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min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

男たちは北へ

2008-04-17 17:32:07 | 「カ行」の作家
風間一輝著『男たちは北へ』ハヤカワ文庫JA 2008.2.15 720円+tax

オススメ度★★★★☆

フリーのグラフィックデザイナーである桐沢風太郎はアル中の中年である。学生時代の友人が以前、自転車で青森まで行った帰りに彼の元に立ち寄った。
その時友人が語った体験は彼の記憶から消え去ることなく「いつか自分も青森まで行ってみたい」と思っていた。
人生中盤を過ぎると、これは特に男にとってそうなのかも知れないのだが、何故か青年期に抱いた「想い」にとらわれる瞬間があるようだ。

日常から一時逃れるような衝動にかられたかどうかは確かではないが、桐沢はある朝北へ向かった。
東京を出てまもなく、一台のトラックの荷台から段ボール箱が落下するのを目撃し、それを拾った桐沢は近くのコンビニに届けた。その落下した書類の束の一冊をメモがわりに拝借したのだが、これが災いの火種になる。
その書類とは自衛隊の一部の幹部が策定した「秘密作戦」の小冊子であった。
小冊子は50冊あったのだが、桐沢が失敬した一冊が問題であった。この一冊の最後のページには書類を読んだ9名の自衛隊幹部自筆のサインがあったからだ。
この「極秘作戦」を策定したのは三田という幹部であったが、その上官である塚本は直ちに隊内に私設的な奪還本部をつくり回収作戦に出た。
一方、桐沢は小冊子を拾った日の夕刻、ひとりの少年と出会う。少年はある事情でやはりひとり青森を目指すヒッチハイカーであった。

この小説はジャンルで言えば「ロード・ノヴェル」となるらしいが、ひとりの少年の「成長譚」でもある。
「極秘文書」をめぐり自衛隊がからんでくるサスペンスとも言えるのだが、実際、この自衛隊の関与そのものは物語の脇役に過ぎない。なぜなら「極秘文書」の中身が大した代物でもないし、回収方法そのものが杜撰としか言いようがない。
桐沢自身が後に独り言のようにつぶやくのであるが、素直に「無くした物を返してくれ」と言えば済むようなものだ。自衛隊側のひとりよがりの悪あがきであって、桐沢はたとえ彼らの真意(殺してでも奪う)を知ったとしても青森行きを断念するものではないだろう。

桐沢は、いわば「明日を意識しない日々の生活」を送ってきたわけであるが、今回の青森行が少年や他の人々との出会いによって「明日を意識する再生への旅」となったとは思えないし、アル中がこれで直るとも思えない。
黙々と青森を目指す桐沢の存在は、少なくとも少年の精神を鍛え、敵のひとりの生き様すら変えたと思う。
一方の桐沢の心の中でも何かが変化したことに違いない、と思うのだが・・・

ここで大事なことを書き忘れていた。サイクリング。これが本編で最も重要な要素となっている。サイクリング好きな読者は読み進める程に著者の描く世界に感情移入できると思うし、サイクリング未体験の読者もそれなりに楽しめると思う。
重い荷物を積載したサイクリング車による山越えは、越えたと思うとまた登り、頂上は遙か遠くに。期待と落胆、その繰り返し。その様はあたかも「賽の河原」で石を積む姿にダブる。意識を無に近づけてペダルをこぐ境地はある種、修行僧のそれに近いのであろうか。



ひとり言=たわ言

主人公の桐沢はどうみても横文字職業のグラフィック・デザイナーとは思えないなぁ。
一体どんな作品を書こうってんだい?(笑)
アル中の割にはずいぶん程度のイイ?アル中じゃないの?この人!
最近、なんかこの作品に触発されたとは思わないが、チャリ(21段変速のマウンテンバイク)を買ってしまった。んだども、青森に行きたいとは思わないぞっと(苦笑)

北海道独立!むむっ、なかなかいいかも。
軍事的にはその気になれば確かにたやすく達成できるんでないかい。でもその後が大変だろう。
特に経済的になりたたないのでは?
ここ3年ほど北海道に住んでみて思うのは、今の道産子には独立精神のカケラもないのでは?内地への依存心が高すぎる!
あ、そうか、道民を人質にして日本政府から身代金をせしめればいいのか。


