光山鉄道管理局・アーカイブス

鉄道模型・レイアウトについて工作・増備・思うことなどをば。
こちらはメインブログのアーカイブとなります。

「鉄道ミステリ傑作選 昭和国鉄編」

2024-08-10 05:06:05 | 小説
 以前からこのブログでも「鉄道ミステリとNゲージ(或いはテツドウモケイ)」という題材で主に短編や中編を中心にした鉄道ミステリを取り上げていますが、それらの元ネタはかつて鮎川哲也が監修した何冊かの鉄道アンソロジーからとっているのが大半を占めます。

 その後も有栖川有栖や日本ペンクラブなどが同様の趣向のアンソロジーを出しているのですが、ごく最近、鉄道ネタのアンソロジーがまた出ていたのを知りました。

 双葉文庫で2020年頃に出された「鉄道ミステリ傑作選 昭和国鉄編」(佳多山 大地 編)の一群(現段階で3冊)です。
 寡聞にしてこのシリーズが出ていたのを知らなかったので、存在を知った時には新刊本の書店(とはいえ、前にも書いた様に現住地では大型書店自体が絶滅寸前なのですが)では見つける事が出来ず、つい先日近所の古本屋でようやく一部を手にすることが出来た次第です。

 とはいうものの、実は今回のシリーズで取り上げられている作品は上記の先行アンソロジーで取り上げられた作品との重複が多く、先行本をすでに手にしている読者(例えばわたしw)にはやや新鮮味が薄い物ではありました(なかには鉄ミス以外のアンソロジーですでに読んでいた物もありましたし)
 ですが、これまでこの種のアンソロジーを持っていない読者の方、あるいは鉄道ミステリの魅力に興味のある読者の方であれば「どれを読んでもハズレがない」という点で大いにお勧めできるシリーズと思います。
 何より(わたしの現住地になかったけれど)今鉄道アンソロジーの中で最も簡単に見つける事のできるシリーズは恐らくこれだけでしょうし。

 とりあえずラインナップを紹介すると
 第一弾「線路上の殺意」では
  「早春に死す」(鮎川哲也)
  「あずさ3号殺人事件」(西村京太郎)
 ※☆「特急夕月」(夏木静子)
  ☆「新幹線ジャック」(山村美紗)

 第二弾「悲劇への特急券」は
 ※☆「探偵小説」(横溝正史)
  ☆「鉄道公安官」(島田一男)
  ☆「不運な乗客たち」(井沢元彦)
  「ある騎士の物語」(島田荘司)

 第三弾「殺人者を乗せて」が
  ☆「雷鳥9号殺人事件」(西村京太郎)
  「隆起海岸の巻・石油コンビナートの巻」(種村直樹)
 ※☆「準急皆生」(天城一)
 ※☆「浜名湖東方15キロの地点」(森村誠一)

 (※マークの作品は以前当ブログで取り上げた事のある作品、☆マークのは上記の先行アンソロジーにも取り上げられていた作品です)
 わたしなんかは収録作の重複を承知で購入しましたが、前に読んだ作品でも読み返しに耐える味わい深い作ばかりだったので十分堪能できました。

 編者の佳多山 大地氏は「トラベルミステリー聖地巡礼」という紀行を上梓したことがあるそうでその縁で今回のシリーズを編んだそうですが、ミステリ評論家らしく作品選択が巧みで、更に巻末の解説が鉄道ファンらしさを感じさせるところが従来のアンソロジーにない味を出しています。
(横溝正史の「探偵小説」に絡む舞台の考察なんかはわたし的にツボにはまりました。もしこの仮説の通りだったら今度行ってみたくなりますw)

 あとで書くつもりで居たのですが、鉄道ミステリが絶滅危惧種となりつつある昨今、改めて鉄道ミステリの魅力を掘り起こし紹介するという意味でも今回のアンソロジーの存在は心強いものがあります。

鉄道ミステリとテツドウモケイ・その39「恐風」と京王電車(?)

2024-04-03 05:40:31 | 小説
 先日「森林鉄道みやま号」を久しぶりにアップした「鉄道ミステリと鉄道模型」ネタ。

 この機会にと他の作品も久しぶりに読み返してみたら、このブログで書けそうなネタをいくつか再発掘できたので、久しぶりに再開してみようかと思います。

 今回取り上げるのは徳間書店版「殺しのダイヤグラム」所収の島田一男作「恐風」

 舞台は郊外電車KK線の中間駅S。
 ある夏の日の夕方手荷物扱い所のトランクから女性の全裸死体が発見された。
 たまたま現場に居合わせたS通信支局の新聞記者江上は、本社北崎部長の指揮の下、急遽召集されてきた記者たちと共に行きがかり上、事件の探索と取材に乗り出す事になる。

 死体を詰めたトランクは熱海から発送されたものだったが被害者が持っていたトランクとは異なる物だった事が判明。どこかで死体の詰め替えが行われた可能性が濃厚となったが熱海からSの間で少なくとも7回のチャンスがある事が示唆され、それらの探索に記者たちも捜査陣も振り回される。
 更に被害者の女性は代議士夫人の高利貸で性生活も奔放だったため容疑者の絞り込みもなかなか進まない・・・

 大雑把に書くとこういう流れのはなしです。
 本作は島田一男お得意の事件記者シリーズの初期に当たる作品ですが、作者自身が新聞記者出身だったこともあり取材関係の描写が生き生きしているのが特徴です。

 内容的にはダイヤグラムを駆使した列車の乗り継ぎに伴う死体の詰め替えが主眼に置かれた、今となっては古典的な鉄道ミステリなのですが、記者や警察はもとより容疑者や聞き込み先の女中やタクシー運転手に至るまで人物描写が生き生きしているので短編としては比較的長い作品にも拘らず最後までぐいぐい引き込んでゆく力があります。

(実は本作に限っては今回の鉄道ミステリを手にする以前に「事件記者シリーズ短編集」の一編として読んでいた作品でもありました)

