前回から8か月ちかく間が空いてしまいましたが久しぶりに「鉄道ミステリとNゲージ」のネタで行こうかと思います。

今回取り上げるのは以前「急行さんべ」を紹介した天城一の一作「寝台急行月光」をば。
昭和30年代、寝台急行だった「月光」の車内で起きた殺人事件。当初は単なる物取りと思われた事件はベトナム情勢絡みの利権が絡む謀殺の様相を呈する。
だが容疑者として挙げられた男は鉄道利用のアリバイを主張。その道のプロ、高度に熟達した犯罪者ゆえのぎりぎりを見切ったアリバイ工作ゆえに捜査陣は手も足も出ない。
そこで捜査本部の島崎警部が取った非常手段とは。
と言うのが大雑把なあらすじです。
これ自体は普通の本格推理物なのですが冒頭の描写が古くからの鉄道マニアの作者ならではで、思わずにやりとさせられます。
その本作のプロローグを引用しますと
菅野六助をだれも本名で呼ばない。ダンロクで通じる。ダンロクのダンは旦那のダンだ。大柄色白のふっくらとした顔、どこから見ても大店の旦那だ(中略)
ダンロクの職業は箱師だ。鉄道がダンロクの職場だ。箱と愛称する客車がダンロクの舞台だ。旅客が顧客という所は鉄道屋と変わりはない。ダンロクは自分も鉄道屋の一人だと思っている。
箱師のいない鉄道なんて、ワサビのぬけた刺身も同じだ。一流の列車には、一流の箱師が乗り合わせてこそ、一流なのだ。
(徳間文庫版「殺しのダイヤグラム」所収「寝台急行月光」241Pより引用)
ここでいう「箱師」というのは鉄道専門の掏摸(すり)の事を指します。
以前紹介した映画「大いなる驀進」と言う東映映画では花沢徳衛氏扮する箱師が夜行特急のさくらで大活躍(笑)する件があったのですが、彼が扮する上客専門と思われる一流の掏摸の人を食った態度、何となく本作のダンロク氏に通じるものがあります。
六時五十五分、寝台急行「月光」が入って来る。定時だ。数人の客がまばらに降りる。ボーイが寝台を畳みだすのは七時からなので、まだ束の間は列車も静かだ。
ダンロクは「月光」を見送るつもりだった。なのに、どうしたわけか乗ってしまう。箱師の本能だろうか。
最後部から二両目、1号車の前のデッキから、だれか降りたのか、ドアが開いていたのだ。ダンロクは誘い込まれる。
マロネ40型の一等寝台だ。ダンロクはこの型の車は好かない。戦後、米軍の指示によって製作した旧一等車だ。スタイルが古臭いのはがまんできるとしても、片デッキと言う代物は箱師向きではない。
ことに一等車の場合、うっかり入れば袋のねずみだ。逃げ場がない。
ふだんのダンロクならば敬遠するところだ。
(同書、241-242Pより引用)
この冒頭からお分かり頂けるように本作の舞台、殺人現場は「マロネ40型寝台車」の個室です。
後の車内の描写も当時の雰囲気がよく伝わってくるもので読んでいて実際に乗った様な気分になれます。
この辺りは凡百なトラベルミステリ作家には出せない、鉄道マニアの作者の本領を見る思いがします。
原作ではご丁寧にもマロネ40の平面図まで掲載され、ファンには興をそそられます。車両の半分が通常の寝台、半分が個室寝台という特有の構造は見ているだけでワクワクしてきます。もちろん私も楽しませてもらった一人なのですが、当時は「随分とトイレの広い客車だな」と言う印象が案外強かったりします(笑)
ここまで読んで頂けるとお分かりのように私が本作で一番インパクトを感じたのがこの冒頭部分でした。
特にマロネ40の描写は何度読み返しても陶然としてしまいます(爆笑)
そんな訳で鉄道ミステリネタをブログで上げようと思った時に本作は最も取り上げたいひとつでした。
ところが肝心のマロネ40のNゲージモデルというのが、マイクロエースのセット品の1両だったりとかブラスのキットだったりとやたらと敷居が高い物ばっかりで往生する事夥しい。
まさかブログのネタにするだけの為に奥で実売5000円もするモデルを購入できるほど私はお大尽ではありませんし(涙)
これではこの作品を取り上げるのは無理かと思っていたのですが、幸いな事に先日オープンした鉄道カフェのオリジナルペーパーキットにマロネ40がラインナップされました。
そういう訳でようやく本作を取り上げる事が出来たという次第です。
キットのインプレッションは次の機会にでもと思いますが、現時点でNゲージのマロネ40を最も手軽に入手できるのはこのペーパーキットです。
しかし思うのですが、マロネ40なんてNゲージで製品化される事自体が相当に困難だと思っていたのですが、プラの完成品、ブラスのキット、ペーパーキットと価格も素材も異なる3種の中から選べる(但し、お金があれば…ですが)のですからやっぱりすごい時代になったものです。

