日本では特に、2001年4月~2006年9月の5年間以上続いた小泉内閣の時代から非正規労働者増大政策をすすめた。いわゆる「新自由主義」と呼ばれる時代の始まりだった。これにより、日本における貧富の格差がより増大し続けることとなる。そんな日本で、2008年には、かってのプロレタリア文学の代表作の一つ、小林多喜二の『蟹工船』が書店に平積みにされ、映画『蟹工船—反撃』なども制作・上映された。日本における貧困の問題、経済格差がより深刻化し始めた2000年代。
そして、2021年の今、NHK大河ドラマで「青天を衝け」が放映されている。主人公の渋沢栄一は『論語と算盤(ソロバン)』という著書を著している。その著書の真骨頂は、「強欲な資本主義経済社会を否定し、みんなが富む社会をつくろう」ということだ。この著作、とてもこのことが分かりやすく、そして読みやすい。同じくNHKの番組「100分de名著」でも、この『論語と算盤』が取り上げられていた。貧困の問題、貧富の格差問題に対する、解決のための、あるべき資本主義社会へのメッセージ性を含む大河ドラマとなってきている。それほど、貧困・格差の問題の深刻さが更に増しているからでもある。
昨日11月7日(日)、NHK大河ドラマ「青天を衝け」では、料亭で、「われわれ二人で組んで、一緒に協力してこの日の元を支配しようではないか」ともちかける岩崎弥太郎(三菱グループの創業者)に対し「私とあなたでは、どんな世の中にするのかが根本的に違う」とその話を拒否する逸話が描かれていた。強欲資本主義の象徴としての岩崎弥太郎像が描かれているのだが、1877年(明治10年)のこの頃、西南戦争が勃発し、日本の国家予算の90%が戦費に費やされた。ドラマの冒頭は、岩崎が「戦争とは、なんとお金が動き こんなに儲かるものなのか…」と嬉しそうに一人つぶやくシーンから始まった。
2020年11月からこの2021年11月までの1年間は、2000年代に入ってからのこの20年間で最も「貧困問題・格差拡大の問題と資本主義の閉塞やカール・マルクスの資本論」に関する著作が大型書店に特集的に平積みとして並べ続けられた1年間であった。新型コロナウィルスの世界的パンデミックが、さらにこの「貧困・格差拡大問題」の深刻化に一気に拍車をかけたためでもあった。ざっと平積みされた書籍はさまざまあるが、いくつかの書籍名を記すと‥‥。
『この社会の歪みと希望—雨宮処凛×佐藤慶』―教育・差別・貧困・コロナを巡る対談、『武器としての"資本論"』―資本主義を内面化した人生から脱却する思考法—(臼井聡著)、『未来の分岐点』(マルクス・ガブリエル、マイケル・ハート、ポール・メイソン/斎藤幸平編)、『資本論』(カール・マルクス著)
『人新世の"資本論"』(斎藤幸平著)、『歴史の終わり』(フランシス・フクヤマ著)、『資本主義の終焉と歴史の危機』(水野和夫著)、『資本論の新しい読み方—21世紀のマルクス入門』(ミヒャエル・ハインリッヒ著/明石英人・斎藤幸平・佐々木隆治・隅田聡一郎らのコメント)―今、ドイツで最も読まれている資本論入門、『マルクス、その可能性の中心』(柄谷行人著)などの書籍。
特にこの1年間、『人新世の"資本論"』は、新書部門でベストセラー1位が長く続いた一冊だった。朝日新聞の広告でも一面を使って大きくとりあげられてもいた。著者の斎藤幸平氏は大阪市立大学准教授で34歳と若い人だ。この著書は、「マルクスの著書の到達点は、大地=地球を<コモン>として、持続可能に管理することだった」と述べ、これは脱成長コミュニズムでもあり、循環型社会こそ人類の目指すべき社会形態である」ことを指摘する著作だった。(※この斎藤氏の著書は、一つの重要点の参考にはなるが‥。)
『クソったれ資本主義が倒れたあとの世界』(ヤンス・バルファキス著)、『ジェネレーションレフト』( キア・ミルバーン 著)—なぜ?世界の若者たちは左傾化しているのか?、『世界を貧困に導くウォール街を超える悪魔—なぜ、こんなに不平等なのか』(ニコラス・シャクソン)—(※世界的大企業の台頭で加速する独占化、資産運用という名の、知られざる異様な構造、‥‥経済だけでなく政治をも支配する この呪われたシステムに解決策はあるのか?)、『実力も運のうち?—能力主義は正義か?』(マイケル・サンデル[ハーバート大学白熱教室を主宰])などの書籍も書店に並ぶ。
