うまく説明できないんですけど、予想してたほどどぎつくはないのに、
でも予想以上の緊張感と闇の深さ、冷たさを感じました。
誰にでも勧める映画じゃないですけど、わたしは驚いたよ。すごさに。いやはや。
とにかく、噂には聞いてたけど、すごい映画でした。
なんというか、アルモドバルが絶賛したというものもむべなるかな。
どダークで、ど鋭利で、どヘビー。どひゃー。
長山洋子の歌う昭和歌謡みたいな歌で、ピンクのふりふりのコスプレの女の子、
のトレーラーやチラシを見て予想して行ったら、まったく違う話で驚くでしょう。
これが上映された長編映画としてはデビュー作というこの監督。
すごい才能だなぁ。これからが楽しみすぎる。
お話は、3章立てになってる感じで、最初の章「世界」は
病気で13歳まで生きられないかもしれない女の子と、その父親の話が中心。
娘は、日本のアニメが大好きで、その魔法少女のドレスが欲しいけど
失業中の父親にはとても買えない高価なデザイナーズオリジナルで・・・
2章目「悪魔」は、その父親がバルバラというどこか病んだ謎のある女性と関わり、
お金を手に入れるために、危ない方向へと。
3章目「肉」は、過去にバルバラの教師だったダミアンが関わることで、
少女と父親の運命は・・・。
(2章目と3章目の分かれ目はうろおぼえですが)
先が読めないとか、斜め上の展開とか言われてるけどそこだけじゃなくて、
全部ストーリーを知っていても、このすごさは変わらないと思う。
でもまあ、お話の展開にもびっくりするので今回はネタバレには注意して書こう。
全体のトーンですが、どこかリアリティの歪んだような、妙な雰囲気なんだけど、
とにかくずっと、緊張感があります。どこかこわい、ひやっと陰鬱な空気の。
それでいながら美しい画面で、ものすごく陰惨で残酷な内容は示唆されるものの、
映像としてはバイオレンス的な痛さはなく、端正でスタイリッシュ。
むしろそのすっぽりとした省略が、より暗く深くおそろしい。
最初の章は父と娘の、ちょっとハートウォーミングっぽい内容に見えるけど、
そういうシーンでさえ、どこかひんやり尖ってる。
父と娘の会話で、娘がタバコを吸ってみたいとか、お酒を飲んでみたいとか言うと、
父親は少し考えてから、娘に与えるのですが、最初に娘の病気のことを知らないと、
変な親子に見えますね。でも病気で余命わずかだということで、
父親が娘をとても愛していることがわかります。
ラジオも効果的に使われてて、娘のけなげさに泣かされるシーンがあります。
でも、そういうシーンでさえ何か不穏な感じが常にあるんです。どこか寒々として。
そこへバルバラの登場で、一気に緊張と先の見えなさがが高まります。
バルバラは美人でスタイルが良く、彼女の服のミニマルな着こなしは
わたしの好みなんだけど、どこか病んでいて、抑圧された感じや、
いびつなストイックさや底知れない闇があって、
やっぱり怖くて居心地悪い感じがするのです。
そして彼女とその裕福な夫、この二人の関係も、しっかり歪んでいる感満載。
関係だけでなくバルバラの夫自身も、ちょっと普通じゃないっぽいんですが、
そしてそれは彼女との生活の中でいろいろあったのだろうと想像させます。
そしてバルバラの行動からうっすらと見える彼女の謎の過去。
この辺の見せない、語らない、わからせない演出がすごく大きくて、
大きいのに過不足なくて、いやぁ計算されてるなぁ、そのうまさに舌をまきます。
思わせぶりに陥らず、観客を煙に巻きながら、観客の想像力を思うがままに操つる。
すっかり操られたわ~。
俳優たちも、すごくいい。
娘は治療のためか髪がベリーショートなんですが、
それはチャーミングでかわいいんだけど、
チラシとかにある、ひらひらドレスを着た姿で、こちらを睨みつける表情は、
ラストで非常に印象的に出てくるんですが、
このなんだか得体の知れない無垢さが素晴らしい。彼女も演出も。
一番普通の人っぽいのは父親だけど、やることはドンドン外れていくし、
スペイン映画に時々ある、出てくる人がみんな
ちょっと過剰だったり欠落を持ってたりいびつな感じ、
あれを遺憾なく発揮してる映画ですね。