はぐれ鷹

2008-04-15 18:43:48 | 「カ行」の作家
熊谷達也著『はぐれ鷹』文藝春秋 2007.10.10  1,619円+tax

オススメ度 ★★★☆☆

幼い時分より動物や鳥類を眺めて遊ぶのが好きであった岳央は、ある日テレビで角鷹(くまたか)の鷹匠の存在を知った。
大学を出た後も鷹匠の事が忘れられず、とうとうその鷹匠の下を訪れ弟子入りを志願した。
鷹匠は何度も断ったがとうとう彼の熱意に根負けしたかたちで弟子として受け入れた。
日本最後の鷹匠と言われる師匠は、高齢でかつ頑迷な性格を持っていた。角鷹(くまたか)の鷹匠としての知識と経験は尊敬できたが、一方裏の部分での金銭欲、名誉欲には幻滅を感じざるを得なかった。
師匠から与えられた若き角鷹の神室号を果たして一人前の鷹として訓練し育てることが可能であろうか?角鷹はあまりにも気高く孤高の生き物であることを知らされる岳央であった。
師匠に弟子入りし半年ばかり経ち、そろそろ神室号の訓練を開始したばかりの頃、幼なじみで憧れの存在であった久美がTV取材を申し込みに岳央の前に現れたのであった。
果たして岳央の神室号はカメラの前で見事に狩りをすることができるのであろうか?

著者熊谷達也氏はかって『邂逅の森』や『相克の森』の著作において、秋田県阿仁に存在したマタギの生態、生き様を綿密な取材の元に我々の前に活写してくれた。
本編においても角鷹(くまたか)の鷹匠という特異な存在とその知られざる世界を我々の眼前に披露してくれたわけであるが、物語としての本編はプロットの配分がなんとも不自然でバランスを欠いている、と言わざるを得ない。
TV取材という岳央にとっては負の存在となるもの、それにからむ初恋の女性とのやりとりに主力がおかれ、肝心の鷹匠としての生き様の描写が二の次になってしまった気がする。
読者としては岳央の人生の最終的な決着がまだ済んでいないのではないか!と思う次第。


君たちに明日はない

2007-05-05 09:29:12 | 「カ行」の作家
垣根涼介著『君たちに明日はない』新潮社 2005.3.30初版

なんとも因果な商売ではないか「リストラ首切り屋」とは。バブル崩壊後の日本の会社は未曾有のリストラに狂奔したのは記憶に新しい。自らの会社の人事部門が直接手を下すのではなく、リストラの通達、説得工作をアウトソーシングで「専門会社」に委託する。
こんな事が実際にあるのかどうか定かではないが、あるのかも知れない。
指名され呼び出されるリストラ社員もたまらないが、これを遂行する側だって相当なハードな職務である。
一日に5,6人の面接をびっしりこなさなければならない。本編の主人公はまだ30代初めの独身男であるが、その手腕はなかなかのものである。
リストラ対象の会社は多岐に渡る。主人公の真介が凄腕であることは間違いないものの、単なる非情な首切り人かと言えばそうではない。いくつかのエピソードの中でなかなかしゃれた人情味を発揮させる。
一方、やたら年上好みの男であることがこの作品の隠し味?となっており、冒頭の一遍でなかなか味なことをしてくれるが、最後の最後にほろりとさせる算段となっている。
垣根涼介氏といえば数々の犯罪小説で真骨頂を発揮してきた作家であるが、こうした軽妙な作品も上手にこなす作家であることがわかる。
派手なアクションシーンがなくとも作者一流の「人間を見る眼」に一本筋が通っており、それぞれの登場人物がものの見事に魅力的に描かれている。
今まで読まなかったのは本編の題にちょっと躊躇いがあったのだが、作者の今まで思っていたものとは違う側面、魅力を発見した気がする。オススメの一作だ。