ハーバード大学のサンデル教授と日本の3人の大学生や社会人たちとの対談教室の内容を伝える新聞記事が、京都丸善書店の書店内に掲示されてもいた。
今年のノーベル経済学賞は米国の3氏に授与された。彼等の共同研究テーマは「最低賃金の影響の検証」。このテーマでの検証研究がノーベル経済学賞に選ばれたのは、資本主義化の世界での、富の極端なまでの不平等の問題の現実がやはり深刻だからだろうか。
『いまこそ社会主義』―混迷する世界を読み解く補助線/格差・貧困・マイナス成長、資本主義の限界を突破せよ(池上彰・的場昭弘)は、この資本主義の世界の経済や富の極端なまでの不均衡の原因を知るための、とても分かりやすい対談書。一般人が読んでの分かりやすさという点でも、かなり優れた書籍かと思う。
■―米国に代表されるリベラル資本主義VS中国における政治的資本主義、そして、今のこの二つを共に越えてこそ、人類の希望の未来が開ける―「民衆資本主義」へ、さらに「平等主義的資本主義」への革命的変革への道のり—ブランコ・ミラノビッチ
この11月6日の朝日新聞の書評欄に、東京大学教授の本田由紀氏の書評「資本主義の解剖—老いたメカニズムが なぜ存続」という見出し記事が掲載されていた。本田由紀氏(56)は社会学者(特に教育社会学が専門)、かなり優れた研究者の一人だ。この書評記事において、本田氏は、まずはじめに、「資本主義の限界についての指摘が数多くなされるようになってきた。それは当然だ。資本主義に伴う環境破壊も、格差と貧困も、すでに限界に達しつつあることは明らかだからだ。資本主義なきあとを模索することは重要だが、同時に、壊れながらも廻り続けている資本主義のメカニズムを解剖する営みがもっと必要とされるだろう。すでに多くの資本主義論が世に溢れている中から、今回は以下の3冊を取り上げる」として、次の三つの書籍について紹介している。
①『監視資本主義 人類の未来を賭けた闘い』( ショシャナ・ズボン著 )、②『資本主義だけが残った 世界を制するシステムの未来』(ブランコ・ミラノビッチ著)、③『勤勉革命 資本主義を生んだ17世紀の消費行動』(ヤン・ド・フリース著)。
特に私は、②の『資本主義だけが残った 世界を制するシステムの未来』[みすず書房刊]の内容紹介に注目した。以下、この書籍についての本田氏の文章は次のようだ。「資本主義が地球上の大半を覆っているとしても、そのあり方は一様ではない。『資本主義だけ残った』は、資本主義による世界の支配は二つの異なるタイプの資本主義によって達成された。その一つはアメリカに代表される"リベラル能力資本主義"であり、もう一つは中国に代表される"政治的資本主義"である。前者が"能力"という言葉を含むのは、"能力主義"と不可分だからである。後者は後進国が社会主義を跳躍版として実現したものであり、官僚による支配、法の縛りの欠如、国家による統制という三つの特徴をもつ。」
「前者は民主主義を標榜し、後者は国家主義を強力に打ち出す点で異質だが、グローバルな生産網と情報通信技術の広がりにより、両者は対抗しつつも関係を結ばざるを得ない。そして、重要なのは、いずれも深刻な腐敗[汚職など]と不平等を伴うということだ。これを克服し、"民衆資本主義"へ、さらには"平等主義的資本主義"へと移行していくためには、富裕層への増税、公教育への公的支出の増大、政治への資金提供の厳しい制限が必要であると著者は説く。」(※中国に代表される「政治的資本主義」という表現は、「政治的国家統制資本主義」と表現した方がより正しいのではないかと私は思う。)
■2020年~21年のアメリカ大統領選を巡って、米国民は次の4つの極となっていた。①共和党 トランプ支持派(アメリカンファースト)、②共和党反トランプ派(旧来の共和党支持者)、③ 民主党(旧来の民主党支持派[バイデン]、④民主党左傾派[サンダース候補支持]。