今回取り上げるのは以前「急行さんべ」を紹介した天城一の一作「寝台急行月光」をば。
昭和30年代、寝台急行だった「月光」の車内で起きた殺人事件。当初は単なる物取りと思われた事件はベトナム情勢絡みの利権が絡む謀殺の様相を呈する。
だが容疑者として挙げられた男は鉄道利用のアリバイを主張。その道のプロ、高度に熟達した犯罪者ゆえのぎりぎりを見切ったアリバイ工作ゆえに捜査陣は手も足も出ない。
そこで捜査本部の島崎警部が取った非常手段とは。
と言うのが大雑把なあらすじです。
これ自体は普通の本格推理物なのですが冒頭の描写が古くからの鉄道マニアの作者ならではで、思わずにやりとさせられます。
その本作のプロローグを引用しますと
菅野六助をだれも本名で呼ばない。ダンロクで通じる。ダンロクのダンは旦那のダンだ。大柄色白のふっくらとした顔、どこから見ても大店の旦那だ(中略)
ダンロクの職業は箱師だ。鉄道がダンロクの職場だ。箱と愛称する客車がダンロクの舞台だ。旅客が顧客という所は鉄道屋と変わりはない。ダンロクは自分も鉄道屋の一人だと思っている。
箱師のいない鉄道なんて、ワサビのぬけた刺身も同じだ。一流の列車には、一流の箱師が乗り合わせてこそ、一流なのだ。
(徳間文庫版「殺しのダイヤグラム」所収「寝台急行月光」241Pより引用)
ここでいう「箱師」というのは鉄道専門の掏摸(すり)の事を指します。
以前紹介した映画「大いなる驀進」と言う東映映画では花沢徳衛氏扮する箱師が夜行特急のさくらで大活躍(笑)する件があったのですが、彼が扮する上客専門と思われる一流の掏摸の人を食った態度、何となく本作のダンロク氏に通じるものがあります。
六時五十五分、寝台急行「月光」が入って来る。定時だ。数人の客がまばらに降りる。ボーイが寝台を畳みだすのは七時からなので、まだ束の間は列車も静かだ。
ダンロクは「月光」を見送るつもりだった。なのに、どうしたわけか乗ってしまう。箱師の本能だろうか。
最後部から二両目、1号車の前のデッキから、だれか降りたのか、ドアが開いていたのだ。ダンロクは誘い込まれる。
マロネ40型の一等寝台だ。ダンロクはこの型の車は好かない。戦後、米軍の指示によって製作した旧一等車だ。スタイルが古臭いのはがまんできるとしても、片デッキと言う代物は箱師向きではない。
ことに一等車の場合、うっかり入れば袋のねずみだ。逃げ場がない。
ふだんのダンロクならば敬遠するところだ。
(同書、241-242Pより引用)
この冒頭からお分かり頂けるように本作の舞台、殺人現場は「マロネ40型寝台車」の個室です。
後の車内の描写も当時の雰囲気がよく伝わってくるもので読んでいて実際に乗った様な気分になれます。
この辺りは凡百なトラベルミステリ作家には出せない、鉄道マニアの作者の本領を見る思いがします。
原作ではご丁寧にもマロネ40の平面図まで掲載され、ファンには興をそそられます。車両の半分が通常の寝台、半分が個室寝台という特有の構造は見ているだけでワクワクしてきます。もちろん私も楽しませてもらった一人なのですが、当時は「随分とトイレの広い客車だな」と言う印象が案外強かったりします(笑)
ここまで読んで頂けるとお分かりのように私が本作で一番インパクトを感じたのがこの冒頭部分でした。
特にマロネ40の描写は何度読み返しても陶然としてしまいます(爆笑)
そんな訳で鉄道ミステリネタをブログで上げようと思った時に本作は最も取り上げたいひとつでした。
ところが肝心のマロネ40のNゲージモデルというのが、マイクロエースのセット品の1両だったりとかブラスのキットだったりとやたらと敷居が高い物ばっかりで往生する事夥しい。
まさかブログのネタにするだけの為に奥で実売5000円もするモデルを購入できるほど私はお大尽ではありませんし(涙)
これではこの作品を取り上げるのは無理かと思っていたのですが、幸いな事に先日オープンした鉄道カフェのオリジナルペーパーキットにマロネ40がラインナップされました。
そういう訳でようやく本作を取り上げる事が出来たという次第です。
キットのインプレッションは次の機会にでもと思いますが、現時点でNゲージのマロネ40を最も手軽に入手できるのはこのペーパーキットです。
しかし思うのですが、マロネ40なんてNゲージで製品化される事自体が相当に困難だと思っていたのですが、プラの完成品、ブラスのキット、ペーパーキットと価格も素材も異なる3種の中から選べる(但し、お金があれば…ですが)のですからやっぱりすごい時代になったものです。