 さて、作中に登場するKK線は新宿を起点に東京西部を走る私鉄という想定。おそらくモデルは京王線、あるいは小田急線ではないかと思われます。
 
 本作でもうひとつ印象に残っているのが北崎部長の「番線指揮所」という設定。

 部長自ら種取りに出動した場合には、よく連絡場所を国電のホームにもって行く。一番人目につかなくってもっとも機動力を発揮できるのは国電のホームである。
 ーよーし、じゃ俺は某某駅の何番線ホームにいるぞ・・・。
 北崎がこういう時は事件はいつも追い込みに入っていた。―編集ではこれを北崎の番線指揮と言っている。
 その北崎が、今日は新宿駅11番線におみこしを据えているのだ

(徳間書店刊「殺しのダイヤグラム」83Pより引用)
 携帯どころか普通の電話すら個人レベルで普及していないあの時代、新聞の取材班がターミナル駅のホームをハブとして使うのはありそうな事ですし、実際もこういう事が行われていたのだろうと思います。見るからに活気のありそうな場面でもあるので都会風のレイアウトなんかでホーム上に番線指揮所のミニシーンを入れてみたくなります。
 さて、作中での11番線はKK線のホームという事になっていますが、当時の新宿駅では国鉄のホームの隣に京王、小田急のホームも並ぶ配置だったそうなので今よりも見晴らしは良さそうです。

 本作が書かれたのは昭和26年の事ですが、Nゲージでそれに該当しそうな京王、小田急の車両というのは意外と少ない様です。

 京王なら鉄コレでリリースされたデハ2404くらい、小田急でも1800形程度〈1700が登場したのがこの年ですが、本作では優等列車の描写はありません)でしょうか。

 作中で登場人物の駅員が死体を運んできた電車について「あの車両には最後部に荷物室が付いている」と発言しているのですが、該当しそうなのは京王の旧玉南仕様のデハ2000(一般に知られているデハ2000系の前に存在した初代機種)の様です。流石に旧2000系はNゲージでも出ていない様なのでデハ2410で代用していますがw
 (実車は木造車体のダブルルーフでサイズ以外の共通点は殆どありません)

 まあ、架空の私鉄だから・・・と割り切っても差し支えはないですが(大汗)

鉄道ミステリと鉄道模型のはなし38「森林鉄道みやま号」

2024-03-06 05:55:19 | 小説
 前回からだいぶ経っていますが今回は「鉄道ミステリと鉄道模型」のはなしから。

 今回はカッパノベルズの鉄道ミステリー傑作選の一編「見えない機関車」所収の井口泰子作「森林鉄道みやま号」をば。

 当時(昭和47年)廃止直前だった木曽森林鉄道を舞台にした短編。あの当時でも実在の軽便鉄道を題材にしたミステリは殆どなかったと思われますし、鉄道模型の世界でもナローブームが起きるのはこれより後ですから、ネタとしては斬新だったのではないかと思われます。

 三浦湖に向かう一日一便の森林鉄道旅客列車を舞台にそこに乗り合わせた観光客風のOLグループや謎の老紳士とその秘書、後から乗り込んできたSBCのTVクルーの人間模様を、一人旅風情の主人公のOL・津田英子が俯瞰してゆく内容です。

 本作の読みどころは何といっても森林鉄道の描写の楽しさ、車窓風景は勿論ですが如何にも廃止直前の軽便と言った風情の駅周辺の描写、或いは途中の路盤脆弱区間を列車を降りておっかなびっくり歩く様などが実に生き生きとしていて、下手な専門誌の紀行文よりも良いのではないかと思えるほどです。

 さて、ここまでのはなしで「あれっ?これは鉄道ミステリなんだよな??」と思った方も多いのではないでしょうか。

 実は本作では鉄道ミステリの定番である殺人事件も盗難事件も一切登場しません。
 津田英子がSBCのクルーに「連合赤軍事件に関連した死体の身元確認」という目的を告げ、クルーと共に探索に当たる描写、その中を縫って老紳士と秘書の謎の行動の絡みがあるのですが、実はこれすらもが一種のフェイクですし(ネタバレにはならない・・・ですよね)
 
 それでいて、普通なら読み流してしまうような人物描写や森林鉄道の沿革の説明の中に伏線が貼られており、ラストで津田英子の正体(これが探偵でも警官でもない)に呼応して真相が明らかになるという文法が本作のミステリたる所以なのでしょう。
 ラスト最後の一行を初読した時の「やられた」感はまさにミステリ的ですw

 他のミステリに比べて刺激に乏しい内容ですが、一種の紀行文としても読ませる内容でわたし的には良い読後感の一編として記憶されます。

 (写真のモデルは手持ちの車両からそれらしいのを並べただけですので実際の木曽森林鉄道とは関係ありません)

 実は本作はこのコーナーを始めた時から一度取り上げたかった題材なのですが、何といっても手持ちのモデルに木曽森林鉄道の車両がなかった為にこれまで書けなかったものです。
 つまり、今になってこのネタを出したという事は・・・

 つまり、そういう事です。
 つぼみ堂のボールドウィンは個人的に欲しかったモデルで、もしこれが手に入ったら本作のはなしを書こうと思っておりました(不純だな)
 実際に実現するまで8年待ちましたが(笑)

 本作に登場するのはDLの編成ですが、今ではこういうのが赤沢森林鉄道で保存運転がなされているのだそうです。

 その意味では本作で書かれていた事の一部が実現しているとはいえるかもしれません(どういう事なのかは「ぜひ本作をご一読してください」としか言えませんが汗)

東京ジオラマファクトリーのマンションを作る・その1

2023-01-31 05:31:55 | 小説
 今年最初の工作は昨年に引き続きストラクチャーからスタートしました。
 昨年はタワーマンションでしたが、今回はもっと小ぶりの建物です。

 物は昨年暮れに自分への誕生プレゼント(爆笑)として買っていた東京ジオラマファクトリーの「マンションC」
 従来ストラクチャーとして製品化されているマンションは、縦に長い高層系のものが殆どでしたが、今回TDFからリリースされたのはサイズ的には手頃な「横に長いマンション」です。
 こういう形状のマンションは昭和40年代から平成の初めにかけて主に地方都市の郊外でよく見かけたもので、住宅街のアクセントとしてもなかなか似合う、洒落た外見のものです。