■—世界の富の82%は、1%の富裕層に集中している―世界を覆う資本主義社会の今
国際NGO「オックスファーム」は、スイス金融大手クレディ・スイスによる家計資産のデーターをもとに試算した報告書を発表した。(2018年1月22日) その報告書によると、「世界で1年間に生み出された富(保有資産の増加分)のうち82%を、世界で最も豊かな上位1%が独占し、経済的に恵まれない下から半分(39億人) は財産が増えなかった」とするものだった。そして、資産の偏重が格差拡大を招いているとして、世界の指導者に対策を呼びかけた。
また、「2016年7月~2017年6月までの1年間で、上位1%の資産総額は、株価の上昇などによって7625億ドル(約84兆円)増えた。これは、「絶対的貧困」の基準である1日1.9ドル未満(※月収57ドル=月収約5960円)で暮らす絶対的貧困をなくすのに必要な額の7倍以上にあたる」という。
さらに、「世界の下位半分の39億人分の資産総額は、世界の上位42人の資産総額(合計1兆4980億ドル=約168兆円)とほぼ同じだった。これは、同じ基準で前年の再計算をすると上位61人の分と同じになることから、前年より格差が拡大している」という。「オックスファーム」は、スイス・ダボスで2018年1月23日から始まった「世界経済フォーラム年次総会」を前に、世界の指導者にタックスヘイブン(租税回避地)への対策や富裕層への課税強化などの取り組みを求めた。
この報告は2018年の「世界の富のあまりにも大きい」不均衡・格差を示したものだが、2020年~2021年の今はさらに富の著しい格差は増大しているかと思われる。世界の人口は現在78億人、そして、世界人口の1%にあたる7800万人(家族含む)が世界の富の82%を占めているということとなる。そして、世界の富裕層上位41人とその家族が、世界人口の下位半分39億人分と同額の資産を独占していることとなる。
■現代の世界は、そして、これからしばらくの世界の情勢は、米国型の「リベラル能力資本主義」と中国型の「政治的国家統制資本主義」の二つが競い合う世界。いわゆる世界的なライバルとして。どちらの政治体制が優れているのか単純には語ることは難しいところもある。米国型は、「人権、言論の自由」などをそれなりに尊重する。いわゆる民主主義社会。一方の中国型は、言論のや人権などを厳しく統制する社会。いわゆる一党独裁社会だ。
だが、「貧富の格差是正」に関しては、この8月に習近平中国国家主席が内外に発表したように、今世紀半ばまでに「共同富裕」社会を実現できるように、「社会主義の原点に立ち返る」として、富裕層や企業などへの税制改革などを示している。強力な国家主導で、「共同富裕」を志向していくだろう。それに対し、アメリカ型(日本も)は、「共同富裕」への志向がほとんど見えてこない。世界的なライバル関係にある二つの資本主義の形態なのだが、今後の世界は、この二つの資本主義タイプを乗り越えて、ブランコ・ミラノビッチ氏が語るところの「民衆主義的資本主義」、さらには「平等主義的資本主義」(※これは「民主社会主義」とも表現できないことはないのだが?)へと歴史的変革を行わない限り、人類の未来はさらにブラックボックスに入ってしまうだろう。
2050年の21世紀半ばまで、あと30年間あまりだが、中国はこれからの30年間、「共同富裕」社会を志向し取り組みながらも、この「人権・民主主義・言論・法」の課題とどう向き合い変化していくのか、また、アメリカやヨーロッパ諸国や日本などの資本主義先進諸国は、いかにこの共同富裕に向けて、富裕層や大企業への税的規制強化などへの切り替えを行っていくのか? 世界が進むべき方向性は見え始めたところだが、その実現にはやはり長い年月がまだかかりそうだが‥‥。(※私は、中国政府の「共同富裕」社会に向けての、最近の「超巨大IT企業・芸能界・教育界・不動産超巨大企業・富裕層」などへの一連の規制強化政策は、評価すべきところは評価する必要はあると考える。)
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