氷結の森

2007-03-24 13:28:44 | 「カ行」の作家
熊谷達也著『氷結の森』集英社 2007.1.30 1,900円+tax

阿仁のマタギが樺太で群来(鰊の群れ)を追う!なぜマタギがそんなところで何をしている?
もう、この設定だけで本書に飛びついてしまった。

主人公、柴田矢一郎は秋田県の山間阿仁出身のマタギである。徴兵されロシアへ送り出される直前に見合い結婚させられた。
戦場は矢一郎のマタギとしての狩猟の腕が狙撃手としての才能を全面的に開花させた。
だが、矢一郎は人間をゲーム(獲物)として捉える自分の内なる冷酷なハンターとしての悦びの潜在意識に深い絶望感を抱いたのであった。
上官の強い慰留の勧めを押しのけ除隊し帰郷したのであったが、故郷で待ち受けていたいたのは許しがたい妻の不貞であった。
あろうことか妻は生まれてまもない赤ん坊を抱いていたのだ。不貞の相手が無二の親友であったことが彼を絶望の淵に追いやり離縁をせまったのだが、親友と妻は赤ん坊を道連れにし無理心中してしまった。
そのことを逆恨みした妻の弟は復讐を矢一郎に宣言する。そんな状況に心底うんざりした矢一郎は故郷をそして国をも捨てる覚悟ではるばる樺太の果てまで逃れてきたのであった。
矢一郎は定職にもつかず定住もしようとしなかった。上述の鰊漁や樵となって自らの肉体を敢えて酷使することに自虐的な満足を得ていた。
ある意味自分にふさわしい“死に場所”を求めて流離っていたとも言える。そんな北の果ての樺太まで義弟の追跡の影が見えた。
からくも義弟の放った散弾銃から逃れた矢一郎であったが更なる過酷な運命が待っていた。命の恩人ともいえる先住民ギリヤークの酋長の娘が矢一郎との関係で拉致され、凍結した海峡を渡って対岸のロシアの大陸まで連れ去られたらしい。
その後を追う矢一郎、そして更に彼を待ち受けていたのは「軍靴の響」であった。
果たして矢一郎は先住民の娘を連れ戻すことが出来るのであろうか?

ひさしぶりの一気読みとなった本編であるが、冒険小説好きな男性には非の打ち所の無い作品となっているが女性読者に言わしめるとある不満が残るのではないだろうか。
それは矢一郎を慕うふたりの女性の取り扱いだ。矢一郎がロシアの大陸まで渡ろうとした理由は先に述べた先住民の娘のためだけではない。
その前に強盗に襲われ瀕死の重傷を負った彼を献身的に介抱して世話をし更に金を貸してくれた鰊場のさる女性に借金を返す、というのがもうひとつの目的であった。
両方の女性から求められた矢一郎の判断、対応はいまひとつ釈然としないものがある。これはあくまでも男性の視点から描かれた嫌いがある。
だが、そんなツッコミを蹴散らすような緊迫感に満ちたストーリー展開で読者をぐいぐい引っ張ってラストへと突入する。

本編は先に上梓された『邂逅の森』『相克の森』に続く森三部作だそうであるが、『相克の森』をジャンプして本編を読んでしまった。
内容的には連続しているわけではなさそうだが、唯一今回『邂逅の森』で重要な役割を果たした“富山の薬売り”が再登場している。
機会があれば『相克の森』も読むつもりだ。
久々の冒険小説らしい冒険小説を読了した満足感と余韻を味わっている。

ギャングスター・レッスン

2007-02-22 00:05:47 | 「カ行」の作家
垣根涼介著『ギャングスター・レッスン』2007.2.15文庫化

本作は「ヒートアイランド」の続編である。またこの後の「サウダージ」とも関連している。
本編の主人公アキは「ヒートアイランド」では渋谷のチーマー百人以上を束ねて「地下格闘技」のエンタメ興業で活躍した若者である。
アキは渋谷での「事業」をたたみ、ぶらりと東南アジアへ旅立った。一年後、かの事件で知り合った犯罪プロの柿沢と桃井との約束「もし一年後に我々の仲間になるつもりがあれば会おう」のため東京に舞い戻って来たのだ。
柿沢たちは非合法の組織、ヤクザやマフィアそして裏金を選挙資金に当てる政治屋どもから金を強奪するプロの犯罪集団(といっても2,3名だが)だ。
いわゆる闇の世界で更にその上前をはねるという「猛禽類」の世界の住人たちだ。そのためには一切の自分の過去、現在のしがらみから一度抜かねばならない。もちろん親兄弟との縁も絶たねばならない。そのための“覚悟”を柿沢はアキに執拗に確認しようとする。
アキは迷うことなく彼らの仲間入りを決意したのであった。翌日からアキの裏の顔、身分を確保する作業に入るのであった。
先ずは他人の戸籍の入手。住民票を整えアパートを探す。表の勤務先を桃井の自動車修理会社にし銀行口座も開く。
身辺の整理をすると「仕事」に使用する車を購入、チューンアップ作業に入る。同時に日経、朝日といった新聞を毎日かかさず目を通し内容を把握する。警察から秘密に入手した犯罪組織の調書を読む。車のチューン完了後は試走に入り更に運転テクニックの特訓を桃井から受ける。時々柿沢が“勉強”の進捗具合をチェックにくる。
海外に飛び銃の取り扱い、シューティングの特訓も受ける。かくしてアキが一人前のギャングスターになる訓練が物語の大半を占める。予行演習と本番を迎えるのだがこれがまた面白い。
彼らは間違いなく犯罪者ではあるのだが、相手が相手だけに読み手側も一切罪の意識を感じることなく彼らを応援できるしくみになっている。
全編が軽いタッチで描かれ絶好のエンタメ小説となっている。お暇な方には是非おすすめしたい作品だ。
正直なところ文庫化されなければ読まなかったかも知れない・・・・

