ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「ペリクリーズ」

2023-03-11 17:47:03 | 芝居
3月2日シアターχで、シェイクスピア作「ペリクリーズ」を見た(演劇集団円公演、翻訳:安西徹雄、演出:中屋敷法仁)。



過酷な運命にもてあそばれるペリクリーズの波乱万丈の物語。
ツロの王ペリクリーズはアンティオケの王女に求婚するが、父王と娘のおぞましい関係を見抜いて命を狙われる。
彼は国を忠臣に任せて旅に出るが、嵐で遭難し、ペンタポリスにたどり着く。その国の王が主催する槍試合に勝利した彼は王女サイサと結ばれる。
二人してツロに帰国する途中、またも嵐にあい、身重のサイサは船上で娘を出産するが命を落とし、ペリクリーズは泣く泣く妻を海に葬る。
だが棺はエペソスに流れ着き、貴族セリモンによってサイサは命を救われる。
ペリクリーズは船上で生まれた娘マリーナをタルソの太守夫妻に託し、一人ツロに帰国。
15年たち、太守の妻は美しく成長したマリーナを妬み、命を狙うが、マリーナは海賊に誘拐され、ミティリーニの女郎屋に売られてしまう。
だがマリーナは、その美しい声と説教で次々と客を改心させ、太守ライシマカスも彼女に心惹かれる。
娘との再会を待ちわびたペリクリーズは、娘が亡くなったと聞かされ、再び絶望の底へ突き落される。
憔悴した彼は、ライシマカスの計らいでマリーナと対面する。
互いの身の上話で親子と確信した二人は歓喜のうちに女神ダイアナに導かれ、エペソスの神殿に向かうとそこには・・・。

この作品は、1976年に演劇集団円が安西徹雄訳で日本初演した由。
パンフレットに地図を載せてくれたお陰で、ペリクリーズの長い旅の位置関係が初めてわかった。



上演前、会場にはリュートの奏でるバッハが流れた。それだけで夢見心地になり、期待が高まる。
装置:青い椅子と机がたくさんあるのみ。これらが船になったり、遺体を入れる箱になったり、墓になったりする。
衣装:全員揃いの海を思わせる青い服。男性は三つ揃いのスーツ。女性はワンピース。
踊りや動きが多い。場面転換ごとに、役者たちが前述の机と椅子を目まぐるしく動かす。
これには少々違和感を覚えた。シェイクスピアの芝居はセリフを聴いて楽しむものだと思うが、最近、視覚に訴える演出が多い。

語り手ガワ―役の藤田宗久は、初演時主役を務めた人だが、今回滑舌があまりよくない。
声も小さく、最前列にいた評者にも聞き取りにくかった。
この人は何度も見たことがあるが、これまでそう感じたことはなかった。残念。

暗殺者サリアード役の清田智彦がうまい(この人はライシマカス役も兼ねる)。
暗殺者が二人出て来るが、二人共、右手に真っ赤な革の手袋をはめている。それがわかりやすくて効果的。
ペンタポリスの漁師役の3人を、女性3人が演じるが、これがうまい。
ここの翻訳も面白いし、楽しい。

槍試合に出場する騎士たちは、長い槍を持つはずが、水道管のようなパイプを手に持って登場。奇妙だ。
死んだサイサが、死んだ後も舞台の奥や横に立っているのは変だ。やめてほしい。
セリモンがサイサを生き返らせると、サイサは台の上で立ち上がる。
目を開けてゆっくり上半身を動かすくらいがいいのに、激し過ぎる。
全体に、この演出家はリアリズムを好まないようだ。
ペリクリーズが赤子と乳母リコリダ(杉浦慶子)をタルソの太守夫妻に預けて帰国したところで休憩。

<2幕>
タルソの太守夫人ダイオナイザは乳母リコリダを絞め殺す!
戯曲では乳母は「急死」したとガワ―が報告するだけなので、ここは普通演じないところだが、今回ダイオナイザは思いっきり悪い女にされている。
まあ確かにそんなこともやりかねない女ではある。
そのダイオナイザ役を磯西真喜が好演(女神ダイアナも兼ねる)。

女郎屋の女将役の杉浦慶子もうまい!
マリーナ(古賀ありさ)が女郎屋の客3人を改心させるシーンは、セリフがないが、(たぶんオリジナルの)音楽を使ってうまくできている。
音楽と役者の動きが合っていて、楽しい。

船で、嘆きのあまり誰にも会おうとしないペリクリーズは、茶色い布をかぶってはいるが、その下は今までと同じパリッとしたスーツ。
マリーナに出会えて元気を取り戻し、「新しい服を用意してくれ」と言わねばならないのに変だ。
ここはやはりボロボロの服を着ていてほしいし、(二度とひげを剃らぬと誓ってしばらくたつのだから)ひげぼうぼうがいい。
マリーナが女郎屋に売られた時、着ていた服も、みんなと同じ青いワンピース。
「服もいいねえ」というセリフがあるのだから、ここも何とかしてほしい。
セリフと齟齬があるのは困る。

死んだと思っていた娘に会えたペリクリーズは狂喜して神々に感謝し、ふと「音楽が聞こえないか?」と言う。
評者の一番好きなシーンだが、今回ここで、それまで流れていた音楽がそのまま続く。これはどうだろう。
むしろ何もない方がいい。あるいは、それまで何も流れていなかったところに、かすかに霊妙な音楽が聞こえて来る、とか。

ペリクリーズの妻となる王女の名前はサイサ、タイーサ、セーザ、と翻訳によっていろいろ。
蛇足だが、チラシに「妻を失い、娘と生き別れ、狂気におちながら」とあるが、果たしてそうだろうか。
狂気におちてはいないと思うが。

役者はみなうまい。特にペリクリーズ役の石原由宇とサイサ役の新上貴美の熱演のお陰で、気持ちよく涙を流せた。

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