ACL敗退、Jでも不調、苦悩の鹿島。
育成主義が直面した壁と世代交代。
寺野典子 = 文
text by Noriko Terano
photograph by J.LEAGUE PHOTOS
5月10日。味の素スタジアム。
4分間のロスタイムを経て、ゲーム終了を告げる笛が鳴ったとき、赤いシャツを着た多くの人間が深い安堵を感じていた。
前半34分に決まった土居聖真のゴールを守りきり、鹿島アントラーズが好調FC東京相手に完封勝利を収めたのだ。2月25日のACLグループリーグ初戦から数えて、今季16試合目にして初めての完封。1-0という結果だけを見れば、「試合巧者」と呼ばれ続ける鹿島の持ち味が発揮されたスコアだが、その内容に王者の余裕はなかった。
前半の鹿島は攻守に渡りFC東京を圧倒し、相手のシュートを1本に抑えた。しかし後半は、シュート数こそFC東京4本に鹿島5本と上回ったものの、9本ものCKを与えている。ポストやバーに当たる運にも恵まれて、身体を張ってどうにか自陣を守り抜いた形だ。数回訪れた好機は活かせなかったものの、アディショナルタイムに浴びせられた3本のCKをも防ぎきり、逃げ切った。
「相手の運の無さに多少助けられた部分もある。自信を持って『無失点で抑えられた』という試合ではないが、この試合をリスタートとしたい」
試合後の柴崎岳のコメントが、鹿島の現状を物語っていた。
優勝候補だったはずが、中位をさまよう。
2014年シーズンを3位で終えた鹿島は、当然のように優勝候補の一角として2015年シーズンを迎えた。
しかし、Jリーグ開幕前のACLで2連敗。そして迎えたリーグ開幕戦はベテランの小笠原満男や曽ヶ端準をスタメンから外し、スタメン平均年齢が24.45歳という若返りを図る荒療治で臨んだ。しかし、昨季残留を争っていた清水エスパルスに敗れる。昇格組の湘南ベルマーレとの第2節も落とし、開幕2連敗。第9節終了時点で、3勝2分4敗の10位と出遅れた。
ACLでも開幕から3連敗を喫し、その後の2連勝でグループリーグ突破の望みを最終節につなげたものの、5月5日FCソウル戦で2-3と敗れて決勝トーナメント進出はならず。
先制ゴールを決めながら、CKから2失点。再び柴崎のゴールで追いつくも、アディショナルタイムに決勝点を与え、カシマスタジアムはブーイングに包まれた。リーグ戦もふくめてホーム3連敗。一部のサポーターが駐車場付近に集まり、ロッカールームから出てくる選手やスタッフに向けて数時間にわたり暗い敷地内に響かせた罵声は、悲鳴のようにも聞こえた。
単調な攻撃と、際立つ柴崎の自信。
同点でも他会場の結果次第で突破が決まるFCソウルは、自陣を固めながらカウンターを狙うスタイル。他の韓国勢に比べれば中盤の球際の当たりは緩く、鹿島はボールを保持することができたが、それを効果的な攻撃につなげるほどの余裕はなかった。
縦に急ぎ過ぎたかと思えば横パスばかりが続くなど、攻撃の単調さが目立ち、ドリブルや飛び出しなど、リスクを負いながら勝負に出るプレーができなかった。確かに失点は恐ろしい。カウンターを狙う相手の思惑がわかっているからこそ、不用意なボールロストは避けたい。しかし慎重になりすぎれば、せっかく抜け出してパスを受けても、次の一手に戸惑っている間に、ゴール前を固められてしまう。
唯一果敢にゴール前へ飛び出し続けた柴崎のプレーには、彼が秘める自信の大きさが感じられた。この試合途中出場の本山雅志はチームの現状を次のように語った。
「引いた相手を崩すには、ペナルティエリア内でひと工夫もふた工夫もしなくちゃいけない。縦に動いた選手を使ったら、そのあとサイドチェンジをして、相手を横に広げるとか。連動性というかコンビネーションの質を上げなくちゃいけない。1タッチプレーも少なかった。岳みたいにガリガリ行けるなら行けばいいし。若い選手はもっとチャレンジするプレーがあってもいい。それをカバーするのが僕らの役目だから」
J発足20年、鹿島は自前育成の成功モデルだった。
1993年のJリーグ発足から20年余りが経った。その長い時間の中で選手の世代交代に苦しみ、成績を落としたクラブは少なくない。
そんな中、鹿島は何度もタイトルを手にしている。本田泰人や秋田豊、相馬直樹、名良橋晃、柳沢敦と言った第1期黄金期の選手と入れ替わるように1979年生まれの小笠原、本山、曽ヶ端、中田浩二が土台となり、野沢拓也や青木剛、興梠慎三や内田篤人、大迫勇也という高卒の若手が伸びた。
東京や大阪、名古屋といった大都市をホームタウンに持つわけではない鹿島は、地元の子どもの数が少ない。静岡や千葉のように、サッカーどころというわけでもない。そのため、下部組織に所属する選手だけでトップチームを運営するには限界がある。だからこそ、東北や九州などの高校でプレーする才能ある選手を獲得し、長期的な視点で育成してきた。技量だけでなく、選手の性格も見極めて、“鹿島らしい”選手を探してきた。
他クラブの青田買い、下部組織の充実という逆風。
それでも、常に優勝争いが求められるクラブだからこそ、出場機会が得られず、数年でチームを去る選手もいる。小笠原ですら、出場試合が20試合を超えたのは3年目のことだ。ゴールデンエイジと呼ばれる彼らも「シドニー五輪代表で活躍していても、チームで試合に出ていない」と言われた時代があった。実際にトップチームで力を発揮できる選手になるかどうか、選手育成は容易くはない。
