sigh of relief

くたくたな1日を今日も生き延びて
冷たいシャンパンとチーズと生ハム、
届いた本と手紙に気持ちが緩む、
感じ。

映画:椿の庭

2021-08-19 | 映画


写真家、上田義彦の初監督映画。
上田義彦は基本的には広告カメラマンなので、いわゆる写真家の話をするときに
あまり出てこないような人だけど私は好き。
サントリーのウーロン茶のCMなどは有名ですね。

上田義彦のライカで撮った家族の写真集(妻は霧島カレン)に涙が出たことは前に書いた。
→「at Home」
以前知り合いのカメラマンが、東京にいたとき上田義彦と一緒に仕事したことがある人で、
こんな写真集作ってるけど家庭なんか壊れてぼろぼろやで、こいつ、と言ってて、
そういう世界なのかもしれないけど、写真集を見る限りはやっぱりこれも嘘ではないと思う。

彼の写真集は何冊か持ってるけど、印象的なのはインドの写真集。
インドなんだけど湿度がない感じで淡くきれいなインド。
全ての写真が全部アウトフォーカスでぼんやりとした色のかたまりになってるんです。
インドということはわかるんだけど、優しくミルキーな透明感があって
こんなインド見たことない。これは多分嘘のインドだけど、好きな写真集です。

と、写真のことはさておき、映画ですが、全体にゆったりしてます。
写真家が撮ったのがよくわかる、写真的な奥行きと時間の流れが残ってて、
音や動きを、とても丁寧に追ってるのも、逆に写真家らしい。
映画撮るの幸せだったろうなと思う。
庭の草木や家の中のどのシーンも風情があってしっとりと美しいのですが
それに負けないくらい、きれいなのが富士純子。きれいできれいできれいできれい!
「細雪」の岸恵子に連なる、着物姿の美しさですが(ちなみに着物は全部私物だそうです。さすが!)
美人が歳をとってもきれいとかいうレベルではなく
今のこのおばあさんの富士純子をそのままずっと保存しておきたいくらい、今がきれい。
こんなきれいなおばあさん見たことないというほどのきれいさ。
娘役の鈴木京香の少しハイカラな感じもいいけど
孫娘役のシム・ウンギョンはもう少し若い少女の方が良かったかなとわたしは思う。
元は10代の少女を想定していたのが、シム・ウンギョンがすごくいいので替えたとのことで
確かにとてもいいんだけど、20代半ばに見える彼女の役は
まだ人生が決まってないこれからの若い人にしては少し違和感があったのです。
とはいえ、3世代の女3人のいる景色は優しく美しく夢のようなので文句はありません。

お話は、幸せな結婚をしていた富士純子の夫が亡くなり、その相続問題で
長年親しんで愛してきた家を売らないといけなことになり…
まあお話はもうどうでもいいのです。
ひたすらディテールを愛でて見ているうちに
ぼんやりと時間や記憶や喪失を感じることのできる映画、かな。