地であった松前や箱館は石川や富山、さらには大坂、京の影響を受け、明治に開港した横浜や神戸には西洋の文化が直輸入された。こうした生活様式、生活技術の変化・発展が積み重なり、洗練され、やがてほかの地域をしのぐ卓越した地域文化が形成されていく。
 このように、地域文化はつねに新たな知恵を吸収、取捨選択し、洗練されて、その地域に固有の文化として次代に伝えられていく。何が取捨選択され、どのように洗練されるかは、その地域に住む人々の文化を見る目による。
 しかし、資本の論理は、とくに経済成長以降、文化を見る目を曇らせてしまった。いまや、経済の基準によって新たな暮らしの知恵が模索され、取捨選択されている。資本の論理は固有の風土による地域性を無視して成り立つ。文化の目で、新たな知恵を創り出し、洗練しなければ、地域文化は消滅する。
 本稿は、島根県斐川町を事例に、出雲平野を特徴づける築地松の形成理由と築地松を美しく仕立て上げた出雲人の文化性を通し、固有の風土に対する人々の取捨選択と洗練の知恵が優れた地域文化を創りだしていること、山形県米沢市に残る武家屋敷街を事例に、厳しい歴史のもとで試行錯誤された知恵の結果としてのウコギ垣景観から、文化は生活の中から生まれるものであり、文化は用と美を兼ね備えた存在であること、福島県舘岩村を事例に、都市農村交流などの文化交流が地域文化の再評価につながり、経済に流れやすい価値基準を修正し、新たな暮らし方、ひいては新たな地域文化創出の動機付けになっていることを述べる。

2 取捨選択と洗練が地域文化を育む  ・・略・・

3 用と美の知恵が地域文化を豊かにする  ・・略・・

4 異文化交流が新たな地域文化を創出する  ・・略・・その地域に固有の風土のもとで育まれた地域文化は、豊かな暮らしを求めて工夫された知恵の結晶である。それはすなわち、地域の人々に共有されていることを意味する。事例にあげた築地松にしろ、ウコギにしろ、曲家にしろ、その固有性の伝承は地域の人々がそれをよく理解し、優れた文化として引き継いでいくからこそ、次代に息づくことができるのである。舘岩村を事例に過疎化、都市化、経済基準に翻弄されがちな中山間地域であっても都市交流、異文化交流が地域文化の再評価、再発見に大きな力を発揮し、新たな地域文化創出のエネギーになることを述べたが、もっとも大  事なことは地域の一人一人が固有な地域文化を再評価し、再発見することである。一   人一人の様々な暮らしから発想する多様な暮らしの知恵が集約され、大きなうねりとなるのをじっくり待つ。やがて人々にその知恵が共有され、新たな工夫が加えられて、新しい地域文化として受け継がれていく。新たな暮らしに向かう知恵が新たな地域文化を創り出し、故に、地域の魅力が更新されていくのである。

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