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とつぜん上方落語 第3回 軒づけ

 
 上方落語には浄瑠璃の噺がようある。浄瑠璃、こんなんゆうても知らん人が多いやろ。歌舞伎や文楽のファンならともかく、この21世紀の日本で好んで浄瑠璃を聞く人は少ないのちゃうやろか。ましてや、好きで浄瑠璃を語る素人さんなんておるやろか。ワシは上方落語ファンやから、噺によう出てくるから浄瑠璃ってしっとうけど、なんてエラそうなことゆうてるけど、ナマの浄瑠璃は聞いたことはない。ワシがしっとうのは高座で噺家さんがやるネタとしての浄瑠璃や。
 この「軒づけ」も浄瑠璃の噺や。素人の浄瑠璃好きが集まってる。浄瑠璃上達のいちばんの方法が軒づけちゅうこった。軒づけ。路上で浄瑠璃を語るんや。家々を回って、外の玄関口に立ち、そこから、オガオガオガオガと語る。えらい迷惑な話や。ま、たいてい「お通り」といわれて追っ払われてしまう。
 考えてもみてみいや。風呂上りでメシ食ってビール飲んで、ええ調子で阪神の試合みとる。2対1で負けとって、ツーアウト満塁バッター福留フルカウント。ピッチャーふりかぶった、つうとこで、とつぜん外で、テンツテンテン、トテチントテチン、チリトテチンチリトテチン、オガオガオガ、ウワッファ、ウォッフォ、なんて怒鳴りはじめたら、そらだれだって怒りまっせ。
 これが、うんとうまい浄瑠璃やったら、感激して、ま、お上がり、ちゅうて家に上げてもらって、鰻のお茶漬けをごっそうしてもらえるちゅうすんぽうや。鰻のお茶漬け、うまいでっせ。高いけど奮発して国産の鰻買って、ワシもお茶漬けにして食うたで。来年はナマズの茶漬けにしたろかとおもうておる。
 これ日本やから浄瑠璃やけど、イタリアやったらオペラやな。オペラの軒づけや。浄瑠璃やったら三味線の紙くず屋のてんさん一人連れて行ったらええけど、オペラやったらフルオーケストラ連れてあるかなあきまへん。
 サッカーでも見とったら、とつぜん、おもてでジャジャーンとオーケストラが鳴り出し、おおおおおおおおおお、とオペラをうなりだす。こっちの方が迷惑やな。けど、うまいオペラやったら、茶漬けやのうて鰻のリゾットごっそうしてくれるんかな。
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