天使と罪の街

2006-11-18 20:21:03 | 「カ行」の作家
★10月に読んだ分の感想です★

マイクル・コナリー著『天使と罪の街 上・下』講談社文庫 2006.8.11 各648円+tax

多くのM・コナリーの読者は本書を「ハリー・ボッシュ」シリーズの一作として読むのかも知れない。
だがハリー・ボッシュシリーズを最初から読んでいない僕は「我が心臓の痛み」の元FBIプロファイラーであるテリー・マッケイレブの関連作品として読んだ。

本編はこのテリーが死亡したことを前提として成り立っており、彼の妻が夫の死の裏に犯罪の可能性を感じたことから、かって夫から幾度か言われていた「何かあったらボッシュに相談しろ」という言葉を思い出し彼に連絡したのであった。
このボッシュはケリーが生きていた時の前作『夜より暗き闇』で強烈な出会いをすることにあいなったのである。

本作でケリーの死因の調査を始めたボッシュであるが、この犯人と思しき人物が「詩人(ポエットと呼ばれる連続殺人犯」であることを突き止め真犯人の跡を追いはじめる。
一方、かって「詩人」に捜査を翻弄され、スキャンダルに巻き込まれたあげく左遷されたレチェル・ウォリング(FBI捜査官)も「詩人」を追っていた。
かくして下巻の巻末の訳者あとがきに書かれているように本作には「ザ・ポエット」というノン・シリーズ作品の結末をつけることにもなり、ますます著者の過去作品を読んだ読者でないと本作品の真の面白さは味わえない、といえるかも知れない。
だが本編は『我が心臓の痛み』と『夜より暗き闇』しか読んでいない読者をも十分に引き付ける魅力を持った作品に仕上がっている。

日本沈没第二部(その2)

2006-09-18 18:53:17 | 「カ行」の作家
感想の続きです。

日本人の「アイデンティティ」については国土があろうがなかろうが議論は可能であるが、国土が無くなった場合その核心がより鮮明になることは確かだ。
本作品中で中田首相と鳥飼外相とのあいだで日本人のアイデンティティについて論議が交わされる場面が有りなかなか興味深いものがある。

日本人が「祖国たる国土」を失った場合どのようにして日本人であることを保つことが出来るか?がテーマである、

国土を失って尚その固有の民族たりえる代表例としてユダヤ人があげられる。紀元前に自らの住んでいた土地を追われた彼らはその後イスラエルを奪還するに至るあいだ世界のあちこちに分散してユダヤ人でありつづけた。
この根本にあったのは「ユダヤ教」である。教義ばかりではなく社会生活、食べ物着るものも含めた全生活の規範がつくられ厳格に適用された。
ユダヤ人とはユダヤ教徒を意味する。

では一方の日本人にはそのような強烈な信仰があるのか?
答えは否。
日本人の宗教観として、もともと宗教に対しては寛容。だが保守的な一面もある。
世界的な普遍性を持つ大宗教が日本で布教に成功したためしはない。
仏教ですら原形から乖離しいわば「日本仏教」となっている。
神道との混在(廃仏希釈)が明治になって行われたがその後も容認されているといえる、と評される。
では何をもって日本人は精神的よりどころにしているのか?
それは「日本人の生活様式そのものが宗教である」と。

日本人の気質として「均質でありながら内部に別組織を抱え込み、ときには国家よりも帰属する組織の利益を優先する。
「均質化された社会で培われた日本の生活様式」の例として
『若いうちの苦労は買ってでもしろ』
『信頼を裏切るな』
『約束を違えるのは恥と思え』
などなど長い年月をかけた経験則、日本の中に根づいた社会規範となっている。