 うちの先日移設を終えたレイアウト(上段)では空きスペースに大きな丘陵を追加する予定なのですが、そこに配置するにはぴったりの形状に思えた(例の「東横イン効果」と同じノリを狙っています)ので購入した次第です。

 さて、東京ジオラマファクトリーというメーカー、以前からわたしのブログにちょくちょく広告が登場する様になった事から注目していたメーカーなのですが、キットを実際に製作するのは今回が初めてです。

 個々のラインナップはみにちゅあーとやアニテクチャーよりも近代的でサイズの大きな建物が多く、特に雑居ビルやアパート系に心惹かれるものが多い印象がありますが、このマンションもその例にもれません。

 サイズ的にはTOMIXのマンションよりやや小さくアパートよりは大きいという絶妙なもので、後からレイアウトに組み込みやすいサイズでもあると思います。

 完成図を見ると一階をガレージに、2〜5階が居住フロアに使うタイプですが、1階部分の弄り様によってはホテルやユースホステル(こういうのも故郷の市街地ではそれなりに見かけたものです)への応用も容易でしょう。

 実際の製作工程については次回以降に。

鉄道ミステリとNゲージ番外編「少女七竈と七人の可愛そうな大人」

2021-11-02 05:06:00 | 小説
 前回に引き続き「鉄道ミステリとNゲージ」の番外編
 なお、今回のはミステリですらありません。

 今回取り上げるのは現在角川文庫(あるいは電子書籍)で買える桜庭一樹作「少女七竈と七人の可愛そうな大人」

 いんらんな母から生まれ「大変遺憾ながら美しく生まれてしまった」と自他ともに認め、その美しさ故に常に孤高の存在を運命付けられた17歳の少女、川村七竈が本作の主人公。
 それゆえに自らの美しさを呪い、異性を呪う彼女の友は幼馴染の美少年雪風と自宅の部屋いっぱいに線路を引き廻した鉄道模型のみ。
 旭川を舞台に、そんな七竈と彼女を取り巻き、或いは通りすぎてゆく「大人たち」の群像を連作風に描いてゆく一編です。

 作中、ストーリーの要所要所でレイアウトで列車を走らせ、車両を愛でる七竈と雪風の描写が時に七竈をめぐる周りの「可哀想な大人たち」の騒ぎを断ち切る静謐として、或いは成長と変化を拒否し続ける事を望む七竈の内面の象徴として描かれています。

 まあ、本作に限っていえば鉄道や鉄道模型に考証的なツッコミを入れるのは無粋極まりないと感じるのですが、当ブログの性質上そう言うわけにもいきません(汗)

 七竈の自宅(祖父とシェパードの三人暮らし)のレイアウトは作品初期には「規模が6M×5M、本線8系統、400両収容可能なヤードを装備。地下線、複々線、高架線を擁する、すばらしき川村七竈の鉄道模型(ワールド)」として登場し、後半では本線13系統まで拡張されていますが、個人の家でこれくらいのスペースというと最低でも8畳ふた間ぶち抜きくらい。或いは元料亭の大座敷を潰すくらいのサイズということになりますか。

 このスペースで8列車同時運転でもやろうものなら1人2人では全列車の補足は極めて困難。ポイント操作まで入れると運転に精一杯で列車を愛でる余裕は少ない気がします(最も、裏技はいくらでもありますが)
 作中、ストラクチャーや人形を買う描写があるところから最低限のシーナリィはある様ですが、基本巨大お座敷運転と見て間違い無いでしょう(でも地下線は?)


 そこを走る列車類のネーミングは本作特有。
 キハ8兆M、ホキ2億形、キハ500億M、81カシオペアα、など実車をモチーフにしてはいるものの限りなくオリジナルに近いネーミングの編成や車両が登場します。
 (前からキハ82系、ホキ2200、キハ58、カシオペアがモデルかと)
 上記の設定と模型店での価格描写から見てNゲージなのは間違い無いでしょう。

 幼少時の七竈はディーゼル機関車を抱いて寝るほどの鉄道模型好きで模型で顔に傷をつけてしまった過去まで持っているそうですが、Nゲージを抱いて眠るのは相当に無理がありますからそっちはHO以上、おそらくブラスモデルと思われますw

 鉄道模型のでてくる小説としては異色作と思いますしそもそも事件なんか登場しないのですが、鉄道模型をモチーフに使った普通の小説は探せばもっと出てくるかもしれません。


鉄道ミステリとNゲージ・番外編「まもなく電車が出現します」とオハ50

2021-09-19 05:20:29 | 小説
 手持ちの本がネタ切れでそろそろ打ち止めかなと思っていた「鉄道ミステリとNゲージ」

 そんなタイミングでネタが補充できたのは不思議ですw
 ただし今回は番外編的な位置付けになりますが。

 これまで紹介してきたミステリは基本的に実車の鉄道を舞台にしたものばかりでしたが、このところ漫画のジャンルで「鉄道模型が題材の作品」がいくつかヒットできていますから小説のジャンルにもそういうのが無いかとチェックしていました。
 今回はそうしてヒットした一作から

 似鳥 鶏作「まもなく電車が出現します」(創元推理文庫)

 本作はいわゆる「学園ミステリ」のジャンルに属する連作の一つ。

 舞台はとある私立高校。
 文化部の入っていた部室棟の校舎が閉鎖され、そこからあぶれた文化部や研究会が校内の使える空き部屋の争奪戦を始めていた。
 中でも美術室の隣室となっていた空き部屋を巡って鉄道研究会と映像研究会の部員たちが対立し、美術部員たちも辟易していた。
 だがその部屋は美術部の物置で窓を通して室内が見えるものの以前から鍵が紛失しており、更に入り口には内側に大きな石像が置かれ誰も入れない開かずの間だった。

 だがある日、問題の部屋の中に突然1メートル四方のレイアウトが忽然と置かれているのが発見される。もちろん鍵は掛かったままの密室状態。
 一体誰がどうやってレイアウトを密室に入れたのか?そもそもその目的は?
 美術部員の主人公はいきがかり上、受験勉強中なのに好奇心の強いホームズ役の先輩をも巻き込んで謎の探索を始めるのだが・・・

