穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

昏く淀むヘミングウェイの精神

2014-08-18 07:33:14 | 書評
彼のキューバ時代以降の作品でキューバとマイアミを往復する密輸業者を扱った作品が新潮文庫ヘミングウェイ短編集3に二つある。色調が暗く重苦しい。題材のせいなのだろうが、カリブ海の明るい強烈な陽光と対照的なくらさである。

また、この短編集にスペイン内戦を扱った数編の作品があるが、同様に暗く、やりきれない重苦しさがある。キューバの明るい日差しのもとでヘミングウェイの精神は暗く淀んできたようだ。

勿論作品の質と言うかテクニックというのは、一応水準にあるのだろうが、暗さ、重苦しさは加齢によるヘミングウェイの精神の変化と影響があるのではないか。

ところで、死後出版された「海流の中の島々」だか最初の方を少し読んだところで、どうも感心しないと前に書いた。しかし、これを彼の創作メモと考えて、彼が心身共に充実していたら、この創作ノートをどう完成させていったかな、と思いながら読むと多少興味があるかもしれない。ほとんど、書評屋、研究者の読み方だけどね。

この短編集三にも死後発表された作品が数編ある。これらも「創作メモ」つまり素材として、どう完成させるつもりだったのかな、と考えながら読むといいのかもしれない。

それを考えると、52歳の時に発表した「老人と海」はヘミングウェイが創作の活力を取り戻した一瞬だったのかもしれない。この作品なしにノーベル賞の受賞はなかったわけだし、幸福な一瞬の輝きだった。