tetujin's blog

映画の「ネタバレの場合があります。健康のため、読み過ぎにご注意ください。」

バガー・ヴァンスの伝説

2007-10-30 20:29:40 | cinema

久しぶりに、映画を観ていて心が熱くなった。数々のシーンで心が動かされた。どちらかといえば苦手なウィル・スミスとマット・デイモンの2人であるが、この映画で見せる2人の笑顔が深く心に染み入った日だった。

監督のロバート・レッドフォードが銀幕で活躍していたのは主に1970年代のことである。人生に目標を設定して「winner」「loser」を明確に区別し、個人の可能性を強く訴える最近の単純明快なハリウッド映画とは異なり、当時の映画は観客を突き放したようなやや難解な映画が多い。この映画も人生哲学の示唆に富んだゴルフの師匠が出てくるが、話すことは東洋哲学にも似た雲をつかむような教えである。あちこちのシーンに、どうにも東洋神秘主義の匂いがすると思ったら、IMDBの解説によると古代インドの難解な経典の『バガバッド・ギータ』が哲学のベースになっており、登場人物の"Bagger Vance" と"R. Junuh"はそれぞれ経典に登場するBhagavan (Krishna) and Arjunaから来ているらしい。
さて、映画は、人生のどん底にいた一人のゴルファーがみんなの希望を一身に受けて一流のプレーヤーと互角に戦っていくそんな再生の話だ。

時は1930年代。ニューヨーク株式市場(ウォール街)で株価が大暴落したことに端を発した世界大恐慌はアメリカジョージア州にも及んでいて、サヴァンナの町には失業者があふれていた。その不況下、ゴルフ場の経営を引き継いだアデール(シャーリズ・セロン)は、ゴルフ場を売り飛ばせと迫る債権者を尻目に、ゴルフコースの集客のため賞金1万ドルを賭けて一流ゴルファーであるウォルターへ-ゲン、球聖ボビージョーンズ招いてのエキジビションマッチを開催しようとする。アデールの軽妙な口車に乗って、弁護士などの学位を複数持つウォルターへ-ゲンボビージョーンズは生涯最後の試合として出場を決意し、女好きのボビージョーンズウォルターへ-ゲンは南部の田舎のすれていない女性が目当てで参加を表明。とここまでは、町おこしがテーマかなと思っていると・・・・・・。
サヴァンナの住民たちはエキジビションマッチに町の代表を出場させることを提案する。郷土の誇りを示せ、ついでに南北戦争の借りを返せ、という訳だ。そこで白羽の矢が立ったのは、サヴァンナ一のゴルフの腕前を持つジェナ(M・デイモン)。しかし彼は第一次世界対戦に出征し、この世の地獄を体験したために生きる気力を失っていた。彼曰く「自分のスイングを失った」。失意のどん底にいるジェナを信じて英雄の復活を祈る少年。このシーンに”世界一速いインディアン”を思い出し胸が熱くなる。
そこにバガー・ヴァンスと名乗る黒人(W・スミス)が現れ、ジュナを再びゴルフへと誘っていく・・・・・・のだが、バガー・ヴァンスのアドバイスというのがおよそゴルフとはかけ離れたことばかり。
”Yeah, I always felt a man's grip on his club...is just like a man's grip on his world.”
「スイングはグリップの位置が肝心です。人生がそうであるように」
とかなんとか。

3日間のエキジビションマッチには手に汗を握る。ゴルフの試合は人生そのものだ。自分のスイングを取り戻したジュナは、アデールとの関係も取り戻していくのだが・・・・・・。
1913年の全米オープンにおいて、無名のアマチュア・フランシス・ウィメットが時のスターで英国人のハリー・バードンとテッド・レイをプレーオフで破り、この優勝でそれまで英国の後塵を拝していた米国ゴルファーの活躍が始まった。この時のウィメット20歳、そしてそのキャディは10歳のエディ少年。そんなエピソードや、ボビー&へーゲンのライバル対決、1925年の全英オープンのあるホールでラフに入ったボールをアドレスした時にボールがほんの少し動いてしまったと一打罰の自己申告して優勝を逃してしまったボビーの実話など、アメリカンゴルフシーンがこの映画に盛り込まれている。そして、この伝説の球聖ボビー・ジョーンズは映画「グレイテスト・ゲーム」にもなっている。

自由の国アメリカでゴルフのことで教わることは、「ノーグリップ・ノーフォーム」。これは、全てが滅茶苦茶でいいと言っているのではない。グリップもフォームも固定された正解といえるものはないということ。大事なのは基本と、それにとらわれない自由な発想が必要なのだが、日本人ゴルファーは往々にして”映画の中のM・デイモンのフォームが”・・・・・・とやりがちだ。
ところで、一杯飲むごとに脳細胞が1000個ずつ死んでいくって話。思わず乾杯をあげたくなる。
ついでながら、『バガヴァッド・ギータ』(上村勝彦訳、岩波書店)は未読だが、サンスクリット語の原文を英訳したサイトを見つけた。時間を見つけて、一度じっくり読んでみようと思う。
http://www.bhagavad-gita.us/