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有頂天家族


森見登美彦     幻冬社

「これも阿呆の血のしからしむところだ」
「面白きことは良きことなり!」
 これは本書312頁に出て来るセリフ。この作品を二言でいいあらわしているセリフである。
 京都の街には、3種類のいきものが生息している。そして彼らは連日連夜三つ巴のドタバタどんちゃん騒ぎを繰り広げている。3種類のいきものとは、人間、天狗、狸。
 主人公は京都狸界の名門、下鴨家の三男下鴨矢三郎。タイトルの有頂天家族とは矢三郎の家族。父総一郎は偉大な大狸だったが、狸鍋にされて世を去った。母は子供思いで優しいが、タカラヅカ狂で時々「くたばれ」と暴言を吐く。長兄矢一郎は生真面目だが、プレッシャーに弱い。次兄矢二郎は世をはかなんで蛙になって井戸住まい。主人公矢三郎は面白ければなんでもOKのお調子者。四男矢四郎は未熟者で、すぐ尻尾をだす。
 この下鴨家と犬猿の仲が、夷川家。当主早雲は悪だくみを巡らして狸界の覇権を狙う。金閣銀閣の兄弟は阿呆。妹海星は姿を見せないが、矢三郎に闇の中から罵詈雑言をあびせる。
 この狸どもの師匠が赤玉先生。かっては絶大な力を持った大天狗だったが、歳取ってヨレヨレに。それでもいまだにプライドと気位は高く、偏屈、頑固、助平で、弟子たちにわがまま放題。
 赤玉先生の弟子がもう一人。弁天。かって人間の少女であったが、赤玉先生に天狗教育を受け、恐るべき才能を発揮。半分人間半分天狗の、天下無敵の空飛ぶ美女。
 そして七福神の名を名乗る「金曜倶楽部」と称する謎の一団。
 これらの連中が京都の街を舞台に、抱腹絶倒、奇想天外、荒唐無稽、奇絶怪絶、波乱万丈、酒池肉林、の大騒ぎ。
 壮絶に面白いSFならぬTF(タヌキファンタジー)であった。京都の夜はしらふで歩いても、あまり面白くない。ほろ酔い気分で歩こう。酒は電気プランがいい。酔眼朦朧のあなたには見えるだろう。天を舞う弁天、闇からののしる海星。天狗風を起す赤玉先生。阿呆合戦を繰り広げる下鴨家と夷川家。
 実は小生も見た。小生の所属するSF同人誌「星群の会」は、かって京都で例会をしていた。例会の会場は烏丸丸太町。二次会は御池。そして飲み会の三次会は河原町。だから本書に出て来る地名は小生にとってなつかしい。月に一度、多いときは毎週、酔っ払ってこのへんをウロウロしていた。酔った小生は、上記のごとき怪しの連中を見たような気がする。
「星群の会」とは「金曜倶楽部」なのかも知れないと自分では思ったりして。 
 

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4月3日(木) 空の知り合い?

 こっちに向って手を振っているおばさんがいた。知らないおばさん。小生の後ろの人に手を振っているのかな、と思って振り返ると誰もいない。忘れているだけで、小生に関わりのある人かも知れない。
 無視しようか、手を振り返そうかと、思案しながら、よく見ると視線が合っていない。おばさんは上を見ている。
 そのおばさんの視線の先には何もない。マンションの上の階にでも知り合いがいて、その人に手を振っているのかなと思ったが、そんなビルはない。
 おばさんは、空に向って手を振っているのだ。空にはヘリコプターとか飛行機すら見えない。何もない空に向って手を振っているわけ。
 小生には見えないが、おばさんには見える「なにか/だれか」が空にいたのかも知れない。

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