このことが日本人個人の力を最大限にもで引き出す要素となっているのだ。

そのためには日本人は日本人同士一緒に集まって住まねばならない。故に「非定住日本人の再編計画」が生まれたのであった。

一方、約30年前に読んだ「日本沈没」の中で政界の黒幕というか長老がつぶやいたセリフをうるおぼえで思い起こす。

『日本には世界に類をみない四季おりおりの自然があり、美しい国土がある。日本の独自な文化はそうしたものを背景に育まれたものであって、もしもこの美しい国土が奪われるのであればワシはこの国と運命を共にする。日本人はこのまま世界に放り出されて尚幸せに生きていくことはかなわない。この国とともどもに滅びたほうが幸せなのじゃ』

といったような気がする。真実はそうなのかも知れない。

この小説を読みながらふたたび「国家の品格」読んで思考したことを思い起こしておりました。




日本沈没第二部

2006-09-18 00:29:51 | 「カ行」の作家
読了してから一週間も経とうというのになかなか読書感想が書けない。それはこの小説が示唆するところがあまりにも多いせいかも知れない。
何度も書こうとするのだがなかなか的確な感想文にならないのだ。


日本が太平洋プレートに飲み込まれるように沈没してから25年後。数千万人の日本人が世界のあらゆる国へ地域へと逃れていった。
その後の日本人は一体どうなったであろうか、というテーマは約30年前の小松左京著「日本沈没」を読み終えてからず~っとこのかた考えさせられるテーマであった。
ひとつの国に数十万、数百万を超える異民族がある日突然流入したらその国の人々はどのように受け止めるであろうか。
大量の日本人が難民となって世界各地におしよせた結果、日本人が辿った艱難辛苦は筆舌に尽くしがたいものがあろう。またこの大量の日本人が受け入れ先の国に及ぼす経済的、政治的、文化的影響度というのも大いに問題となろう。
さらに日本人が入植した結果世界の天候異変が起こったとなれば、いやその因果関係がないとしても、日本人の立場は微妙なものとなる。小説は特にパプアニューギニアの入植を例に取りかなりのページを割いている。
一方、入植がうまくいかず反政府運動にまで発展する日本人入植者グループも存在し更に犯罪者集団化するグループも出てくる。

「異変」(生き残った日本人たちは列島沈没をこう表現する)から25年経った日本政府(海外に分散した形の国家を形成)は日本人のアイデンティティを保つ為に非定住日本人の再編計画をたてる。その方法としてかって日本列島が存在した近くの海域(再びの造山運動で隆起した一部岩礁を利用し)にメガロフロート(浮体式構造物)なるものを構築し、何百万、何千万単位で日本人を再び終結させ再度独自の国を形成しようというものであった。
当然こうした動きに対し鋭く立ちはだかろうとする国があった。果たしてその国とは?

また、このとき地球規模で寒冷化現象が現出しその原因が日本沈没の際に発生した大量の「成層圏エアロゾル」(火山性のチリ)によるものと思われた。
地球の将来的な天候をシュミレートする超高性能な演算ソフト「地球シュミレーター」による結果を日本は世界に向け公表しようとしたところ思わぬ反応が起きるのであった・・・・


とにかくこの小説で抱えるテーマが多岐に渡るためそのディテールを追いすぎたり逆にはしょったりしたため小説としてのバランスがくずれてしまった感がする。小説としてのエンターテイメント的側面から述べると旧カザフスタンで反政府ゲリラ活動をする日本人たちの戦いを掘り下げて表現するなりしたほうが面白かったかも知れない。

長くなりそうなので「日本沈没感想第一部」とさせていただきます(苦笑)


そして粛清の扉を

2006-09-03 17:09:46 | 「カ行」の作家
黒武洋著『そして粛清の扉を』新潮社 2001年1月

本の題名によっては「うむ、ちょっと読んでみようか」と思う作品がいくつかある。本作もその中のひとつだ。
だが生来ホラー・サスペンスというジャンルがあまり好きではないため手に取ることはなかった。先日たまたまB○○Kオフでみかけやはりこの“タイトル”のせいでとうとう手にした次第。
さて、本作は読み始めてすぐに「バトルロワイヤル」よりも質が低い作品ではないのか?と思わせる書き出しでちょっと前途が危ぶまれた。
「粛清」を始めた女教師のイメージと駆使する武器、技があまりにも現実から乖離しているのでは?と思い始めたのだ。だが、ここはちょっとがまん、どころか最後までがまんし続けなければならなかったのだが・・・・ま、最後にはある種のドンデン返しでちょっとは納得できるが充分な書き込みではない。