 というのが大まかなストーリーです。
 ミステリとはいえ殺人はもとより盗難事件すら起きない一作ですが、それだけに深刻ぶらずにさらりと読めるストーリーでした。

 さて、持ち込まれていたレイアウトですが設定上はHOゲージ(16番)
 そのレイアウト上には何故か「駅や緑の山々の中にオハ50が1両だけ鎮座している」という異様さ。実はこれが犯人特定のヒントの一つになっています(根拠のリアリティに多少無理はありますが)

 オハ50は言うまでもなく、1980年代以降旧客の淘汰を目的に登場した近代型近郊客車です。私の故郷ではスハ43系や10系を始めとする青い客車たちを廃車に追いやった悪しき存在として記憶される客車でした。
 とはいえ、乗る側からすればドアは自動だし室内は明るいし扇風機は付いているしで乗車環境は劇的に改善していたのですがw

 さて、それはそれとして、
 本編に出てくるのは1メートル四方のHOレイアウトという設定ですが、以前も書いたようにこれは自己完結した運転ができるHOレイアウトとしては最小に近いサイズです。

 オハ50(というかそれを牽引する機関車)の走れるトラックプランは実質真円のエンドレス、側線なしという事になりますか。
 仮にNゲージとしても20M級3両くらいまでが上限といったところでしょう。

 かと言ってこれがパイクやセクションとすると逆に奥行きがあり過ぎてリアリティに欠けます。
 これらの点から推察するに作者は鉄道模型にそれほど詳しくないと思われます。

 因みに本作の感想の中に「大きなジオラマを1人でこっそり運び込めるか?」と言うのがありましたが、運転会でこれに近い大きさのモジュールを持ち運びした経験から言えばこれくらいの大きさならシーナリィとレールの固定さえしっかりしていれば十分可能と思います。

 本作のトリックの主眼は実は密室への侵入方法よりも密室の構築方法にあるのでレイアウト自体は付け足しに近いのですが、鉄道模型のレイアウトをミステリの題材にした短編はまだ少ないと思うのでその意味では貴重な一編と思います。

「JRの特急列車・Ⅲ 九州 四国」

2021-08-25 05:05:33 | 小説
 今回は久しぶりのカラーブックスネタです。

 久しぶりに鉄道ネタの古本カラーブックスを購入してきました。

 「JRの特急列車Ⅲ 九州・四国」(諸河 久、松本典久共著)

 本書は平成初めころの時点でのJR九州、四国の特急列車を俯瞰したJRの特急シリーズのひとつです。
わたし自身は平成14年頃まで鉄道模型趣味を中断していましたし、カラーブックスの新刊は昭和60年代初め頃には買わなくなっていましたから当然「JR化以降の鉄道ネタカラーブックス」には縁がありませんでした。

 その「エアポケット時代」に出ていたカラーブックスなので店頭で見つけた時には少なからず興味を覚えたものです。

 平成3年初版の本書ではJR九州では「ゆふいんの森」「ハイパー有明」が話題を拾い始めた時期、後の三戸岡デザインが本格化してJR屈指の個性的な車両群が軒を並べる直前のタイミングに当たります。
 四国は四国で2000系「しおかぜ」やキハ185系が活躍し始めた時期でした。

 時期的にも旧国鉄時代の車両がJR風にメイクアップされ始めた時期でもあり「真っ赤な電気釜のみどり」四国では「青いラインのキハ181系」などが話題を集めていました。
 が、今にして思えばこうした「JR風味の国鉄特急車」はまさに時代に仇花みたいなものだったという気がします。

 そんな中に混じってボンネットの485系が旧国鉄塗装のまま走っている写真を見ると妙にほっとさせられたりもします。

 さて、本書では九州・四国の特急車だけで一冊纏めるのは難しかったと見えて、後半が「特急牽引機関車」の特集になっています。
 最初何の気なしにパラパラめくっていたらいきなり「ED79」や「EF64」「DD51」がどんと出てきて一瞬面くらいました。なぜってどれもが九州や四国の特急に縁のない(或いは薄い)機関車ばかりだったからです。

 このコーナーは出版当時に客車特急を牽引していた現役機関車の名鑑。なので「JR全体」を機関車の面から俯瞰した内容になっています。
 まあ、これはこれで嬉しかったのですがこの部分だけで全体の3分の1くらいのボリュームがありますし「一冊まるごとJR九州、四国の本」を期待してレジに持って行った人の中には肩透かし感もあったのではないでしょうか。

 巻末には「この5年間(JR発足からの期間)のJR特急の変遷」というJR全般を考察したページもあり、本書はどうやら「JRの特急列車Ⅰ‣Ⅱ」とセットで読まれることを念頭に置いたシリーズだった様です。
 さて、そうなると1・Ⅱもいつかは買わなければならない気になってきました(汗)

鉄道ミステリとNゲージ37 「準急皆生」とキハ26

2021-07-24 05:17:43 | 小説
 鉄道ミステリとNゲージネタから
 今回は光文社文庫版日本ペンクラブ編「殺意を運ぶ列車」に所収の天城一作「準急皆生」を取り上げようと思います。

 天城氏の作品はこれまで「急行さんべ」と「寝台急行月光」のニ作を取り上げていますが、いずれも時刻表を駆使したトリックが出色です。
 今回の「皆生」は作者にとっても自信作だったそうで、実際読後感もなかなか充実しています。

 江迎登志子殺しなんか似た様なものさ。はじめに犯罪計画の誤算がある。次に警察の捜査がいささかイージーゴーイングで、一人の刑事に引きずられた形で容疑者を逮捕してしまう。弁護士がこの穴を察知してあわやというところまで警察を追い込むんだが、図に乗りすぎて不覚の誤算。やれやれ勝ったかと思っていると、十年すぎたときにキー・ウィットネスの突然の出現。いやはや全く振り廻されたね。脱線に次ぐ脱線さ。それでも万事めでたく収ったというんだから「皆生」ならぬ怪奇な事件さ。
(上掲書113Pより引用)

 と言う島崎警部(天城氏のシリーズのレギュラーの探偵役)の述懐から始まる本作は1964年8月、東京でファッションデザイナーの江迎登志子の死体の発見から幕を開けます。やがて浮かんだ大阪在住の容疑者は中国地方の山行に出かけていて帰途に乗るはずだった準急の皆生に乗り遅れたために犯行時間帯に東京に行く事ができないと言うアリバイを主張します。

