ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「金閣炎上」

2023-05-20 09:47:59 | 芝居
5月16日紀伊國屋ホールで、水上勉作「金閣炎上」を見た(劇団青年座公演、演出:宮田慶子)。




大正14年、若狭湾に面した寒村の成生(なりう)に若い女がやって来た。
西徳寺の住職道源(石井淳)のもとに嫁入りする志満子(魏涼子)である。
この辺境の末寺で結核に病む道源と結婚生活が始まった。
昭和4年、養賢(君澤透)が生まれる。
しかし成長するにつれて養賢には重度の吃音症があらわれる。
「貧寺の子が生き残るためには僧侶になるしかない・・・」
そう考えた父は養賢を金閣寺に入れたいと強く願う。
昭和18年、父の死から一年後、養賢は金閣寺で得度式をあげ見習い僧となる。
しかし父から受け継いだ肺病症状が現れ、母の待つ故郷で養生することになった。
昭和20年、戦争は終わった。
成生から京都に戻ってきた養賢が見たものは・・・。

作者・水上勉氏が自らの実体験と重ね合わせて描いた名作小説を作者自身が戯曲化。
40年の時を超えて、青年座に新たな「金閣炎上」が誕生する(チラシより)。
ネタバレあります注意!

<1幕>
冒頭、文殊、観音、達磨、弥勒ら6人の菩薩像が現れる。
彼らが優美な茶色の衣を脱ぐと、村の人々となり、一人ずつ前に出て道源と志満子の噂をする。
道源は病弱で、仕事もできず寝てばかりいる。
家の事情で追われるように出てきた許嫁の志満子は、高慢で派手好き。
養賢が生まれた後も、二人は始終喧嘩ばかり。
志満子は息子が3歳頃から、村の男と不倫の仲となる。
昭和17年、養賢は中学に入学するが、父が肺結核で死ぬ。
翌年、養賢は金閣寺の小僧となる。
 ~ここで休憩~
<2幕>
金閣寺の長老・妙海(横堀悦夫)は養賢に目をかけてやるが、養賢は先輩方にはあまり評判がよくない。
中学に通っていたが、戦争のため、勤労動員で兵器を作る日々となる。
次第に咳と痰が止まらなくなり、休学して寺で寝ていたが、食糧難の折から里に帰らされる。
母は寺に居続け、村の愛人に世話してもらって軍手作りなどの針仕事をしている。
本来、禅寺では住職が死んだらその家族は寺を去るのが決まり。
でないと次の住職を呼べず、村の人々が困る。
養賢はそう言って母に故郷に帰るよう勧めるが、母は聞かない。
養賢は、母が愛人のおもちゃにされている、自分は父と同じく結核だ、と言い、母は必死で否定する。
だが彼はせき込んで血を吐く。愕然とする母。
敗戦。
体調が回復した養賢は金閣寺に戻る。
学校仲間との会話。
相変わらず飢えに苦しむ日々。
大学の授業をサボり、悪い仲間と詐欺まがいのことをして警察から寺に連絡が行く。
妙海は彼を𠮟りつけ、故郷の母の方を向いて謝れ、と言うが、彼は妙海をにらみつけて唸り声を上げるのみ。
妙海もさすがに匙を投げ、彼を見放す。
彼は2軒の質屋に冬のコートなどを3回にわたって入れ、千数百円の金を手にする。
このあたりから、学友や質屋が前に進み出て、彼について証言する。
女郎屋。2度目に行くと、女の故郷の話を聴く。
「今に新聞に載るよ」と妙なことを言う。
女「警察が来たら退学でしょ」「この前そんな人がいた」
当日、彼はいつものように過ごし、特に変わった様子はなかったという。
金閣寺に放火した後、彼は近くの山に行き、睡眠薬を飲み胸を刺したが死にきれず、苦しんでいるところを警察官らに発見される。

志満子は刑務所に面会に来るが、養賢は会いたくないと突っぱねる。
彼女は刑務官に泣いて取りすがるが、とうとう諦めて帰ってゆく。
彼女が帰った後、刑務官は「親なら肌着くらい持って来るもんだ」と言う。
このセリフを聞いてハッとなった。
彼の母は、彼を溺愛しているように見えたが、実は自分のことしか考えていなかった。
息子に会わせて下さい、としきりに泣く姿からはわからなかったが、経験豊富な刑務官にはわかった。
この母親は、息子のことを案じてもいないし愛してもいない、と。
彼女は、息子が大罪を犯してしまったために、村の人たちから白い目で見られる、自分はもう寺にいられない、と、それしか考えていない。
そんな母の心が息子にも伝わっているから、息子は会いたくないと言うのだ。

結局のところ、彼の行為は、寺での飢え、安楽な暮らしをする高僧たちへの憎しみ、教えへの疑問、といったものから生まれたようだ。
三島由紀夫の「金閣寺」では、美への嫉妬が動機だった。
水上勉のこの作品の方が、動機としては分かり易いかも知れない。

今回もまた、宮田慶子の演出が素晴らしい。
作者自身による脚本もいい。
役者陣もいい。みな非常にうまいし、言葉(方言)のイントネーションが自然で、聴いていて実に心地良い。
音楽(和田薫)もいい。と言ってもごくごく短い音が要所要所に入るだけだが、それがその場にピタッとハマっていて劇的緊張が高まる。








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