<新・とりがら時事放談> 旅・映画・音楽・演芸・書籍・雑誌・グルメなど、エンタメに的を絞った自由奔放コラム
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6年前、プランは考えずに私はミャンマーのシャン州にあるチャイントンという街を訪れた。

チャイントンはヤンゴンから飛行機で約3時間のところにある田舎町。
ヘーホー、タチレイと二箇所も街に立ち寄ってやっと辿り着くところなので、随分な辺境のような気がしたものだった。
ところがチャイントン空港からチャーターした自動車に乗って市内に入ると車窓からは意外にも立派な建物が建ち並び、しかも多くの家々の屋根には衛星放送のアンテナまで立っている。チャイントンは小ぶりながらも裕福そうな街なのであった。



一般的にミャンマーの国内を走っている自動車は、ボロボロになるまで使いこなされた日本の中古車が多い。ほとんどが日本を走っていた姿のままの塗装で走っているので、例えばバスならば「新宿西口行き」だとか「パルケエスパーニャ志摩スペイン村」なんて書かれたのがそのまま走っているし、トラックならば「佐川急便」「日通」などと書かれたものがそのまま走っているようなところなのだ。
ところがチャイントンでは、中古に混じって新車のようなトヨタの四駆やワゴン車が頻繁に走っていたのでビックリした。

「メーサイからそのまま国境を超えて入ってきたタイの自動車ですよ」

と教えてもらった。
チャイントンは泰緬国境のタイ側の街メーサイから北に200km。ちょっと無理をすればタイ第二の都市チェンマイから自動車で10時間も運転すればたどりつける街なのであった。
件のタイから来た日本車はミャンマーのナンバープレートとタイのナンバープレートの両方をつけていた。
聞けば自動車だけではなく、この街ではタイ語も通じるし、買い物もミャンマーの通貨チャットはもちろんのことタイの通貨バーツで支払うことも可能なのだという。



気候もいいのでさらに高地にある英国植民地時代に建てられたレンガ造りの教会を訪れたり、郊外の温泉を訊ねたり、山の中にあるアカ族の村を訪れるトレッキングに参加したりした。
過ごしやすいとてもいいところなのであった、が、もしここへ行く前に沖田英明著「ミャンマーの侍山田長政」を読んでいたらきっと違った行動をしていたに違いない。

チャイントンには日本人の侍の子孫が暮らしているところがあるというのだ。
しかも彼らはタイのアユタヤで活躍した山田長政とその一派であるといい、お辞儀をするという日本人の習慣や建物の様式を伝え残しているだけにとどまらず、刀剣や槍なども大切に保管している家族もいるのだという。

これには正直驚いてしまった。
私はチャイントン周辺に住む少数民族の村を訪問し、彼らの生活に触れて異文化を感じていたのであったが、その少数民族の一つには鎖国で取り残された侍の子孫が残っているとは、地球の歩き方にも書いていない驚きの情報なのであった。
もし、この「ミャンマーの侍」を読んでいたら、私は日本人の血を引くというその民族の村を訪問し、私なりに色々訊ねたりしていたかもわからなず、旅のスタイルが一変していたに違いないのだ。

「ミャンマーの侍 山田長政」というタイトルからは、この一冊が旅のドキュメンタリーであることが分からない。しかし読み始めるとタイ、そしてミャンマーのあの暑い空気が全身を包み込み、一気に読み進んでいってしまう。
アップテンポな語り口と、その迫力、歴史ミステリーを兼ね備えている旅物語に満足することになるのだ。

ああ、今度はこの本を持ってまたチャイントンに行ってみたい。



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