 従来の時刻表アリバイのほとんどは「犯行時間帯に特定の列車に乗っていた」と言う主張をするものですが、本作では逆に「特定の列車に乗り遅れたために現場に行けない」点をアリバイにしているのが特徴です。
 捜査陣も当然「皆生」より早く東京に到着する方法がないかを探すところを重点的に調べ始める訳で短編ながら時刻表トリックの醍醐味が凝縮しています。

  私なんかも帰省や上京の折に目的地まで行く行程の設定でスマホの路線検索ソフトを常用しているのですが、5つくらい並ぶ候補を見ていると「あっ!その手があったか」というような意外性のあるルートが表示されて驚かされる事があります。

 昔の時刻表トリックの大半はまさに「その手があったか」の意外性が肝な訳ですが、今ではスマホが秒殺で意外なルートを表示してくるのですから、時刻表トリックは形なしもいいところ。
 ましてや天城氏の作品では時刻表の印刷形態までトリックの材料に使う作品がありましたから、純粋にルートと所要時間を計算する検索ソフトの前にはひとたまりもありません。
 検索ソフトの存在は間違いなく旧来の時刻表トリックを絶滅させつつあります(とはいえ、検索ソフトのロジックの裏を掻く形でのトリックはまだ可能ではないかと個人的には思っているのですが)

 それに天城氏の作品の場合はトリックと同じくらいに皮肉と逆説に満ちた人間描写にも意を用いており、そんな点も魅力となっている点を見逃せません。

 作品の話でずいぶん引っ張りましたが、作中に登場する「皆生」というのは三原ー出雲市間を走る準急列車。
 1964年9月の時点ではキハ26とキハ28、キロ28の4両編成による運用がされていました。つまりキハ55系の1エンジン車とキハ58系の1エンジン車で構成された編成という事になります。
 キハ28も繋がっていた点から考えるとキハ26はいわゆる準急色では無かったのではないかと思われるのですがあいにく当時の写真がなかなかヒットしないので確証はありません。

 さて、キハ28もキハ26も1980年代初めにNゲージでリリースされています。

 キハ28の方はキハ58と共にエーダイナインとTOMIXがほぼ同じタイミングで発売、競作になったという曰く付きのモデル。
 TOMIXの方はアイボリーがプラの地色で幾分安っぽい感じでしたがエーダイの方はアイボリーも朱色もきちんと塗装されていたので質感の点でアドバンスになっていました。一方で車体はエーダイがキハ58の流用だったのに対しTOMIXはキハ28専用のボディを起こしており考証面ではTOMIXに分があります。

 キハ26の方はエーダイ倒産後に生産と販売を引き継いだ学研からキハ55と同時リリース。こちらは競合製品もなかったために21世紀になって  TOMIXがキハ55系をリリースするまでレアもの扱いだったそうです。

 私の手持ちのキハ55系は主に最近のTOMIX製なのですが、不思議な事に(でもないか)店頭ではキハ26ばかりが売れ残っていたためにほぼ全てがキハ26になっています(笑)、まあ、今回のようなネタには好都合ではありますが。

鉄道ミステリとNゲージ36 「蒸気機関車殺人事件」とC57

2021-05-30 05:22:48 | 小説
 久しぶりに「鉄道ミステリとNゲージ(あるいは鉄道模型)」ネタから
 今回は鮎川哲也監修、光文社版の「見えない機関車」所収の海野詳二作「蒸気機関車殺人事件」をば

 私は殺人犯人であります。しかも世にも不思議な殺人犯人でもあります。
(光文社カッパノベルズ「見えない機関車」所収「蒸気機関車殺人事件」P62より引用)

 こんな書き出しから始まる本作は、かつて走行中の機関車内で先輩機関士を殺害したとして逃亡中の元機関助手の独白の形で、殺人犯の名を負いながら逃亡を続ける「私」が事件の真相を追いながら彷徨してきた経歴を語ります。
 彼も知らない事件の真相、それが知りたいが故に自らは逃亡者の身に置きながら一心に生きてきた「私」。
 事件から永い時が流れ、ようやく掴んだ事件の真相とは何か。


これが大まかなあらすじです。

 本作は業界紙の「運輸日報」に掲載された一編ですが鉄道員の読者が多かったのか中盤で「私」が語る機関区の仕事の描写はかなり詳細です。

 そして本作のもう一つの主役と言えるのが「私」と先輩機関士が乗務するC57蒸気機関車の描写です。
 C57の外見の魅力に始まって整備や乗務の苦労、そして勾配を越え平坦地を走る変化に飛んだ区間を疾走させる機関士と機関助手の苦しみと達成感に満ちた業務への使命感と喜び。
 全24ページの作中のなんと10ページまでがC57の描写とそれに乗務する機関士の矜持のはなしで占められていますが、実はこれが「私」が汚名を着、身を落としてまで事件の真相を追い求める「動機」に対応しているのが見事です。

 そして後半である人物から事件の真相が語られますが、編者が解説で書いている通り「未だかつてこうした動機に基づく『殺人』は書かれたことがなかった」と思われます。
 それゆえ短編のミステリでありながら読後の感動と寂寥感は長編に負けないものがあります。
 これまで紹介してきた数々の短編鉄道ミステリの中では随一の「泣けるミステリ」でもあると思います。

 さて、上述の様に本作の一方の主役と言えるのがC57な訳ですが、16番でも昭和40年代から複数のメーカーから完成品やキットが出ている定番モデルです。
 一方、79年に「やまぐち号」の牽引機にC57が抜擢された辺りからNゲージでもC57が続々と製品化されています。
 最初は確か中村精密の金属モデル、次いでTOMIXがテンダードライブのプラ製、そしてKATOがエンジンドライブの模型としてはコンベンショナルなモデルで続きました。
 その後もワールド工芸や天賞堂などが続きTOMIXやKATOの第二世代C57のリリースで現在に至ります。

 かつてのD51同様、蒸気機関車の代表格になったC57は模型の世界でもスターであり続ける存在ですが、本編を読むと実車が当時乗務していた方々からも愛された花形だったことがよく伝わる一遍でもあります。

