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とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

35 聖本体

2015-07-04 00:05:21 | 日記


エドワード・バーン=ジョーンズ「三美神」(ヴァーチャル絵画館)

 よくぞこの森に来られました。私たちは、心より歓迎いたします。森の樹々のそれぞれ一員となった私と花りんは、姫神の歓迎の言葉を厳粛な気持ちで傾聴していました。

 「ところで新樹よ、・・・分かりますか ? 貴方のことですよ」

 「えっ、私は電信柱です」

 「はははっ、姿を霧の鏡に写してみるがよい。すっかり樹になっている」

 霧の鏡 ? 私は目の前の靄のようなものを見つめました。すると、電線がなくなった一本の大樹が立っていました。これが、私 ? 私の自分の姿を見て、驚きました。

 「やっと分かったようですね。・・・では、改めて新樹に尋ねます。貴方と関わった3人の女性は今は立派な神となられました。三美神にも匹敵する立派な女神です。いずれ私と力を併せて世のために聖なる行を行います。最初の行は、私の指示に従って、貴方たち親子の新樹を大きく育てることです。次は、新たな樹を産み育てることです」

 「姫神様、ここの聖なる森で生きることだけでもありがたい。その上、私たちに何をなさるのですか ?」

「ははっ、それは生長するにつれて分かります」

 「まさか人間にするという・・・」

 「はははっ、そうだったらどうします」

 「お断りいたします」

 「ははっ、・・・いずれ分かります」



 姫神は、夜が更けるにつれて目をつむり、そして、木の葉のベッドの上に横たわりました。そして、次第に裸身になりました。それから、どこからともなく姫神の声が聞こえてきました。

 「神は庥むときは、もともとの姿に返ります。・・・意識は働いています。貴方の心の奥底の動きをじっと見ています。・・・ははっ、私の裸身を雑念をもって見つめていますね。よく分かります。しかし、その雑念があるかぎり貴方は転生しません。よろしいですか。意味が分かりましたか ?」

 「ええっ、・・・ど、どう答えていいか・・・」

 「まあ、今日はよろしい。貴方もお休みなさい。花りんも・・・」

 私は、どっと疲れを感じ、催眠術でもかけられたように眠くなりました。花りんも恐らくそうだと思いました。


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