昨年暮れの事です。
たまたま手に取ったRM MODELSの特集で西鉄福岡駅周辺の精密極まるNゲージのモジュールを見て思わず手が震えました(笑)
あの「ラドンのセット」とほぼ同じものがNスケールでモデル化されていたのですから当然と言えば当然のリアクションではあります。
また、このモジュールの設定年代はラドンのそれの5年後くらいなのですがたった5年ほどでこれほど雰囲気が変わっていたというのが第二の驚きでした。

そんな訳で今回は怪獣映画初のカラー作品となった「空の大怪獣ラドン」(昭和31年・東宝)です。
大まかなストーリーは阿蘇山近くの大空洞から復活した前世紀の巨鳥・ラドンがマニラ、北京、沖縄を襲撃した挙句に九州に舞い戻った挙句、西海橋をなぎ倒し西鉄大牟田線の天神駅周辺を蹂躙した挙句に阿蘇の巣に戻ったところをミサイル攻撃で巣ごと焼き殺されるというものです。
これだけ書くと単純極まる様なストーリーですが実際にはサスペンス物としてもかなりよく出来た作品です。
冒頭に阿蘇の炭鉱内部にラドンの餌となる巨大なヤゴの怪物が出現して人知れず炭鉱夫を襲うサスペンスから始まり、そこから阿蘇火口付近で記念撮影中の新婚カップルが空を舞う謎の巨大な影に襲われて絶命するエピソード、直後に福岡上空を飛ぶ自衛隊機が正体不明の超音速飛行物体を追跡して返り討ちに遭い、次に発見された巨大なラドンの卵殻の破片から親鳥のサイズが類推されるという一連のシークエンスの積み重ねで姿の見えない怪鳥の存在が徐々に明らかになってゆきます。
この部分で特筆されるのはロケーションの大半が大空やかなり開けた空間を舞台としているのに見る者に「どこにも逃げ場がない」怖さを与える事です。空を飛ぶ怪獣ゆえの恐怖感がこれほどストレートに映像化された作品はそう多くはありません。
ラドン自体の登場は映画開始から40分以上経ってからですがそこまでの展開にまだるっこしさをまるで感じません。
この流れは映画の上でもまだ「怪獣の存在それ自体が驚異」だった時代ならではのリアリティがあります。
そして後半のクライマックスは実景を基に構成された博多市街のミニチュアシーン、特に大きなセットが組まれた昭和30年当時の西鉄天神駅周辺での破壊・戦闘シーンが見所となります。
(ラドンの着ぐるみに人が入っている事から類推しても、かなりの広さと大きさのミニチュアセットが組まれている事がわかります)
ここに登場するミニチュアは店舗の一軒一軒に至るまで緻密に再現されたのみならずそれらがラドンの風圧で吹き飛ばされたりタンクローリーが突っ込んで炎上したりするなど実景を基にした非日常性満載の描写が連続します。
なお、西鉄商店街周辺のミニチュアは火との絡みがあったせいか10分の1程度のラージスケールだそうです。

そのシーンの中で天神駅から退避しようとする西鉄電車がひっくり返るカットがあるのですが、このミニチュアは入江義男氏の手になるラージスケールのモデルながらも私たちの使う「鉄道模型」の文法で作られている為不思議な違和感のなさを感じてしまいます(尤も、特撮嫌いの一般の方の眼から見れば「客が乗っていない」とか「ミニチュア丸出し」とかいう感想になるのですが)
このモデルは実際にモータを台車にマウントして自走できるモデルらしいことが見て取れます。
普通特撮のミニチュアではピアノ線などで手動で動かす方法が用いられますが自走できた方がリアルな感じになるのは間違いありません。
ラドンの羽根の風圧で「走行しながらふわりと横倒しになる」部分はミニチュアの表現としてはなかなか理想的に感じました。
この転覆シーンでは床下の真っ赤な模型用配線までが視認できてしまうのですが、初のカラー特撮ゆえのミスと言えましょう(笑)
事実、この点については入江氏自身がDVDのコメンタリーで述懐されています。
ところで件の車両のプロトタイプですが、手持ちの資料でははっきりした事は分かりませんでした。形態の類似から西鉄のモ303系辺りではないかと推測される程度です。
更に岩田屋周辺、西鉄街などの風景のミニチュアも精密なだけではなく人間が実際に見かける風景のアングルを工夫していることでリアリティを高めていることが見て取れます。
(この辺り後の怪獣映画が等身大の視線を無視したような不自然な俯瞰やバストショットを多用するのと比べると配慮の深さを感じます)
もうすでに60年近く前の作品なのですが、今観ても全く色褪せないミニチュアワークと演出の妙が堪能できます。
これが楽しめるのも本作がミニチュアだから故でしょう。プログラム化された予定調和のCGではどんなに凄い事をやってもどこかで「ああ、やっぱりな」と思われてしまう所がありますし。
逆にミニチュアと分かっているのに妙に引き込まれる作品にはそうした予定調和(作り手の想像の範囲と言っても良いかもしれません)を超えた何かがある様な気がします。

(それを言い出すと同じ論法で「ミニチュアより本物」という所に行き着いてしまいますがこれも又一面では真理であります)
最後に
もし手元にRM MODELSの232号(2014年12月号)をお持ちなら31~37ページの記事と対照しながら本作のDVDでも見て頂くと映画のセットとモジュール双方の凄さが同時に再確認できると思います。
特にNスケールの岩田屋やスポーツセンターの作り込みは写真を見る限りは映画用のラージスケールのそれにほとんど引けを取っていません。