3.11に思うこと

2021-03-23 05:01:29 | 小説
 今回はメインブログで3月11日に上げた記事の再録です。

 東日本大震災から今日で10年目。

 ひと昔の節目とはいえ、今思い出すとまるでついこの間の事の様に思い出されます。


 上の写真は震災の前夜撮影したものです。
 あの当時は自分の腕前のつたなさも何のその、TMSのレイアウトコンペに出品すべくレイアウトの改修に血道をあげていました。
 確か夜の10時過ぎくらいだったと思うのですが、そんな時間でも改修部分の進捗を記録する積りでカメラを構えたのを思い出します。

 その時は翌日に何が起きているかなど勿論考えもしなかったし、明日も今日の延長で日常が流れるだろうとか無意識に思い流していました。

 その次の日の夜、帰宅してみたら自宅に飾っていたモジュールがこんな状態です。
 現住地は被災地から軽く5~600キロは離れていたはずなのにこれまで経験した事のない大揺れ。近所でもブロック塀が道路に向かって倒れ菩提寺の山門が傾くくらいの状況でした。

 この写真の手前側にジオコレのマンションがありますが、モジュールの隅に配置してあったのが地震のはずみでモジュールと壁の間に落ち込みバラバラになっていました。3年後くらいにモジュールの改修をしようとして初めて紛失に気づき、サルベージして現在のモジュールに据え付けたのですが、要は「ビル一軒が消えてなくなっても3年位気づかなかった」くらいにあの当時の私は気もそぞろだったという事でもあります。

 それくらい、3月11日を境に日常の感じ方が大きく変わったことは確かです。特に災後の半月くらいは故郷の状態を問い合わせたり計画停電に伴う生活リズムの調整、少ないながらも被害のあった地元周辺の警戒などもありましたし、事実何をしても手につかないような心理状態が続いたものです。
 
 それでも現住地周辺は津波被害に直接あった地域に比べればはるかに恵まれていました。
 (故郷の周辺でも内陸部や山間部は揺れのひどさに比べると被害自体は軽微な部類だったと思います)
 あとで知りましたが沿岸部にいた親類は死傷者こそ出ませんでしたが自宅が流された処が一軒、残りはたまたま高台に居て難を逃れましたがインフラの崩壊や交通の障害が大きく長期にわたって不自由を強いられたようです。

 それでも当日のニュース映像などで見る津波の災害は予想を遥かに上回る惨状でした。津波の先端を境目にして「日常の景色が一瞬で消滅する」恐怖という物は文章とかアナウンスとかよりもはるかに雄弁かつ残酷に現実を突きつけてきます。
 傍観者として映像を見るだけの立場に過ぎないはずの私たちにとっても、心胆寒からしめる思いだったのは間違いありません。

 あの記憶は10年やそこいらで薄れるような性質のものではありませんが、現に10年目を迎えた今はこれまでとは全く異なる厄災が私たちの生活を変えつつあります。
 世の中で常に安定しているものはない、常に変わりゆく現実に対する心構えを持ち続けることが必要という事を改めて感じています。

 そんな現実に(心理的に)押しつぶされそうになっていた折でもふと気が付くと「テツドウモケイをいじくりまわしていると不思議に気持ちが落ち着くのを感じた」のはほとんど唯一の救いでした。

 あの時期に仕上げたレイアウトは(出来の良否はさておいて)今でも鮮烈な思い出とともに残っています。

鉄道ミステリとNゲージ・35「移動密室」と153系

2021-03-02 05:00:31 | 小説
 鉄道ミステリとNゲージネタから
 今回は徳間書店版「殺意の終着点」から山村直樹作「移動密室」を取り上げます。

 静岡を疾走する「東海1号」のトイレの中で男の乗客が毒殺されているのが発見されると言う冒頭からこの物語はスタートします。
 同じ頃、33歳の独身者の会を主宰し、たまたま並走している新幹線を使って会員たちのツアー旅行を進めていた主人公のタウン誌編集長は知り合いの新聞記者から東海1号での殺人事件と被害者がその会員の1人であったことを知らされます。

 ツアー客の中に被害者の知り合いが複数いた事から、その中に犯人がいるのではないかと言う疑いを持った矢先、その知り合いの1人の女性が同様に毒殺されると言う事態が起こります。
 犯人は誰なのか?その動機は?アリバイトリックは何か?


 と言うのが大まかなストーリーです。

 本作は時刻表トリック主体の昭和の鉄道ミステリ短編の典型みたいな作品で盛り上がりに欠ける難はあるものの、割合安心して読める一編と思います。

 さて、本作の殺人現場となる「東海1号」ですが、書かれた時代から推察するに153系が使われていた末期ではないかと思います。

 その153系ですが、Nゲージでは初の国鉄型急行電車としてKATOからリリースされました。最近では競合社が増え初期の大窓の運転台の仕様もモデル化されていますが、初期の153系は165系や457系への展開をも見据えてか窓が小さい高運転台仕様から出されていました。
 私個人も「初めて編成で揃えた電車モデル」だったので記憶に残ります(笑)

 これが出た1980年頃はKATOのモデルの造形も安定してきた頃でもあり実に手堅い構造と造形でした。今のモデルと並べてもそれほど印象に差がない辺り安定感があります。走行性も前作の181系辺りからスムーズになってきていて、当時の私にとってはお座敷運転の花形でした。

 153系というと湘南色がまず連想されますが、関西で使われていた「新快速色」仕様もすぐ後に追加。イメージこそ変わりましたが、こちらはこちらで独特の軽快感のあるカラーリングが好みだったりします。

鉄道ミステリとNゲージ その34「急行列車」と457系

2021-02-09 05:49:32 | 小説
 久しぶりの鉄道ミステリとNゲージ(及び鉄道模型)ネタ
 今回は徳間書店版アンソロジー「殺意の終着点」から耕原俊介作「急行列車」を紹介します。
 列車の車内で2人の乗客が語り合う形の短編は結構ありますが、本作の2人は聞き手の学生と完全犯罪の殺人を成功させた犯人という取り合わせ。

