Eur-Asia

西洋と東洋の融合をテーマとした美術展「ユーラシア(Eur-Asia)」の開催を夢見る、キュレーター渡辺真也によるブログ。

「希望と憲法」の著者、酒井直樹教授に会ってくる

2008-06-01 05:53:48 | Weblog
先日、NYから車で5時間の所にあるイサカという町に伺い、コーネル大学の大学院にて研究者の方々にお会いしてきた。コーネルと言えば、アイビーリーグの大学として知られている。最大の目的は、「希望と憲法」を書いた酒井直樹教授にお会いすることである。先日、この本を読んだとき、私がテーマとしているものと酒井教授がテーマとしているものが大変似通っている点に驚き、ぜひ会ってお話してみたい、と思い立ったのであった。

初日には柄谷行人の翻訳者として知られるBrett de Baryさんにお会いしてくる。Brettさんとは、彼女の専門である日本の戦後文学と、日本の主権意識の無さについて等、いろいろ議論してくる。Brettさんは、80年代以降の新世代の人の中から、かつての日本が持っていた凄みみたいなものが無くなっており、残念だ、そんな話になった。さらに、中国にてポストコロニアル系の研究をする東南アジア人の学者たちと議論してきたのだが、中国と日本、そしてアメリカの内部におけるポストコロニアルの思想として共有されていることの前提が、必ずしも皆一致しておらず、特にスピヴァクの思想が中国の学者たちと共有できなかった、と言われていたのが印象的だった。Brettさんご本人も、大変チャーミングで、優しい方だったのが印象的だった。

その後、アート・ヒストリーのIftikhar Dadiさんともポスト・コロニアルとアジア、さらに美学の話で盛り上がった。また、現代においては旧来の分野ではなく、分野間に跨って研究して、初めて新しいことができる、という話になった。強い意志が感じられる、素敵な方だった。

次の日、リオタール研究者のTim Murreyさんというメディア・アートとポストモダンの方ともお会いし、ポスト・モダンや沖縄、クリス・マルケルのレヴェル5の話で盛り上がる。彼もマルケルが好きらしいのだが、フランス留学中に、彼の作品に触れてファンになったそうだ。マルケルに関して書いた彼のテキストを送ってもらえることになった。楽しみだ。

その後、酒井直樹さんの研究室に伺い、昼食を食べながら、著書「希望と憲法」の話をする。

酒井教授は、小田実を彷彿とさせる雰囲気を持った方であった。酒井教授は、「希望と憲法」の中で、憲法と戦後日本の研究の延長線上で、私があえて扱わなかった「人種」の問題に、鋭く切り込んでいる。その点に関して話しているうちに、アメリカの人種主義の反映としての日本の対アジアのエリート主義の問題などで盛り上がり、さらに日本の覇権主義の無さに、すこし嘆いていたのが印象的だった。私と酒井教授はアメリカが長く、さらに興味関心の被るなどの共通点が多く、とても面白い話となった。

また、Japan Focusに掲載されている私のインタビューを編集して下さったMark Seldenさんにもお会いして来る。Markさんと私は年齢がかなり離れており、またアジアの安全保障を専門としている、ということもあってか、9条に関しても、私と問題提起の切り口が一致せず、話はなかなかまとまらない部分があったが、それがまた興味深くもあった。久しぶりに、「他者」に出会った気分になった。

多くのアカデミシャンに会ってお話してみて、意外と私はアカデミズムの本流と離れてないな、という実感があった。久しぶりに知的好奇心を刺激する、素敵な出会いであった。

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