この作品を読んだ全国の教師、特にあまりに教育の場が荒んでいる環境で教鞭をとっている現職の教師の何割かは大いに“溜飲を下げる”思いで読んだかも知れない。
この作品では「よくもよくもこんなに酷い生徒を一クラスに集めたもんだ」と思われ、いかにも小説世界のお話だなとは思いながらも、こんな連中は確か周りにもいるよな、という現実感もあり
「更正なんて一かけらも望めない連中」の最適な判断は女教師の言うところの「緊急処置」でこの世から消えてしまうのが世の為人の為、最良の策である、と自分でも納得、同意しちゃうところが恐ろしい。
世間一般のモラル基準からいうと完全に逸脱してはいるものの、読者の心の中で大いに共感を呼ぶところに現代社会の病巣の根の深さが思い知らされた気がする一篇だ。


ゆりかごで眠れ

2006-04-30 17:53:01 | 「カ行」の作家
垣根涼介著『ゆりかごで眠れ』中央公論社 2006/04/10 1800+tax

この小説は『ワイルド・ソウル』に次ぐ垣根氏のフレンチ・ノワールならぬ「ラティーノ・ノワール」ともいうべき南米日系人の犯罪小説である。『ワイルド…』が過去の日本政府による移民政策のつけを徹底的にはらすという若干政治性を帯びた内容であったが、今回登場する日系コロンビア人リキ・コバヤシ・ガルシアの場合は新興コロンビア・マフィアのボスであり純粋に悪党である。
幼児期に移民した先のコロンビアの小さな村で両親とも極右勢力の準軍事部隊の兵士たちに惨殺され、現地人に引き取られがまたも襲われる。
やがて大都市のファベーラ(貧民窟)に逃れ育つのであるが多くのファベーラの少年達同様、成り上がるためにはギャング団の一員として犯罪に手を染めるしか方法はなかった。
ただこの日系の少年リキはずば抜けて頭が良かった点が他の少年たちとは違ったのだ。
いつしかリキは街でも有力なギャング団のボスとして君臨し、やがてカリ・カルテルやメデリン・カルテルの衰退に乗じ新興カルテルのボスの一角にまで登りつめたのであった。
だが、リキが他のコロンビア・マフィアと決定的に違うのはリキが決して部下を見捨てないこと、根底に「信」がある点であった。
したがって部下は盲目的にボスを信じて服従し絶対に裏切らない。だが万万が一リキを裏切った場合には彼等が生まれ育ったアンティオキア州の格言にある「愛は十倍に憎悪は百倍にして返せ」のとおり、本人はおろか家族親族に至るまで組織の報復を受けるのであった。
今回の日本へやってきた理由は部下のひとりが殺人容疑で逮捕され新宿北署に拘留されているのを奪還するのが目的であった。
リキはどんな場合でも部下を見殺しにはしないためだ。そのために本国からブローニングM2重機関銃、別名「肉斬り器(ミート・チョッパー)」と呼ばれる銃器で対人用に使われるとまさに別名通り人間などミンチ状にしてしまう物騒な代物を日本に持ち込んだ。
本々この重機関銃は主に敵陣地の破壊、航空機や軍用ヘリを撃ち落とすためのものだ。日本のヤクザはもちろん他の外国人犯罪者、組織が考えもつかぬ方法で部下を奪還しようというのだ。
ところで上述のような書き方をすると本編はマフィアの徹底的な暴力抗争のみを描いているように受け止められかねないが、ここに小さな女の子が登場する。
彼女はリキと共に来日するのであるがこの辺りの詳細は敢えて割愛する。この女の子の存在が極めて重要な意味を持ってくる。かっての米映画『レオン』と合い通じるものがあるのではないだろうか。

一方日本側での物語り進行上で悪徳デカとひとりの女性刑事が登場するのであるが、どの時点でどのようにリキと接点が交差するのかが見所である。
この妙子という女性が後半重要な存在として浮上するのであるが、ただひとつ残念なのはリキの人物造形がかなり緻密であるのに比べ、どうも彼女のキャラクター造りが不鮮明であること。特に「暗黒、虚無世界に惹かれて行く」過程が明らかではない。
全編を通して血なまぐさいストーリーでありながら何故か読後感が悲壮でないのは、登場人物がラテン系の人間たちであるせいなのだろうか。
『ワイルド…』でもそうであったが、垣根氏が描く日系日本人はカッコいい。彼が求める日本人主人公はもはや本国では“去勢された”男達だけで見当たらないのであろうか。
蛇足ながら過去どの作品にも必ず披露される垣根氏のカーマニアぶりはもちろん今回も健在で、「改造ランサー・エボリューション」が登場する。