毎日の無聊な生活に倦怠した僕は、故郷に向かう列車の中で前席に座った怪しげな男に激しい興味を覚える。その男は、過去に完璧なトリックで伯父を殺し、今乗ってるこの列車は、そのことに感づいた妻を殺害する為のアリバイに利用しているのだ、と話すのだった。
(上掲書111Pより引用)

 この冒頭の一節がこの短編の全てを語っています。
 本作は「僕」の出会った「男」の犯罪の告白のみならず、その「男」は「今現に乗っている列車上でリアルタイムに完全犯罪を遂行中」と言う二重の構造で語られます。
 これだけなら非常にスリリングかつ緊迫感あふれる展開になりそうなものですが「男」の語り口はあくまで淡々としていますし、聞き手の「僕」も人生に対する倦怠から「男」の持つ倦怠感あふれる語り口に引き込まれています。

 トリック自体はいわゆる「時刻表トリック」の典型で今となっては新味がないですし「男」の過去の殺人トリックはこれまた今となっては古典的と言える機械仕掛けの殺人パターンですが「僕」と「男」の間の言葉のキャッチボールの雰囲気は昼下がりに疾走する列車の車内が持つ独特のアンニュイな雰囲気と重なって独特な雰囲気を持ちます。
 実は本作にはラストに更にひっくり返しがありますがそれについてはここで書かない方が良いでしょう。
 今読み返すと「昭和50年代の急行列車」の雰囲気を思い起こしつつ読み流すのが一番ぴったりくる一編と思います。

 さて本作の舞台となっているのは12時40分博多発15時51分大分着の「ゆのか3号」となっています。
 この列車についてネットで当時の写真を検索するとヒットするのが大概457系の急行型電車です。
 457系(或いは475系)は当時交流電化区間を走る急行電車の定番車でした。
 私も東北本線ではずいぶんお世話になっています。
 急行型と言うと都会では緑とオレンジの「湘南カラー」の165系とか153系が連想されると思いますが、サーモンピンクとアイボリーの組み合わせは地方に行くほどその比率が増えます。
 カラーリング自体は湘南色に比べると些か野暮ったさを感じさせますが、逆にその朴訥さは独特の魅力を感じさせます(あくまで個人的な印象ですが)
I
 私の手持ちではKATOの奴がひと編成あるのですが、これを走らせると故郷の鉄路を走っていた急行電車のイメージ画像を結びます。

鉄道ミステリとNゲージ・33 「探偵小説」と学研の「待合室付きホーム」(笑)

2021-01-24 05:00:01 | 小説
 久しぶりの「鉄道ミステリとNゲージ」ネタ。

 今回は我が国の探偵小説の大御所の1人にしてかの金田一耕助の生みの親、横溝正史の「探偵小説」(鮎川哲也編 光文社刊「鉄道ミステリー傑作選 下りはつかり」所収)をば。

 このはなしはあるベテラン女歌手の回想の形式を取っています。
 戦前のスキーブームの折、とある雪国の街で起こった未解決の殺人事件をめぐり、たまたまその事件を題材に小説を書こうとしていた作家と連れの洋画家、主人公の歌手の3人が別の角度から事件を分析、真犯人とトリックを導き出すという趣向です。
 まあ、豪雪と冷え込みに襲われがちな昨今の折に読むには(気分的に)悪くはない短編ではあります。

 ただし、いわゆる探偵ものと異なり「あくまで3人のディスカッションによる推理ごっこ」を会話体で進めてゆく形式なので真面目に映像化したら上映時間の大半が「3人組の世間話」になってしまうことは必至です(笑)

 で、これのどこがNゲージの模型につながるかと言いますと3人がくっちゃべる舞台が「列車待ち合わせ中のホームの待合室」だからです(ずいぶん無理やり!)

「待合室たって、改札口の前にあるのではなくて、ほら、プラットフォームによくあるでしょう。長方形の箱みたいなのが・・・あれなんですが、幸いそこにはストーブもあるし、いまとちがって、石炭なども山の様に積んであります。ただ、どういうわけか、駅のほうへ向いた窓ガラスが全部こわれて、ベニヤ板が押しつけてあるので、待合室のなかが妙に薄暗くていやでしたが、そんなことを言っている場合ではございません」(前掲書111pより引用)

 これを初読した当時(昭和50年)はNゲージの日本形ストラクチャーはまだ黎明期。まともなホームすら出ていない時期だったのですっかり忘れておりました。
 ですが、その後ストラクチャーは急速に充実しローカルホーム一つとってもよりどりみどり状態w

 上記の「長方形の箱みたいなの(密閉型の待合室)」ですら複数のメーカーから選べます。
 GM、TOMIX、ジオコレ、旧製品ならエーダイNからも出ていたと思います。
ですが今回取り上げるのは「たまたまわたしの手持ちだった」といういい加減極まりない理由で今はなき学研の「待合室付きホーム」です。
P2112718.jpg
 これはNのローカルホームとしてはごく初期に出たものですが待合室とホーム屋根がコンパクトに一体化した、なかなかレイアウト向きのものと思います。
 ですが当時の学研のラインナップは「0系新幹線と485、583系特急電車だけ」だったのでそのどれにも似合いません。なぜ突然変異的にこんなものが出たのかNゲージ七不思議の一つに数え上げられます(って他の6つが思いつかないですがw)

 さて小説の方ですが劇中劇の体裁をとって殺人事件が解き明かされますがこれがまた鉄道ミステリの定番トリックのひとつが使われています。

「ふふふ。そら始まったぞ。雪、雪、雪とね。それがトリックになるんだろう」
(前掲書115Pより引用)
 「まいったなあ。だから通にはかなわない。すぐに看破されちまう。実は僕がこのトリックを思いついたのは、ほかにわけがあるんだが、たしかにそういう小説はあります。僕の記憶しているのでも二つある(以下略)」
(前掲書133Pより引用)

 作者も登場人物もそれは承知しているのですが、類似作の同一トリックに比べて犯人の工作は実に巧みですし、話の持って行き方も非常に良くできています。むしろそのストーリーテリングを楽しみながら意外な結末と作者の表現力を堪能するのが今となっては本作の一番良い楽しみ方ではないかという気がします。
 実際、本編はいつ読み返してもその語り口に引き込まれますし飽きるということがない鉄道ミステリ初期の傑作の一つとわたしは思っています。

