sigh of relief

くたくたな1日を今日も生き延びて
冷たいシャンパンとチーズと生ハム、
届いた本と手紙に気持ちが緩む、
感じ。

映画:おみおくりの作法

2015-10-20 | 映画


完璧に抑制の効いた、地味で渋い映画ながら、ものすごくじわじわ静かに染み入る。
特に緊張感やメリハリがあるわけでもないのに、
全く退屈せずに見入ってしまいました。
静かで孤独で、だけど豊かな世界が描かれています。

「おくりびと」的な感動ものかなと思ったけど、そういうのでもない、
作為もあざとさも、どうだ!というところもない、
しみじみと素晴らしい映画。

主人公は44歳男性。
44歳にしては老けてる?というか地味です。
役所の民生課みたいなところで、亡くなった人の身寄りを探し
お葬式を出すまでが彼の仕事。
彼の仕事は丁寧で、死んだ人の少しの手がかりから知り合いや身内を探しだす。
誰もいなかった場合や、いても葬儀に来ない場合には、彼一人が参列する。
亡くなった人の写真や遺品から、お葬式に流すその人にぴったりな音楽を選び、
神父さんなどに読まれる弔辞を丁寧に書く。
~~さんは戦後平和になった1945年に生まれ・・・
~年のひとり娘の誕生には心踊らせ・・・
フラメンコにも情熱を燃やし・・・
晩年は猫のスージーを慈しんで・・・
あったこともない人の人生の断片から、読まれるべき事柄を探し出し、
誠実に言葉を作る。
たとえ誰も聞かない言葉でも、よく調べて、丁寧に作る。
誠実で無口な独身男で、家族もなく友達もなく、趣味も特になく、
天涯孤独な様子で、生活も規則正しく、
家の中に物は少なく、きれいに整理整頓されている。
一緒に住んだら退屈しそうだけど、誠実とはこの人のための言葉と思える人。
そんな彼に退職勧告がきます。彼の仕事は丁寧すぎるので、
効率化のために仕事を事務的にどんどん処理できる人を雇うことになったのでした。
それを受け入れるしかない彼は最後の仕事にとりかかるのだけど、
その相手は、自分の向かいのアパートの男性で、やはり会ったこともない人だけど、
いつも以上に、遠くまで出かけ歩き回って調べるうちに・・・。

でも中心になる最後のこの案件の話以上に、
主人公が亡くなった人について調べ物をする様子から浮かび上がる
亡くなった人たちの人生の断片が、とても良いのです。
「二人はいつも並んで静かにベンチに座ってた。
 ほしいのはそれだろう?黙って寄り添える相手だ。」
というのは、死んだ人と一緒に物乞いをしてた酔っ払いのセリフ。

さて、主人公は調査が終わり、葬式などの手配も全て終わった案件のファイルから
亡くなった人の写真を、そっと家に持って帰ります。
自分の調査した亡くなった人の写真を貼っている
個人的なアルバムを(おそらくこっそり)作っているのです。
これは無口で表情の変化もない、家に帰っても趣味もないこの地味な男性が、
実は豊かな感性と共感力を持っていることを示しているのでしょうね。
亡くなった人の人生の断片を集めるうちに、会ったこともない人
ひとりずつの人生が、それぞれちゃんとリアルであったことを感じ、
その重みを尊重せずにいられない主人公。
先日読んだ→ミランダ・ジュライ「あなたを選んでくれるもの」に通じるところがある。
本の中に、見も知らない他人のアルバムを集める女性のインタビューが出てきて、
その共通点が興味深いです。

ラストは、ちょっと衝撃。でもうまい。うまいなぁ。
湧き出る感動の涙じゃなく、
悲しいのかなんなのかわからない涙が、じわっと滲み出る映画。
こんな地味な映画で、すごい緊張感や、展開の激しさがあるわけでもないのに
そういうドラマよりよっっぽど目を離せないで見てしまった。
おしゃれやセンスの問題と離れたところで、本当にいい、好きな映画。


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