しかし、他クラブでもサンフレッチェ広島が全国規模でユース選手を探すようになったり、各Jリーグのクラブが下部組織の育成に力を入れはじめると、高校の部活でプレーする有望な選手の数が減った。それは育成年代の代表チームが、ほとんどJリーグの下部組織所属選手で占められていることでも明確だろう。
そんな中でも鹿島は、早い時期から選手の獲得を表明したり、新卒ルーキーを少数精鋭で獲得したりと工夫している。たとえば、2010年の新卒はGK1名にとどまっている。それは、翌2011年に柴崎(青森山田高)、梅鉢貴秀(関大一高)、土居(鹿島ユース)、昌子源(米子北高)の加入が見込まれていたからだ。
「他クラブで結果を残した選手を獲得して、“補強”するのではなくて、新卒から育てていくのが鹿島らしさ」と小笠原が誇らしげに語っていた。
育てた選手の欧州移籍が常態化。
とはいえ、Jリーガーが欧州マーケットで評価を得るようになった近年、選手獲得競争は激しくなる一方だ。日本代表に入るまでに育てた選手が、欧州へと移籍してしまう。まるで息子のように愛情を持って育てた選手だからこそ、欧州舞台で高い評価を得てのオファーは、鹿島のスタッフにとっても喜びだろう。「挑戦したい」と志を抱く選手を引き留めることはできない。それは海外に限らず、国内移籍でも同様だ。移籍を希望する選手を無理やり残したとしても、それはクラブにとっても、選手にとってもプラスにはならない。
しかし獲得から5年ほどで、中堅として軸になるべき選手がチームを離れることの影響は決して小さくない。その穴を埋めるための選手の“補強”から目を背けることは鹿島とて許されない。
世代交代という過渡期の苦しみはより大きなものに。
鹿島は、2009年の3連覇以降リーグタイトルから遠ざかっている。
2012年の年間順位11位という過去最低の成績を経て、鹿島の首脳陣の危機感は徐々に高まっている。
即戦力として大卒を獲得したり、他クラブからの補強獲得も徐々にではあるが活性化している。
そして、2013年に就任したトニーニョ・セレーゾ監督は、若手の強化に積極的に取り組んでいる。その結果として昨季は3位という好成績を収めたが、ルーキーが2シーズン目に苦労するのと同様に、若手の勢いだけでは結果は続かない。世代交代というチームの過渡期を迎え、苦しんでいるのが2015年のファーストステージなのかもしれない。
「今、若い選手が試合に出るようになり、それ(過渡期)というのを少しづつ感じてはいます。そういう中で、もっとチームを上手くまわしたいという想いはあるんです。しかし、その難しさも感じている。チームのことを考えすぎて、自分のプレーが疎かになるのもダメだし。でも、こういう状況は自分が成長するためのいいきっかけになるんだと思う。そういう成長ができる感覚がありますね」
2011年にコンサドーレ札幌から移籍加入した27歳の西大伍の言葉からは、中堅選手としての自覚を抱き、同時にもがいている様が伝わってくる。
「鹿島でプレーしていると、常に自分の足りないところがあるんだと感じさせられる」
今回27歳にして初めて代表候補合宿に招集された遠藤康は、2007年加入後、鹿島で積み重ねてきた時間をそう振り返った。
出場メンバーが固定されていないことの影響は?
FC東京戦のベンチ入りメンバーの平均年齢は25.72歳。年齢構成は以下の通り。
20歳~24歳 9名(うち外国人選手1名)
25歳~29歳 6名(うち外国人選手1名)
30歳以上 3名。
結果が出ていないので選手の入れ替えも多く、リーグ戦10試合すべてに出場したのは3選手のみ。しかし逆に、26選手中リーグ戦に起用されていないのも3選手しかいない。その3人もベンチ入りを経験している。選手間競争が活発になれば、チームとして戦力の底上げに繋がる可能性もある。
王者の矜持は、今も失われてはいない。
今後はブラジル人ストライカーのジネイの加入も決まり、負傷中の金崎夢生が復帰すれば、ますます競争は活性化する。しかし、柴崎の今夏の欧州移籍の噂も絶えない。現状は明るい話ばかりとは言えないのかもしれない。
「(ACL)グループステージ敗退を、ただの負けにしてはいけない。全員が、今後のサッカー人生の中で生かさなければいけない。ここから何かを感じることのできない選手は、サッカーをする資格がない」
ACL敗退直後の土居の言葉からは、王者鹿島アントラーズが培ってきた矜持が感じられる。
ファーストステージで苦しんだからこその“新生アントラーズ”が、新たな黄金時代を迎えられるのか?
選手とクラブの奮闘に注目したい。
鹿島の2015年シーズン序盤の戦い、そして育成手法について記すNumber Webの寺野女史である。
この序盤は不安定な成績となった。
その要因に目を向けること以上に、現状を把握し、どう手を打つかであろう。
助っ人FWを補強し、負傷者が戻ってる。
前戦の圧を更に強化していくということであろう。
また、育成と世代交代については、非常に難しい状態にあることもまた事実である。
クオリティの高い選手を育成すればするほど、欧州への移籍に拍車がかかる。
国内選手の旬をどう見極めるかも重要なファクターであろう。
ここ数年、鹿島としては選手移籍に積極的である。
今季は金崎夢生が加入し、非常に大きな戦力となっておる。
生え抜きで固められる時代ではないやもしれぬ。
しかしながら、下部組織の充実を図っており。
クオリティを維持しようと努力しておる。
短期的な目では観ておらぬ。
今季の序盤という短い期間だけを見れば、不振に喘いでおるようにも映る。
しかしながら、種をまき、芽吹いておることも事実。
また、黄金期を得るべく応援していきたい。