トランプ氏が当選したことで、戸惑っている安倍首相が、11月17日に訪米して説得を試みることになっている。
ニューヨークで会談する予定で、どうやら、アベノミクスの目玉政策として取り組んできた[TPP交渉]の成立が危うくなったことで、慌てふためいているようだ。
[TPPの構想]は、もともとはアメリカは関心がなかったが、オバマ大統領が政権の成果にしようとして、二期目の主眼の経済政策にしていた。
安倍首相が、アベノミクスの経済成長戦略に取り入れて、米日の経済政策の要に据えようとしていたのである。
トランプ氏が次期大統領に当選した大きな要因に、自由貿易経済の進展によって、製造業の市場展開で競争力がなくなり、製造業の海外流出が問題となったからだ。
北米自由貿易協定が発効した当時は、画期的な経済政策の進展で、これによって、メキシコとカナダとアメリカにとっての理想的な市場ができるとのことだった。
それが、アメリカにとっては悪夢のような【失業率が増え続ける経済】となり、自由貿易協定が、アメリカ人の雇用を奪っている、との不満が増大した。
自由貿易の理念は、19世紀の経済学者リカードが唱えた「比較優位論」である。
「各国での最も優位な産業の生産性が高まり国際的な分業が進む」との理想論は、
この現象によって【淘汰される産業、職を失う人々】が、大量に生まれることを、想定していない。
19世紀では、次々に新産業が生み出される環境にあったから、後のことまで、経済学者が心配する必要はなかった。
それが、20世紀を通じて世界中に経済成長を拡大させて、世界の貧困国を豊かにしていったことは、事実であり成果である。
しかし、20世紀の後半から先進国の製造業が次々に海外に移転する時代になってからは、先進国の労働者の賃金は低く抑えられる時代になった。
給与が横ばいか、減少に転じれば「消費性向が落ち込む」ことは明白である。
そのことがわかっていない安倍首相が、トランプ氏に説得を試みるとは、お笑い劇場にもならない。
トランプ氏は、ビジネスの世界において、4回も破産を経験した「歴戦のツワモノ」であり、底辺層の労働者の悲惨な生活も知り尽くしているだろう。
それでも、金持ち層を相手にした「ホテル業、カジノ経営」などの事業で、お金がどのように回転して行くかも、安倍首相よりも理解している。
そのビジネス経験にもとずいて、政治家に転身する人に、「経済学者の机上論」に沿った「自由貿易協定」」の構想を、効果が大きいと説得すると言うのか。
自由貿易のデメリットを、とことん、議論し尽くしたうえで、「TPP構想」を、根底から見直した方が良い。
成果が出ない経済成長戦略も、根底からの議論をやり直すべきだろう。(続)