鉄道ミステリとテツドウモケイ・番外編「最終列車の哀愁」

2020-12-19 05:26:02 | 小説
私がかつて住んでいた借家は電車の線路が近かったせいもあって夜に11時過ぎに寝ていると最終電車のジョイント音が枕元に響く環境でした。毎晩その音を聞くたび一日の終わりを実感し、眠りに落ちてゆくのは今にして思えばずいぶんな贅沢だった気がします。

そんな訳で今回は鉄道ミステリとNゲージの番外編です。

前に0系新幹線を題材にした短編鉄道ミステリの多さと歴史の長さについて書いた事がありますが、それに負けないくらいのボリュームを持っているのが夜汽車(夜行列車)を題材にした作品と思います。
その中でも独特の地位を占めるのは「最終列車(或いは最終電車)」を題材にしたものです。

映画でも先日紹介した「終電車の死美人」とか「魔の最終列車」(これについては近々取り上げるつもりです)なんて作品が製作されていますし。

私の鉄道ミステリのアンソロジーでも最終列車を題材にしたものはいくつかあるのですが、こちらもまた題材がバラエティに富んでいて飽きさせません。

個人的に印象的なのは鮎川哲也編「下りはつかり」所収の加納一郎作「最終列車」でしょうか。
ある夜、自分の上司を殺害して現金を奪った男が逃走のために東京駅に向かうのだが、駅までの街路は人っこ1人いない暗闇の無人空間。辿り着いた最終列車も何か普通でない違和感が漂う。いったい何が起こったのか?
本作は全てが男の追われるものの幻想の様に思わせておいてラストのひっくり返しの衝撃と独特の哀感が印象に残る一編でした。
(本作は厳密にはミステリというよりファンタジーに近い)
SNShouo71IMG_5130.jpg
その他「見えない機関車」所収の川辺豊三作「最終列車」では東海道線の暗闇を疾走する最終電車(おそらく113系?)の車内が殺人の舞台となるが完全犯罪を目論んだ犯人が予想していなかった尾行者の存在によって犯行が暴かれる話。

日本ペンクラブ編「悲劇の臨時列車」所収の風間一輝作「夜行列車」では大阪行き最終列車のデッキに乗り合わせた3人の男女それぞれの過去と人間模様を哀愁とハードボイルドが入り混じったタッチで描いています。

また、倉光俊夫作「吹雪の中の終電車」は雪の相模平野を疾走する最終電車を舞台に、ただ一人乗り合わせた男が体験する怪異譚。読んでいて怖さと同時に寒々しさが付いて来るので冬の夜に布団の中で読むと雰囲気満点ではあります(笑)

これらの作品に共通して描写されているのは最終列車の持つ独特の寂寥感でしょうか。夜汽車の中でも最終列車というのは作家の琴線を刺激する要素がことのほか多いのでしょう。
誰もが寝静まった深夜、暗闇の中を疾走する最終列車は乗っていても外から見ていても何か哀愁と侘しさが付いて回る気がします。
(この哀感は田舎に行くほど強くなる気もしますね)

さて、最終列車を模型で再現しようと思ったら欠く事ができないのが「室内灯」でしょう。
今では鉄コレなどの一部を除けば大概のNゲージモデルが室内灯を後付けできる様になっていますが、KATOの北斗星(初期モデル)やTOMIXの四季島など室内灯標準装備のモデルも少ないながらリリースされています。
但しそれらはスペシャリティな編成に限られ、上記の最終列車の哀愁をかき立てるであろう普通の車両ではまだまだの様です。
ZゲージではマルイのProーZのコンセプトが「室内灯標準装備」だった事もあってか後に続くクラウンや六半のモデルは大概室内灯が装備されています。

ラインナップにはオハ35系やスハ43系などもあるのでこういう用途には好適です。
真っ暗なテーブルトップのレイアウトでも室内灯のついた列車が走ると独特の郷愁が掻き立てられるのは鉄道模型ならではの楽しみと言えます。

特に寝る前のひと時を使ってそれができるというのはまさに至福というものでしょう。

鉄道ミステリとNゲージ32「乗り合わせた客」と200系

2020-12-05 05:45:54 | 小説
 久しぶりに鉄道ミステリとNゲージ(あるいは鉄道模型)ネタから
 日本ペンクラブ編「悲劇の臨時列車」から中津文彦作「乗り合わせた客」を。

 仙台から上り新幹線に乗り込んだ主人公の主婦が車内でふと漏れ聞いた怪しい男の携帯電話の会話。それがきっかけとなって姿なき脅迫者から秘密を漏らさないよう脅され続ける。やがて彼らは口留めの保証料として彼女に現金を要求してきた。
 思い余った彼女は夫に相談し彼らの要求通り金を払うことにするのだったがその恐喝劇には意外な真相が仕組まれていた。

というのが大まかなストーリーです。
 作者は岩手県出身で盛岡の新聞社に勤務していたとの事もあってか、開通まもない東北新幹線を舞台にストーリーが展開しています。
 東海道新幹線の0系を舞台、あるいは題材にした短編ミステリはそれこそ星の数ほどありますが、東北新幹線の200系を舞台にした作品は私の手持ちの中では本作のみ。
 長編であればトラベルミステリの隆盛に伴い何本か書かれている様ですが、後発だけに東海道に比べて開通のインパクトが薄い事も関係あるかもしれません

 その200系ですが東北新幹線の開業がNゲージの興隆期と重なったせいもあって開業直後の段階でエンドウ、KATO、TOMIXがNゲージモデルを競作するという鉄道模型史上前代未聞な事態になりました(笑)
 私の手持ちにあるのはごく最近入線したKATOの最初期モデルだけです。
 前にも書きましたが「自分な常用している編成なのになかなか模型を買わない」という私の悪い癖(かな?)が表に出ていますね。
 0系よりも微妙に細身のノーズと上周りの軽快感と対照をなすスノープラウ付きの重厚な下回りとのアンバランスが200系の特徴ですがその点はどのメーカーのモデルも外していません。