<新・とりがら時事放談> 旅・映画・音楽・演芸・書籍・雑誌・グルメなど、エンタメに的を絞った自由奔放コラム
宇宙エンタメ前哨基地





今から10年前。
営業職だった私は出張と言えば沖縄県か鳥取県。
なぜか担当している客先がどちらの地区もその大阪本社が面倒をみていたので、必然的に私も同じ地区の面倒見ていたのだ。

従って首都圏はほとんど訪れることはなく、最も多くの回数訪れたことのある「首都」は圧倒的にタイのバンコクであった。
それが7年前に「企画へ行け」と言われてから生活が激変し、主な出張先は沖縄県、鳥取県から東京都に変わった。
別に仕事じゃなくてプライベートでも行きたい時に行ける鳥取県はともかく沖縄県がレギュラーな出張先から外れたのはショックだった。
青い空。
エメラルドグリーンに煌く海。
空港を降りた途端に始まるトロピカルな雰囲気。
仕事で来ている、という気分を忘れさせるに十分なスローな時間展開。
沖縄大好きな私には、会社の経費で沖縄へ行ける特典を無くしてしまったことが、大きなショックなのであった。

以後、東京へ出張先が変わったものの沖縄の穴を埋めることはできなかった。
渋谷も新宿も、原宿も、沖縄ののほほ~んとした雰囲気にはとうてい太刀打ちできないし、似たような繁華街なら大阪にもあるのの大都会のありがたみは全くなかった。
おまけに、出張しているのか短期滞在しているかわけがわからないほど多くの回数、大阪と東京の間を行き来するようになった。
統計はとったことがないのだが、少なくとも一年間のうち2ヶ月近くを東京で過ごしている計算になる。
なんといってもホテルの無料宿泊特典を年に数回受けるだけ行っているので、もう一ヶ月滞在期間が増えると、
「転勤せよ」
と言われかねないので注意が必要だ。

もともと東京方面はあまり好きではない典型的な関西人の私は、この出張の繰り返しに最初のうちは辟易としていた。
しかし恐ろしいもので、回数を重ねているうちに「東京も大阪と変わらんやん」という気分が芽生え始めた。
それには様々な原因があるにはある。
例えば「慣れ」である。
何処へ行っても難波か梅田状態の東京は人ごみの嫌いな私には苦手の一因になっているのだが、その混雑にも渋谷や新宿、秋葉原などをウロウロしていると次第に慣れてしまったというポイントがある。
加えて「関西人が多い」というのも重要な要素だ。

かつて東京を歩いていると関西弁を聞ことはなかなか無かったのだが、今や東京都内は関西人に席巻されているというか、江戸開闢以来の関西人の流入がおこなれているというのか、何処へ行っても関西弁の聞こえない日はないのであって、うっかりしていると東京にいることを忘れてしまうそうなくらいなのだ。
これは関西の大手企業が横山ノック、太田府政時代に本社の建物だけを大阪に残してスタッフが大挙して東京に移り住んだことが原因ではないかと密かに思っている。
しかも以前書いたように関西人は声が大きい。
丸の内や汐留エリアはもちろんのこと秋葉原、代官山、本郷、恵比寿、どこでもかしこでも関西弁がこだまする。
これでは天王寺、天下茶屋、鶴橋と変わらないのだ。
どおりで、大阪阿倍野にSHIBUYA109が開業するわけだ。

そんな東京出張を繰り返す私だが、殆ど行かないエリアが「銀座」である。

「銀座」
以前務めていた会社では東京営業所が月島にあった関係で、よく有楽町からバスに乗って「銀座」を通過したものだった。
東京営業所の部長はいい人だったのだが、
「飲みに行くかい?」
と連れて行ってくれるところは「銀座」ではなく、「門前仲町」で、豪華絢爛「江戸前にぎり寿司」をごちそうになることは一切無く、下町の味「深川めし」をごちそうになるのであった。
ちなみに「深川めし」は今も数少ない私の好きな東京の料理である。

自分からすすんで「銀座」を訪れたのはずっと年齢を重ねてからで、なんとアップルストア銀座がオープンした時なのであった。
「アップルの直営店って一体どんなんや」
という好奇心からの訪問であった。
初めての銀座はまず降りる駅から調べなければならなかった。
「銀座」と名のつく駅の多いことに驚いたが、土地勘がないために、どの銀座で降りるのが適当かどうか、判断しにくい。
できればJRの駅が東京人でない私にはわかりやすいのだが、地下鉄の駅しかないことを知り、
「心斎橋みたいやんけ」
と変に対抗意識をもちつつアップルストアに向かったのであった。
この「心斎橋みたいやんけ」という少々汚い響きのある河内弁風大阪弁が効力を発揮したのかどうか分からないが、次にできたアップルストアは大阪の心斎橋であった。

今でも「銀座」は年に1度行くかどうか。
食事をするのなら人形町のほうがお気に入りだし、つきあいのある某T大学教授のX先生は新橋烏森の安もんフィリピンバーのほうがお気に入りらしく、せっかく会社の経費で飲めるのに「銀座」は縁遠い存在だ。

新潮文庫「私の銀座 銀座百点編集部」は、地域誌「銀座百点」に掲載されてきた様々な著名人が書いた「銀座」にまつわるエッセイ集だ。
その著者の名前を読んだだけで、豪華絢爛。
「銀座」の何相応しいものがある。
司馬遼太郎。
藤沢周平。
吉村昭。
沢木耕太郎。
小椋佳。
阿久悠。
戸田奈津子。
森田芳光。
有吉佐和子。
林真理子。
などなどなど。
それぞれに「銀座」への思いを書き記していて実に面白い。
とりわけ司馬遼太郎のような大阪の作家と銀座の関わりなどを読むと賜らなく「同意」してしまうところがあるのだが、それは読んでからのお楽しみ。

読みやすいライトな一冊であった。

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )