sigh of relief

くたくたな1日を今日も生き延びて
冷たいシャンパンとチーズと生ハム、
届いた本と手紙に気持ちが緩む、
感じ。

映画:アンモナイトの目覚め

2021-08-17 | 映画


「孤独の中に埋もれた自分を発掘していく、女たちの物語」という公式サイトの言葉は
中々うまいと思う。埋もれた自分を発掘して新しい関係を積み重ねていこうとする女たち。

女性の社会的活躍などあり得なかった時代の話。
主人公のメアリー・ウィニング(1799-1847)は13歳のときに世界的発見となった化石を発掘し
その後も独学で多くの化石を発掘したものの、彼女の功績としてはあまり知られることなく
観光土産の化石採集をして生計を立てていた実在の女性がモデル。
1840年代、イギリス南西部の海辺の町ライム・レジスで、世間とのつながりを絶ち暮らす人嫌いの古生物学者メアリー・アニング。かつて彼女の発掘した化石は大発見として一世を風靡し、大英博物館に展示されるに至ったが、女性であるメアリーの名はすぐに忘れ去られ、今は観光客の土産物用アンモナイトを探しては細々と生計をたてている。そんな彼女はある日、裕福な化石収集家の妻シャーロットを数週間預かることとなる。美しく可憐で奔放、何もかもが正反対のシャーロットに苛立ち、冷たく突き放すメアリー。だがメアリーは、自分とはあまりに違うシャーロットに惹かれる気持ちをどうすることもできない。そしてシャーロットの存在が、次第に、メアリーが頑なに心の奥底に隠していた恐れや秘密、そして彼女自身も知らなかった本当の想いをつまびらかにしていくが――。(公式サイト)

映画好きやフェミニズムに関心のある人たちの間で評判だった映画で
今これが作られて見られる意味のある映画だし、とても美しい作品で
ヒロイン二人の演技も素晴らしく文句のつけようがない映画だけど
少し前に見た「燃ゆる女の肖像」とどうしても比べてしまう。
「燃ゆる女の肖像」は見合い用の肖像画を頼まれた画家と
見合いも結婚も興味がない令嬢との話だけど
どちらも抑圧された時代の女性同士で、出会いのよそよそしさから
少しずつ距離が縮まり理解を深める過程などかなり似通っています。
どっちがより好きかと言われると迷うなぁ。

アンモナイトの方は、より二人の気持ちの流れにフォーカスしてあって、
他の部分の陰影が匂わせくらいで終わってるのがちょっともったいないかな。
主役二人の過去や心の傷などもほぼ描いてないし(特にシアーシャの人物造形が全然足りない)
母親も医師も女友達?も、みんないろいろ抱えてそうなのになぁ。
裕福な男の妻であるシアーシャが流産後の鬱症状にある描写も
説明が足りないので予備知識なく見るとよくわからないままだった人もいた。
シアーシャの結婚観や夫との関係などもほとんど書かれていなくて
恵まれた生活でも女性として傷ついたり抑圧されたりした過去などを
少し描いてあるとわかりやすいのにな。
流産する前の彼女が明るくいつも笑っている女性だったと夫が言うシーンがあって
では、流産がなければ彼女は幸せな上流夫人でしかなかったのかな?と思うし
後半メアリーと愛し合うようになった後の無邪気な感じ、
自立を模索するのではなくぬくぬくと裕福な妻のまま
メアリーも一緒に住もうなどと言うところの生ぬるさも、なんだそれだけの女かと思わせる。
「燃ゆる女の肖像」では、裕福な令嬢ながら自分がそこから抜け出せないことを自覚して
受け入れつつ、その中でも大事なものを失わず生きていこうとする女性が描かれてたけど
シアーシャはあまりに美しく儚げで無自覚でふわふわとしすぎて、
メアリーのような女性に愛されるに足る女なのか?と不思議に思ったりもする。
シアーシャは目が透き通ってきれいで、それがまたこういう儚げで無自覚で
良くも悪くも子供のように純粋な女の役に合ってます。
「ブルックリン」「レディバード」ではドタドタした女に見えたのに
ケイト・ウィンスレットといるとものすごく華奢で儚げに見える。

一方、もう一人のヒロイン、メアリーを演じるケイト・ウィンスレットは
もっと地に足がついてて、世界に叩きのめされ続けてきてて、甘い夢など決して見ない。
相変わらず骨太でどっしりしていて
疲れて偏屈な中年女になって世間に心を閉ざしている役に、ものすごくぴったり。
シアーシャもケイトも、このキャスティングは素晴らしいです。

映画に関係ないけど、このどすこい系の中年女のケイトウィンスレットのたくましい背中の後で
ヴォーグの表紙にでてる彼女を見ると、女優ってすごいなぁと思いますね。
役とのギャップを誇示するかのように完璧な美貌を見せつけている。
ケイト・ウィンスレットは元々とにかく骨が太いのよね。骨太。
これで顔がガサツだったらすごく上手いバイプレーヤーになれただろうけど、
顔が綺麗すぎてヒロインにしかなれなかった。
で、あの骨太の頑丈な体で悲劇のヒロインをやってきたことを思うとすごいな、偉いなと思う。